第三十九話 記憶
自分の限界を思い出す。魔神を一人で倒すことなんて、到底できることじゃなかった。
こんなところで、魔神の眷属クラスの魔物と遭遇することになると想像もしていなかった。『特異現出』という現象が
――そんな俺をあざ笑うように、『領界』の外殻表面に何かが映し出される。
『――お願い、稲穂を放して! 私が代わりになるからっ!』
『駄目、英愛ちゃんっ……私が行くからっ、私なんてどうなってもいいからっ……!』
『し、死にたくない……嫌っ……ここから出して……出してぇぇっ!』
『こんなの嫌ぁぁっ、まだしたいことだっていっぱいあるのに、あぁぁぁぁっ!』
思い出したくない、その一心で、人は忘れたいことを忘れることができる。
『アストラルボーダー』で死んだプレイヤーたちも、多くは無念と怨嗟の言葉を残して倒れていった。
――嫌だ、死にたくない。こんなはずじゃなかった……!
――ログアウトするだけだよな、本当に死ぬなんで嘘だよな……?
――これが運命だって言うなら……神様を殺してやりたい。
「うっ……あ……あぁっ……!」
頭が割れるような痛みが走る。自分がどこに立っているのかも分からなくなる。
死と共にバイタルは停止し、キャラクターは灰色になる。それが現実での死を意味しない可能性があると、何度も自殺を考え、そして思いとどまった。
ログアウトできないままに時間が過ぎることを恐れていた。一年も経ってしまったときには、いつ現実の身体が壊れるのかということを恐れ、二年経ったときにはそれを考えないようになり、三年経ったときには、もはや諦めの域に達していた。
最後に残ったのは、意地だけだった。仲間と共に、『アストラルボーダー』を作った人間に復讐する。そのために生きてゲームを終わらせたいと願った。
自分が何故ここにいるのか、何をすべきなのか。この世界に順応できればそれでいいと思い始めている部分があった――だが、それだけでいいはずがない。
『稲穂っ、嫌っ、目を覚まして……稲穂っ……助けて……誰か稲穂を……っ、きゃぁぁっ……!』
『紗鳥ちゃんっ……紗鳥ちゃんを放してっ……あぁっ……!』
領界の内側の光景なのだろう、全てが赤黒く染まった空間に、悪魔としか言いようのない姿の黒い巨人が鎮座している。生徒の一人ひとりから精気を吸い、英愛の友達が捕まっている。
(ここで俺は何をしてる……領界を破れない、どうしようもない、そう諦めて……また、誰も救えないままで……っ)
目の前で人が死ぬたびに、無力を味わった。自分という存在に価値はなく、パーティの仲間がいてやっと呼吸をしていられる――そう思ったこともあった。
「……俺は……今も、まだ……」
『――助けて、お兄ちゃんっ……!』
英愛が俺を呼んでいる。俺は、そこに行かなきゃならない。
この灰色の外殻を破る力は、俺にはない――魔法のレベルを限界まで上げても無理なのだから、どうしようもない。
しかし、その『どうしようもない』を重ねるたびに、心から願った。
「――超える。今の俺なら、超えられる」
《神崎玲人様の固有スキル『レベル限界+30』を確認しました》
《神崎玲人様の固有スキル『スキル限界+3』を確認しました》
死の間際に聞こえてきた声。その一部が思い出される――この状況を打開するための希望は、俺の記憶にしかない。
《神崎玲人様の自己記憶を参照し、独自に能力値の参照が可能となりました》
イズミが俺の記憶から、ステータスをサルベージしてくれた――それが完全なものかは分からなくても『鍵』にはなる。
《――能力値を参照しますか?》
「ああ。教えてくれ……俺が、何者なのかを」
《神崎玲人様、あなたは私の主人です。まず、何よりもそれをお忘れなきように》
分かっているのかいないのか――イズミなら、俺の意図は分かってくれていて、あえてそんなことを言ってくれているのだろう。
頭の中に流れ込んでくる、文字と数字の羅列。それは今の俺に何ができるのか、その可能性を教えてくれていた。
神崎玲人 男 レベル:130/230
職業:
体力:7480/7500
オーラ:35200/36000
筋力:221(D)
体力:351(C)
教養:1251(A)
精神:1202(A)
魔力:1301(A)
速さ:752(B)
魅力:352(C)
幸運:151(E)
通常スキル
強化魔法 LV8/13
弱体魔法 LV1/13
特殊魔法 LV7/10
攻撃魔法 LV6/10
回復魔法 LV8/8
格闘マスタリー LV1/8
ロッドマスタリー LV1/13
軽装備マスタリー LV1/8
高速詠唱 L∨1/5
魔法抽出 LV1/5
呪紋付与 L∨1/13
生命付与 LV1/5
魔力効率化 LV1/5
生命探知
魔力探知
鑑定 LV1/5
固有スキル
レベル限界+30
スキル限界+3
魔神討伐者
呪紋創生
残りスキルポイント:706
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