第三十二話 スキル実技
夜が明けて、俺は妹たちを学校に送っていき、その後で風峰学園高等部に向かった。
「聞いた? 昨日の警報、まだ解除されてないんだって」
「うちにも親戚が避難に来てたよ、まだ帰れないって言ってた」
「Hランクの魔物だったら、誰でも倒せるくらいのもんだろ」
「魔物は魔物だから、家にでも入ってこられたら大騒ぎだぜ……魔物避けのフィールドだって、維持が大変だし」
駐輪場に自転車を停めて校舎に向かうまでに、そんな噂話が聞こえてきた。
警報を解除するにはどうすればいいのか――オークロードの時は『主要個体を討伐した』と出ていたが、主要個体を探すための討伐隊の人手が足りなかったりするのだろうか。
「おはようございます、神崎君」
「ああ、おはよう。黒栖さん、昨日の警報は大丈夫だった?」
「私の家からは離れているところなので、大丈夫でした。でも、中学校の時の友達は避難をしているみたいで……昨日の夜は、久しぶりに電話でお話しました」
俺の家に妹の友達が避難しに来たようなことが、他の所でも起きている――そして警報は日常茶飯事で、解除されれば人々は日常に戻る。
「まだ警報が解除されてないのは、なんでだろう」
「それは……Hランクの警報で現出する魔物の脅威度が低いので、出動している討伐隊の人員が少ないだからだと父が言っていました」
人手が足りないが、現に困っている人はいる。俺や周囲の人の生活に影響が出ている、ということなら。
放課後まで警報が出ていたら、できるなら様子を見に行ってみようかと考える。規制が敷かれていて立ち入り禁止だったりしたらどうするか――それは、その時に考えればいいことだ。
◆◇◆
冒険科の授業は普通科と同じような座学もあるが、特殊な授業として『スキル実技』というものがある。今日は第二体育館で授業が行われることになった。
黒栖さんは『転身』を任意で発動できなかったため、単位の取得に早くも暗雲が垂れ込めていたそうだが、今はもう心配ないだろう。一つ気になるとすれば、みんなの前でスキルを披露するのは緊張するだろうというくらいか。
スキル実技の担当教師は二人いるが、今日の授業を担当するのは三十歳くらいの男性で、
「では、不破君。向こうの木人に向かって、スキルを撃ってみてくれるかな」
「……雷よ、弾けろ……っ!」
《不破諒佑が攻撃魔法スキル『エレクトリックブラスト』を発動》
不破が拳を突き出すと、ほとばしった雷撃が木人に命中し、煙が上がる。おお、とクラスメイトが沸く――不破は特に表情を変えずに、元いた場所に戻る。
「物理で殴っても強えし、魔法も使えるとか……ていうか攻撃魔法ってどうやって覚えんの?」
「自由授業のときに、攻撃魔法の先生の講義を選ぶって言われたでしょ。適性がないと授業受けられないけど」
「中学までで魔法使えるやつって、天然なんだよな。正式に教わらなくても、いつの間にか出来てたってやつ」
見たところ、クラスの三分の二くらいは攻撃魔法スキルを未習得のようだ。その場合、木人を相手に見せるスキルは物理攻撃系のものになるだろう。
「不破君の使ったスキルはレベル1の攻撃魔法だね。Gランクまでの魔物になら通用するが、それ以上となると威力を上げるか、レベルを上げないといけない」
「……どうすればレベルを上げられるんだ? いや、上げられるんですか」
「まず、魔物を倒して経験を積むこと。そして攻撃魔法の授業を受けることで、使えるスキルが増える。だいたい一年で1レベル、2レベル上がる人はかなり適性があるということになる」
話を聞いているうちに、別の意味で緊張してきてしまう。
まず不破のスキルだが、クラスメイトは驚いているが、レベル1の攻撃魔法を『アストラルボーダー』で使っていた時期は最初の一ヶ月くらいで、レベル2になってからは瞬間火力を重視し、レベル1のスキルは雑魚敵にしか使わなくなっていた。
そして一年でスキルレベルが2上がればいいほうとは――自分でも『上位覚醒』が起きた条件がまだ曖昧なのだが、俺の攻撃魔法スキルはすでにレベル6だ。
俺のブレイサーにスキルを使用した記録は残っているはずだが、先生はそれを閲覧していないと考えられる。
そうすると――俺は実力通りのレベル6魔法を使うか、それとも、という選択を迫られる。『フレアグラム』なんて使ったら、このエリアというか、広い範囲が炎上してしまう。
「冒険科に必要な魔法は、攻撃魔法に限らない。魔物との戦闘を回避して成果を持ち帰るのも、優秀な冒険者のあり方だ。例えば、これは風属性の特殊魔法だが……我が足跡は、風の中に消える。『
日向先生がスキルを使うと、クラスメイトがざわつく――姿が消えたように見えているのだろう。
しかし俺は『生命探知』によって、先生がいる場所が見えている。どうするかと思ったが、普通に先生と目が合ってしまった。
「今回は木人を相手にスキルを使ってもらうけれど、使うスキルの種類はなんでもいい。次は神崎君、スキルを見せてくれるかな」
「分かりました。なんでもいいんですか?」
「うん、なんでもいいよ。木人はよほどのことがないと破壊できないから、攻撃魔法なら思い切りやってくれていい」
――そう言われると、破壊できるか試したくなってしまう。
『玲人さん、頑張って……っ』
コネクターから黒栖さんの声が伝わってくる。俺は心を決める――風属性の日向先生を唸らせるようなスキルを見せようと。
「我が呪紋より出でよ、風精の刃……『ウインドルーン』!」
レベル1の風属性攻撃魔法。俺が空中に描いた呪文から、風の刃が生まれ、木人へと飛んでいく――そして。
「……な、何も起こってない……?」
「は、ははっ……神崎、めっちゃかっこつけて撃っといて……うぉぉっ!?」
(……まあそうなるよな。レベル1の魔法でオークロードを吹っ飛ばしてるわけだから)
木人がバラバラに切り刻まれ、崩れ落ちる――最初はあまりに切れ味が良すぎて、しばらく斬れたことすら分からない状態だった。
「先生、木人は弁償しなくても大丈夫でしょうか」
その質問に日向先生が答える前に――クラスメイトが一気に沸く。
「す、すっげええええええ! なんだあれ、一体どうしたらあんなんになるんだよ!」
「神崎、お前ヤバすぎるって! 学生のレベル超え過ぎだって!」
「実習に合格しただけはあるよね……っていう次元じゃなくない? 南野、あんな人を挑発したりしてたの?」
「も、もうしませんから……っ、絶対しない、神崎君のパシリとか舎弟とか、そういうのでいいから……っ」
南野さんが相当狼狽えている――俺は彼女に言われたことを根に持ったりはしてないのだが。
「いや……凄い新入生が現れたものだ。正直、言葉が出てこないですよ」
日向先生は呆然としていたが、ようやく我に返って言葉をかけてくれた。
ひとまず俺の実技披露は終わったので、次は黒栖さんだ。バディの晴れ姿を見せてもらえるところを、静かに座って待つことにした。
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