第五十九話 擬態
《プラントガルム3体と遭遇 神崎ペア 折倉班 交戦開始》
岩陰から飛び出してきた犬に、雪理と坂下さんは率先して向かっていこうとする――しかし。
「雪理、坂下さん、左右に散開してくれ!」
「っ……!」
「――了解しましたっ!」
俺とプラントガルムでは、速さのステータスに大きな差がある。集中すれば動きは非常に遅く見えるが――一人で吹き飛ばしてしまうよりは、仲間たちに奴らの攻略法を教えておきたい。
まず『生命探知』で三体の犬を見る――それらは三体とも『違って』見える。生命反応の強い場所が、犬と背中に生えた植物のどちらかに分かれているのだ。
《神崎玲人が強化魔法スキル『マルチプルルーン』を発動》
《神崎玲人が弱体魔法スキル『スロウルーン』を発動》
スロウルーンの対象を三体に拡張して低速化する。動いている的を狙うのは難しいが、ここまで遅くなれば狙撃の難易度が大きく下がる。
「唐沢は奥の一体、黒栖さんは手前のどちらか、犬の背中に生えてる植物を狙ってくれ!」
「了解……っ!」
「い、いきますっ……! 『ブラックハンド』!」
《唐沢直正が射撃スキル『スナイプショット』を発動》
《黒栖恋詠が攻撃魔法スキル『ブラックハンド』を発動》
唐沢の放った一撃は、正確にプラントガルムの背中の植物を射抜く――黒栖さんもよく狙ってくれたが、植物ではなく犬の胴体に命中した。
「っ……すみません、外して……っ」
「大丈夫だ! 雪理、坂下さん、犬の方を攻撃してくれ!」
「――はぁぁぁっ!」
「ふっ!」
《折倉雪理が剣術スキル『ファストレイド』を発動》
《坂下揺子が格闘術スキル『輝閃蹴』を発動》
「「ギャウンッ……!!」」
手前の二体は、犬のほうに生命反応があった――つまり『プラントガルム』は、植物と犬のどちらかが本体で、片方は擬態した部分でしかない。
Fランク相応の強さなので、弱体化をかければそこまで手強くはない。だが植物の方が本体であった場合、厄介な特殊攻撃を使ってくる。
「玲人、まだあの植物が動いてる……っ」
「お嬢様、私がとどめを刺します!」
「――二人とも、待ってくれ! 今攻めると反撃が来る!」
唐沢が撃ってダメージを与えたかに見えた、奥の一体――犬の背中に生えていた植物は千切れ飛んでいたが、何本もの蔦を伸ばして地面から浮き上がり、まるで手のように伸ばした蔦から牙の生えた葉を展開する。
《プラントガルムが攻撃スキル『デビルリーフ』を発動》
「っ……意外に速いわね、植物なのに……っ」
雪理に向かって、牙のついた葉が迫る――しかし『スロウルーン』が効いていれば、かわせないスピードではない。
「食虫植物ならぬ、食人植物ということか……」
「一度攻撃しただけじゃ絶対に倒せないんだ。だから、倒したと思って近づくと痛い目に遭う……俺の魔法でも一回は必ず耐える」
「玲人の魔法に耐えるなんて……レッサーデーモンでも一撃で倒してしまうのに」
「まあ、形態が変化したあとは近づかずに倒すだけだ」
《神崎玲人が攻撃魔法スキル『フレイムルーン』を発動 即時発動》
かざした手の先に浮かび上がった呪紋から、炎弾が放たれる。プラントガルムの本体だった植物は一気に燃え上がり、ドロップした魔石の欠片が地面に転がる。
「――きゃぁぁぁっ!」
先行した伊那班の班員の声が聞こえてくる――やはり『プラントガルム』の罠にかかってしまったらしい。
「玲人、急ぎましょう」
「ああ……向こうが誘ったからには、対処できると思ったんだけどな」
「彼女たちも、この
「――玲人さん、あそこですっ!」
生命探知で察知はしていたが、『転身』すると暗いところでも視界が効くようになるらしく、黒栖さんが知らせてくれる。
《プラントガルムが『デビルリーフ』を発動中
《プラントガルムが『デビルリーフ』を発動中
考えうる限り最悪の事態――『プラントガルム』は一体倒されているが、残りの二体が両方とも『植物本体型』だった。
『デビルリーフ』を受けて、伊那班の二人が拘束されている。人質を取られたような状態だが、伊那さんはプラントガルムの本体を狙って技を繰り出す――仲間を救出するために、視野が狭くなってしまっている。
「二人を離しなさい、化け物っ……!」
《伊那
雷をまとった三節棍――しかし植物の敵には打撃が通りづらく、さらには蔦を張って地面に接地しているプラントガルムには、雷属性が通じない。
「……私の技が効いてない……嘘……嘘よ、そんなっ……」
《プラントガルムが攻撃スキル『デビルリーフ』を発動》
《プラントガルムが攻撃スキル『デビルリーフ』を発動》
「あ……あぁぁぁぁっ……!!」
二体の魔物が同時に拘束スキルを使う――伊那班の三人を前に出されている状態で、容易に手を出せない。
「いけない、このままだと三人が……」
「しかしお嬢様、魔物は三人を盾にしています。三人を解放しなければ、攻撃するわけには……っ」
「神崎、このままではまずい。伊那班は僕らの助力を求めてはいないだろうが、それでも介入せざるを得ない」
俺たちを挑発して、先行して迷宮に突っ込んでいって、捕まって――それで助けられるというのは、確かにプライドが傷つくだろう。
だが、そんなことは気にしていられない。訓練用の
「みんなは少し見ててくれ。やり方としては邪道だが、俺にとっては安全な方法だ」
俺はプラントガルム二体に近づいていく――時間が経つほど展開された蔦が増えて、とてもFランクとは思えない様相だ。
「……神崎、君……逃げ……て……」
「こいつらは……強い……Fランク、なんかじゃ……」
捕まっている社と木瀬の二人が、俺に警告する。伊那さんは口を蔦で塞がれ、話すことのできる状態にない。
歯車が噛み合わなければ、格下の魔物も侮れない存在になる。《AB》では安全マージンを取りすぎるくらいに取って、リスクのない戦闘を心がけていた。
だが、今はそんな次元の話じゃない。これくらいの
牙の生えた葉がガチガチと鳴る――俺を威嚇するかのように。
「――来い」
洞窟の地面から天井まで展開された蔦が、一斉に俺に襲いかかる。逃げ場はないとでも言わんばかりだ。
結論から言えば、逃げる必要はない。Fランクの魔物では、どんな手を使ったとしても俺を殺せる術を持たないのだから。
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