第三十六話 二属性攻撃
ランスワイバーンにある程度ダメージを蓄積させると、空中からの無差別攻撃を始める。飛行する魔物が地上に降りることをしない、『ハメ』と言われてもおかしくない状況だ。
《ランスワイバーンが特殊魔法スキル『インジェクション』を発動》
ブレスの威力を倍増させ、攻撃範囲を広げるスキル。しかし次回の行動が確定するため、
こちらも迎撃の準備をすることができる。
先手を取らない理由は一つ。さすがにどれだけ威力を高めても、呪紋師の魔法ではあの装甲を貫通できない――『呪紋創生』ならあるいはと思うが、ランスワイバーンに対する射撃攻撃は本来
バギーに搭載されていた機関銃は全く通用しなかっただろう。ロケットランチャー、あるいはミサイルですら射撃攻撃は通じないだろう、そう思えるほどの反則的な能力を持っている。
《ランスワイバーンが固有スキル『スカイフォートレス』を発動》
ワイバーンが持つ鱗の防御力をさらに強化する、鎧のような装甲。その性能は『あらゆる投射攻撃を倍撃で反射する』というものだ。
「――グォォォ……ォォォッ……!」
――しかし『ランスエアレイド』を
だが、それではランスワイバーンを落とすことはできない。自分の攻撃を反射され続けて落ちるというような行動は取らないからだ。倒されるくらいなら逃げる、魔物はそんな選択も容赦なく取って、プレイヤーの心を削る。
「――無茶です、逃げてくださいっ!」
「この辺り一帯が燃やされるぞ……っ、逃げろっ、奴はもう溜めを終えてる!」
『呪紋創生』を使えるようになっていなければ、俺も相手をしようと思ってはいなかっただろうが――今は時間をかけずに落とせる。
「あいつ……っ、あの状況でどれだけ……っ」
「――撃ってこい。俺は逃げたりはしない」
「――ゴォァァァァァァッ!」
《ランスワイバーンが攻撃魔法スキル『フレイムランス』を発動》
口から放たれるブレスは魔法――
その炎の槍は、竜の口から放たれるや否や、炎属性の魔力で質量を増大させる。本体の槍から小さな槍が分裂し、広範囲に広がる――地面に突き刺さればそれぞれ爆砕し、辺り一帯を焼き尽くすだろう。
《神崎玲人の『強化魔法』スキルが上位覚醒》
《神崎玲人が未登録のスキルを発動》
先ほど物理攻撃を反射する『カウンターサークル』を使ったが、本来呪紋師は魔法攻撃に対する防御・反撃に特化している。
特殊魔法スキルレベル5『アブソーブサークル』。本来なら一つの魔法を対象にして、魔力に変換して吸収し、ダメージを軽減するというスキル。そこに強化魔法スキル『エクステンドルーン』を合成して、範囲を拡大させる。ばらけた炎の槍はダメージが低いため、全て吸収されて消失していく。
そして炎の槍の本体を受け止めるために使うのは、強化魔法スキルレベル8『ライトハンドルーン』――呪紋師本人が魔法を受け止めるためのルーンだ。
右の手のひらに呪紋が浮かび上がり、炎の槍を受け止める。このままではダメージが減殺されるだけで、レベル8相当の効果ではない――しかし。
『アブソーブサークル』で吸収した炎属性の魔力、そして今受け止めた炎属性の魔力。それらすべてを、左手から放つ攻撃呪紋と共に、相手に返すことができる。
「――
《神崎玲人が攻撃魔法スキル『フリージングデルタ』を発動》
左手の前方に三角形の紋様が現れ、『フレイムランス』の炎のオーラをまとい、回転しながら飛んでいく。ワイバーンが反応する前に急激に加速し、それは弾丸のようにワイバーンの身体を射抜いた。
反射した『フレイムランス』だけではランスワイバーンは倒せない。だが『フレイムランス』と共に俺の魔法を相乗させて返してやれば、どうなるか。
《二属性混合攻撃によりランスワイバーンの特殊装甲を貫通》
「――グォ……ォォッ……」
『ライトハンドルーン』の効果で攻撃を受けきれなければ、余剰のダメージを受けることになる。しかし俺の制服は焦げることすらなく、手に火傷を負うこともなかった。
《災害指定個体を討伐》
《【焦熱の槍竜】ランスワイバーン ランクC 討伐者:神崎玲人》
《ユニークモンスターの討伐称号を取得しました》
《神崎玲人様が5000EXPを取得、報酬が算定されました》
ランスワイバーンが落下する――その巨体は地面に落ちる前に消失し、魔石と幾つかのドロップ品が散らばりかかるが、物を引き寄せる『キネシスルーン』を使って引き寄せ、回収する。
《『炎熱のルビー』を1個取得しました》
《『翼竜のひげ』を2個取得しました》
《『翼竜のエキス』を3個取得しました》
《『竜骨石中』を3個取得しました》
《『ランスワイバーンの魔石』を1個取得しました》
ランスワイバーンは倒すときに特殊条件を満たしやすく、魔石をほぼ確実に落とす。他の収穫も大きいが、今は先にやらなければいけないことがある。
「すみません、俺はもう行かないと。特異領域が消えていないので、気をつけてください」
「本当にありがとう……こんなに強いのに、まだ学生だなんて……」
「大したもんだ……俺は朱鷺崎駐屯地の討伐隊に所属する
「俺は風峰学園の神崎玲人です。その人に、お大事にと伝えてください」
《神崎玲人が『ヒールルーン』を発動 即時遠隔発動》
「っ……あなた、回復スキルまで……凄い、出雲さんのバイタルが……っ」
「これほどの人物がまだ学生とは……神崎、君は一体……」
「困った時はお互い様です。じゃあ、俺はこれで」
「ええ、気をつけて……っ」
「この先では他の部隊も戦ってる! ワイバーンよりも強力な個体がいる可能性がある、用心してくれ!」
風峰学園附属中学の上空は、未だに黒い渦に覆われている――巨大なものはないが、規模の小さいものが幾つも見える。
魔物が群れで学校を襲っている――遠くからでも響く銃声と、攻撃魔法スキルの衝撃音の中で、俺は『スピードルーン』を使って道路を駆けていった。
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