第8話 街を作ろう

王国軍の撃退から一週間後、不可侵条約の返事を待つ間、勇者太郎の国を訪ねる人がまばらだが増えてきた。

先の王国軍の敗北、加えて勇者太郎の身も蓋もない主張が王国中の噂になっていたからだ。

結果、ラスボス子と話し合い、本格的に人が集まる前に街を整備しておこうという結論に至った。


「純朴可愛い系神官、ちょっといいか? これから街の並びを考えるんだが一緒に来てくれないか? 教会のことで意見を聞きたい」


街整備の会議当日、勇者太郎はいまだ城に居残っていた純朴可愛い系神官に声をかけた。

以前、教会を建設すると約束をした手前、街の整備案を考える会議には同席が必要だと考えたからだ。


「なるほど、分かりました」


彼女は快諾し、勇者太郎はラスボス子の待つ会議室へと向かった。


「うめぇ、うま、うめぇ……」


部屋に入ると、そこにはラスボス子と、なぜか幼馴染剣士が涙を流しながら干し芋をかじっていた。


「……ラスボス子、なんでこいつが?」

「城の前で生き倒れてた。なんでもすると言ったからとりあえず拾った」

「拾ったって……」


何があったのかは知らないが涙を流し干し芋を食べている元許嫁をみた勇者太郎は何かしょっぱい気持ちになった。


(深い事情は聞かないでおこう。彼女のためにも、俺のためにも)


たぶんチャラ男がらみなのだろうと、勇者太郎は憐憫のまなざしで彼女を見た。


(それにしても友よ……お前は今何をしているんだ?)


純朴可愛い系神官と離婚し、幼馴染剣士をたぶらかし、それでも魔法使いチャラ男が何かしているという話は聞かない。


(まあ、時間があるときに幼馴染剣士にでも聞いてみればいいか)


今は街の整備が先だと、勇者太郎は会議を始めることにした。


―――そして三時間後、幼馴染剣士の活躍により、無事、街の草案をまとめることができた。

描写は省略するが、物凄い活躍だった。


『あたし、ツクール系でゲーム作っていたことがあるのよ』という謎の自信の通り、出来上がった案では街はきれいに並び、重要施設への動線は確保され、緊急時キャッスルゴーレムの歩行スペースまで確保されていた。

マップチップという概念を持ち込み、話だけだとこんがらがる部分を、付け替え可能なミニチュアを用意し、視覚的にわかりやすく効率的な話し合いを実現したのが成功の要因だった。


「まさか、幼馴染剣士さんに土木の才能があるとは……」

「なるほど、マス目が均一になっているのはいいわね」


出来上がった街の完成予定図をのぞき込み、純朴可愛い系神官とラスボス子はうんうんとうなずいた。


「ふふふ、もっと褒めてもらってもいいわよ。あとはこれをもとに設計図に落とし込むだけね」


周囲から褒められ、幼馴染剣士はにやにやと笑みがこぼした。


「……それには及ばない。貴女はもう用済みよ」

「へ?」


あたかもラスボスのようなセリフを幼馴染剣士に投げかけるラスボス子。

彼女が浮かべる微笑みも若干の邪悪さが滲み出ていた。


「ひぃ!」


幼馴染剣士は自分の身の危険を感じたのか脂汗を流しながら全力で窓に突っ込もうとする。


(速いっ!)


あまりの速さに勇者太郎は彼女の姿を静止出来なかった。

ガンッと鈍い音がして、窓を破れなかった幼馴染剣士は頭を押さえて、床にうずくまった。


前回の襲撃を踏まえて窓ガラスの硬度を魔法で上げていたのだ。哀れ。


「つ、次にあんたはラスボスからは逃げられないと言う!」


涙目になりながらも幼馴染剣士は叫んだ。何かもうぐだぐだだった。


「……何言っているの、冗談よ。さて、カモン、ゴーレム。モードワーカーズ」


ラスボス子は呪文を唱えた。それを引き金に短い地鳴りが起こり、外が騒がしくなる。

勇者太郎は何が起こったのかと会議室の外を見た。


城の周りでは緩い顔のゴーレム述べ300体が見事な連携で街の建設に取り掛かっていた。


「おお、すごい! 流石ラスボス子」

「ええ、なかなかでしょう?」


紅い瞳を細め、誇らしそうにラスボス子は微笑んだ。


「ああ、最高だ」


そんなラスボス子に愛しさを感じつつ勇者太郎はうなずいた。


そして三週間後、キャッスルゴーレムの周りに石造りを基調とした城下町が完成した。

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