第9話 返事をきこう
城下町の整備がほぼ完了したころ、純朴可愛い系神官から不可侵条約の件について返答をもった使者が城に到着したと勇者太郎に連絡が入った。
最初と同じように文章ではないことに、違和感はあったが、勇者太郎とラスボス子は謁見の間でその使者を出迎えることにした。
(しかし、わざわざ使者を用意するとはどういう了見だ? こっちが伝言を頼んだからか?)
「来たみたいよ」
謁見の間には勇者太郎、ラスボス子、見届け人として純朴可愛い系神官が待機している。
ややあってミニゴーレムに連れられて一人の男が入ってきた。
「勇者太郎殿、先日は誠にありがとうございました。不可侵条約の件での返答をお伝えするためはせ参じました」
使者としてやってきたのは、以前城への攻撃を指揮していた兵士だった。
「おう、それで不可侵条約について王国はなんだって?」
「はい。それなのですが――――」
そういって兵士は巻物を取り出し、王国の意見を勇者太郎達に伝えてきた。
『この度は我が王国軍が独断での攻撃を行ったこと、深く謝罪いたします。つきましては使者として送った近衛兵の首を差し出しますのでその怒りを収めていただきたく思います。さて、貴国の提案である不可侵条約についてではありますが、我が王国としては国として若輩である貴国と対等とは大変不愉快。笑止千万、面白い冗談だと言わざるを得ません。よって貴国が属国として我が王国に下るか、勇者太郎王が人間であると証明するため寵愛していると噂の魔族の首を差し出すことを要請する所存です。もし受け入れられないのであれば貴国を100万の軍隊が蹂躙し、必ずやその悪魔の血を根絶やしにするとお約束しましょう。人間として賢明な判断を求めます』
「――――以上でございます」
「はい?」
勇者太郎はあまりの内容に開いた口がふさがらなくなった。
「翻訳すると前の攻撃は俺の国のせいじゃない。お前の国と俺の国は対等じゃないからこっちの言うこと聞けなければぶっ殺すぞこら……ってところかしら?」
「まあ、おおよそそういう意味ですよね。」
あまりの横暴にラスボスなのに困惑するラスボス子。同じく純朴可愛い系神官。
不可侵条約の打診をしてみたら、話し合うまでもなく蹂躙すると脅される、歴史ある健全な国家が取るにはあまりに幼稚な行動だ。誰だって困惑する。勇者太郎も例外ではなかった。
「勇者太郎殿、回答は一週間後までに文書にて教会機関を通し我が王国にお送りください。それでは、さあ!」
そういって膝をつき、首を垂れる兵士。
首を斬れということを察し、勇者太郎は慌てて使者の兵士を止めた。
「ちょ、ちょっと待った! 俺にはあんたを斬る理由なんてないから、そういうのはやめてくれ!」
「……」
「……やはりあなたは、お優しい。あのお方の言っていた通りだ」
ぞくりと気配が変わった。
何が起こったのか勇者太郎が身構えた次の瞬間には使者の兵士はナイフをラスボス子に投げつけていた。
「ラスボス子!」
「っ!!」
「単独で敵地への潜入というシチュエーション補正で2倍、この私の命を賭した一撃で3倍、私の右腕を限界を超える速度で振るい2倍、敬愛する大魔法使いチャラ男様、あなたのために10倍、しめて120倍の威力だ! いかに魔族と言えど瞬時にそれだけの障壁をはることはできまい」
使者の男の言う通り、予期せぬ強襲にラスボス子は十分な障壁を用意できず、それはナイフを一瞬だけ止め即座に砕け散った。
勇者太郎はとっさにラスボス子に迫るナイフを右手で受け止めた。
「勇者太郎!?」
「ぐっ……!」
焼けるような強烈な痛みが走り、勇者太郎は膝をついた。
見ればナイフの刀身が右手を貫通している。
「ラスボス子それよりもあいつを」
「……分かった。カモン、ゴーレム! モードエネミーキャプチャ」
ラスボス子の声に反応にして使者の兵士の周囲からミニゴーレムがわちゃわちゃと湧き出し使者の兵士を捕らえる。
「ぐわぁ。や、やめろお!」
兵士はゴーレムを振り払おうとするが、何体ものゴーレムが使者の兵士の隙をついてへばりつき、そのの重さを生かして彼の動きを完全に封じた。
使者の男が動けないことを確認し、ラスボス子はしゃがみこみ、勇者太郎の様子を確認した。
「手が……」
「はは、思わず。……ラスボス子、ケガはないか?」
「うん、あなたのおかげ」
「それは、良かった……」
ラスボス子の無事を確認したことで緊張が切れたのか、勇者太郎は自身に眠気が増してきたことを自覚した。
(おかしいな、本来ならこのレベルのけがは痛くて気を失わない限り、眠気なんか……まさか!)
勇者太郎は眠気に抗おうと立ち上がろうとした。しかし力を入れると足がもつれ彼は床に倒れてしまった。
「勇者太郎!」
「ナイフに毒だ……おそらくねむりをゆうはるする……」
(くそ、意識がぼんやりして、呂律が……)
勇者太郎の様子に純朴可愛い系神官はすかさず駆け寄り回復魔法をかけながらナイフを抜く。本来は神経が切れているレベルの怪我なのでで強烈な痛みが走るはずが、全く痛みを感じず、眠気だけが増してくる。
「……者……郎……!」
勇者太郎の視界がぼんやりとし、グラグラと揺れる。はっきりとは見えないが勇者太郎にはラスボス子が泣いているいるように見えた。
(そばに居るラスボス子の声も遠くなってきた。泣かないでほしい。でも、泣き顔もちょっとかわいい……これはしっかり覚えておこう)
勇者太郎は、最後の抵抗とばかり手を伸ばしてみるがラスボス子の頬に触れたところで意識が深い眠りに落ちていった。
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