第6話 ゼウスの秘密
ヘパイストスとアレスが、作戦を決行したのは、パジャマパーティーの後。
みんなが寝静まったのを確認して、こっそり、宮殿を抜け出そうとしたら、誰もいない廊下から、突然、声が聞こえた。
「夜に帽子かぶって、どこ行くん?」
ヘパイストスとアレスの目の前に、キャスケットを手に持ったトリトンが、ぱっと現れる。
トリトンは、目くらましの魔法で、隠れていた。
目くらましの魔法とは、頭に何かをかぶって紋章魔法陣を描くと、他人の目に、自分の姿が映らなくなる魔法。
かぶりものをとると、また姿が見えるようになる。
「俺が気づかないと思った?」
トリトンが、キャスケットを指で、くるくる、まわしている。
トリトンに、隠し事はできないか……。ヘパイストスは、白状した。
「時空移動船でタイムスリップして、イカロスにいちゃんの本当の死因をつきとめに行くんだよ。転落死なんて、絶対に嘘だ。」
「それ知って、どうするん?転落死ってイカロスにいちゃんの死因、俺も変やと思うけど。ゼウスのおっちゃんが、意地悪で嘘つくわけないし。俺らが知らない方がええから、本当のこと、黙っとるんちゃうん?世の中、知らない方が幸せなこともあるよ。」
「嘘でごまかされ続けるなんて、耐えられないよ。イカロスにいちゃんは、俺にとって、ほんまのにいちゃんみたいな人やったんや。俺にも、真実を知る権利がある。」
「後悔しない?」トリトンは、念を押した。ヘパイストスは、うなずく。
「なら、俺も行く!秘密でなにかをするのは、わくわくするよね!」
そう言って、トリトンも便乗した。
「じゃ、行こっか。」と、アレスが杖を出す。
「待って!」トリトンは、アレスが魔法陣を描く前に止めた。
アレスの空間転移魔法は、不安。また、ずぶ濡れになるのは嫌。
「俺が、魔法陣描く。」トリトンが、代わりに杖を振った。
空間転移魔法陣をくぐり抜けたら、ガレオン船が目の前にあった。
時空移動船に乗り込むと、ヘパイストスは、転移先の時間を、墓石に刻まれたイカロスの命日の一週間前に定めた。
ガレオン船が、時空間を遡って進んでいく。
指定した時間に着くと、ヘパイストス、アレス、トリトンは、甲板に光る魔法陣から、外へ出た。
最初に、たどり着いたのは、病院だった。
アレスとトリトンは、帽子をかぶって、自分の紋章魔法陣を描いた。
直後、ヘパイストスの目の前で、ふたりとも消えた。
「アレス?トッティー?」と、不安になったヘパイストスが、きょろきょろしている。
「待って。」と、トリトンが、ヘパイストスに、目くらましの魔法をかけた。
透明人間になってからは、はぐれないように、3人は手をつないで行動した。
曲がり角で、話し声が聞こえる。ゼウスとダイダロスだった。
ダイダロスの話から、サザンクロスという言葉が聞こえた時、ヘパイストスは、いっそう耳をすませた。
「本当に、すみません。サザンクロスのせいで、こんなことになってしまって………。」
「顔あげてください。ヘパイストスの怪我は、命にかかわるほどじゃありませんでした。事故の記憶は、頭を打ったショックでなくなってますけど………。イカロスは、どうですか?」
「まだ、目を覚ましません………。サザンクロスが暴走事故?納得がいかない。息子が乗るんだから、いつも以上に、点検整備は丁寧にやったし。不具合は、みつからなかった。」
「サザンクロスの件は、俺たち以外、他言無用で。もし、人に聞かれることがあっても、口裏を合わせてください。」
これ以上の情報は、なさそうだったから、3人は、いったん、船に戻った。
少し後の時間に行ってみると、たどり着いたのは、黄昏のお墓だった。
イカロスの墓石に花を添えるダイダロスの悲しそうな顔を見た時、ヘパイストスは、つらかった。
ダイダロスは、やってみたいこと、行ってみたい場所がたくさんあって、夢を膨らませて、いつも、にこにこ笑っているような人。
ダイダロスが、こんなふうに泣くところなんて、ヘパイストスは見たことがなかった。
ゼウス、ポセイドン、プロメテウス、レイア、クロウが、順番に、花を添えていく。
そして、ハデスが弔いの言葉を述べて、お墓参りが終わった。
オリンポス宮殿に帰った後、ゼウスは、机に向かって、ノートに、なにか書いていた。
ひとしきり書き終えて、ゼウスは、ベッドに倒れた。
倒れたと同時に、いびきをかいたゼウスを見て、アレスは驚いた。
「この頃から、気絶体質やったの!?」
「おっちゃん、寝たみたいやな。」トリトンが、ふぅ……と、ため息をつく。
ヘパイストスも、ゼウスが寝てくれて、ほっとした。
ゼウスは、いびきをかいたら、マンドレイクの悲鳴でも聞かせない限り起きない。
安心した3人は、小声で話していた。
「これって日記だよ、ヘパ。」アレスが言う。
「日記、読む?」トリトンがきく。
「秘密を暴きに来てるのに。選んでられるか、手段なんて。」
ヘパイストスは、ノートを手にとった。
今は透明人間になっているから、はたから見たら、ノートだけが浮かんでいるように見える。
「だめだ。字を読むには、部屋が暗すぎる………。」ヘパイストスが、困っている。
「読んであげる。」と、トリトンがノートをとった。
月明かりを頼りに読もうとして、トリトンがカーテンの向こう側へ行く。
ヘパイストスとアレスの目には、カーテンだけが動いているように見えた。
トリトンが、日記を読みあげる。
『イカロスに、別れを告げてきた。
ダイダロスにかける言葉がみつからなかった。
俺も親の立場やし、ダイダロスに同情する。
サザンクロスの暴走事故は、本当に悲しい事故。
もし、死んでたのがヘパだったらって思うと、息ができないくらい怖くなる。
また、俺の知らないところで、ヘパが危険な目にあったら、どうしよう。
俺が、そばでずっと守ってやれればいいけど、そんなことできないし。
最低だとわかっていても、俺は、ヘパから魔法を奪ってしまった。
魔法がつかえなければ、ヘパの行動を制限できるし、
俺の目が届く範囲に、ずっと、おいておける。
不死鳥サザンクロスと、黒魔法の媒介の懐中時計は、
無人島の火山洞窟に、いっしょに封印してきた。
このことを知ってるのは、俺とダイダロスだけやし、
とりあえず、秘密がもれることはないだろう。
ヘパに呪いをかけるなんてこと、ほんまは、したくなかったけど。
ヘパを守るためにはこうするしか、今の俺には、思いつかへん。』
「不死鳥サザンクロス………。」と、ヘパイストスは、つぶやいた。
「やっぱり、サザンクロスとイカロスにいちゃんは、関係してたんや。イカロスにいちゃんは、サザンクロスの暴走事故で亡くなった………。」
それがわかっただけで、よかったのに。
もうひとつの意外な秘密が、ヘパイストスは、ショックだった。
魔法がつかえないのは、俺が落ちこぼれだからって思ってたけど。
本当は、俺は、みんなと同じように魔法がつかえたんだ。
父さんが、かってに、俺から魔法を奪った。
目くらましの魔法で姿が見えなくても、ヘパイストスがショックを受けていることは、アレスには、わかる。自分も、ショックだったから。
寝ているゼウスを、アレスは、軽蔑の目で見てしまった。
『世の中、知らない方が幸せなこともあるよ。』というトリトンの言葉の意味を、アレスは痛感した。
俺がカナヅチなのだって、父さんに、そういう呪いをかけられたからかも。
すぐに、それはないか………と、自己完結したけど。
泳げない呪いをかけたところで、それがなにって感じだし。
とにかく、それくらい、アレスは、ゼウスを信じられなかった。
「次は、ティタノマキア行く?」と、ヘパイストスにきかれて、アレスは、思い出した。
そういえば、ティタノマキアも見に行く約束になってたっけ。
王座をかけたタイタン族の戦い。世界をひっくり返した大戦争。
ティタノマキアのことは、アレスは、それくらいしか知らない。
父さんもクロウ先輩も、誰も戦争の話をしてくれないけど。
それは、本当のことを知ったら、きっと、俺が傷つくことになるから。
そう思うと、アレスは見に行くのが怖かった。
「やっぱ、いいや。帰ろう」と、アレスは、首を振った。
「俺も、それがいい。」トリトンが、あくびをする。
「不死鳥サザンクロスの暴走事故。イカロス兄ちゃんの死因は、わかったし。帰って寝よう。」
家に帰るとすぐに、アレスとトリトンは、部屋に戻って寝てしまった。
ヘパイストスも、自分の部屋に戻った。
深夜1時を過ぎていたけど、興奮して、ぜんぜん、眠くない。
「ただいま、イカロスにいちゃん。」
ヘパイストスは、机にかざってある、イカロスの写真に話しかけた。
写真に話しかけると、エリュシオンに昇った人に、声が届く。
一日の出来事をイカロスに話すのが、ヘパイストスの幼い頃からの日課だった。
「過去を見てきたよ。にいちゃんは、やっぱり転落死なんかじゃなかったんやね。」
写真を見ていると、イカロスの声が聞こえてきそう。
「どうして死んじゃったの、イカロス兄ちゃん。にいちゃんに、会いたいよ。」
けど、そんなの叶わない。そう思うと悲しくて、涙が溢れた。
「不死鳥サザンクロスのテスト飛行、俺も、にいちゃんといっしょに乗ったのに。俺、サザンクロスのこと、全然、覚えてないや。叶うなら、もう一度、にいちゃんと空が飛びたい。」
ヘパイストスは、ハデスの壊れた杖を握った。
「タイタン族なのに、俺だけ、なんで魔法がつかえないのか、やっとわかったよ。父さんが、俺に呪いをかけたんだ。父さんは、俺を守りたかったんだって。そんなこと頼んでないのに。自分の身くらい、自分で守れるよ。そんなに頼りないかな、俺。でもさ、鍛冶に関しては、俺よりいい作品つくれる人なんていないでしょ?」
ヘパイストスは、水晶玉のひびをなぞった。
「ハデス伯父さんに、杖の修理を頼まれたんだ。仕事があるってことは、必要とされてるってことだよね。かっこよくするって、伯父さんに約束したんだ。どうせ眠くないし、俺、仕事してくる。」
いってきます。と、イカロスに言って、ヘパイストスは、仕事場へ向かった。
鍛冶仕事は、劣等感の塊みたいなヘパイストスが胸を張れる唯一の居場所。
つかってもつかっても刃こぼれしないヘパイストスの武器は、今ではプレミアがついている。ミュージアムに飾られている作品もある。
魔法がつかえないこと、
人に何を言われても気にするな!って、自分を鼓舞して、自分の可能性を信じて、努力を諦めなかったから手に入れられた居場所。
ダイダロスのところに就職してからは、武器関係の鍛冶仕事をしていなかったから、杖の修理が楽しくて、熱中してしまった。
「結局、徹夜しちゃった……。」と、ヘパイストスは、疲れた目をこすった。
気づいたら、時間が流れるように過ぎていた。
小鳥のさえずりが聞こえて、窓の外を見たら、空が明るみ始めていた。
気に入ってもらえるかな………と、できあがった杖を、太陽にかざした。
新しい水晶玉が、空を映している。
水晶玉をとりかえたついでに、台座に桜の彫刻を施した。
桜は、ハデスが好きな花。
伯父さん、喜んでくれるといいな。
ハデスに杖をわたす時のことを想像すると、ヘパイストスは、楽しみだった。
カフェのガーデンテーブルで、お昼ごはんを食べていると、プロメテウスは、トリトンをみつけた。
トリトンは、背が高いから目につきやすい。
カモメに写真を見せている男がいるから、誰かと思ったら、トリトンだった。
トッティー!と、声をかけると、トリトンが、ふり向いた。
カモメと話をやめて、トリトンが、やってくる。
「なにしてんの?」と、プロメテウスは、きいた。
「失踪事件の聞き込み調査やで。」
「カモメに?」
「鳥の方が、俺たちより、いろんなこと見てるから。」
鳥に聞き込み調査できる探偵なんて、トリトンくらいやって!と、プロメテウスは思った。
ポセイドンの能力を受け継いでいるトリトンは、動物の言葉がわかる。
「俺も、お昼休憩にする!」
トリトンが、プロメテウスと同じハンバーガーセットを注文してきた。
トリトンの飲み物が、自分のと違ったから、「パイナップル?」と、プロメテウスは、きいた。
「飲んでみる?」と、トリトンが、わたす。
きっと、パイナップルじゃないんだろうな……と思いながら、プロメテウスは、飲んだ。すっぱすぎて、むせた。
「なにこれ!?」
「シークワーサーやけど。プロちゃん、体が酸化してますねー。」
口直しに、プロメテウスは、ナゲットをほおばった。
箱の中のナゲットが、最後の一個になった瞬間、カモメが、テーブルに滑空してきた。
「俺の昼飯!」最後の一個のナゲットを、カモメに奪われて、プロメテウスが、悲鳴をあげている。
「ジョナは、ほんまに、最後の一個を横取りするのが好きやなー。」
トリトンに言われて、プロメテウスは悟った。こいつが、ジョナサンか!
聞いたことがある。食べ物が最後の一個になると、必ず、どこからともなくやってくる神出鬼没のカモメ。それが、ジョナサン。
「おまえ、それ共食いだよ。鳥同士って意味でさ。」
横取りされたのがしゃくだったから、プロメテウスは言った。
トリトンが、「この子、見た?」と、ジョナサンに、絵本に出てきそうな、ひらひらのワンピースを着た女の子の写真を見せた。
ジョナサンが、翼を広げて、鳴いている。
ジョナサンの鳴き声に耳を傾けていたトリトンが、突然、
「ほんまに!?」と、立ち上がった。
「ガブリエル、みつかった!」
「ガブリエル、みつかった!?」
プロメテウスは驚いて、トリトンの言葉を復唱した。トリトンが言う。
「モイライの神殿で!ガブリエルとアレスが喧嘩してるの見たって!」
「2週間、手がかりゼロだったのが、こんな急にみつかるなんてある!?」
「わからんけど、行ってみよ!」
トリトンが、杖を出して、空間転移魔法陣を描いた。
モイライの神殿へワープすると、アレスとガブリエルの死闘が、くりひろげられていた。
喧嘩をとめようとしたら、ふたりが乱発する魔法に巻き込まれて、トリトンとプロメテウスは、吹っ飛ばされた。
壁に激突しそうになったところを、クロウのブリザードに受け止められた。
クロウの魔法で、アレスとガブリエルの杖が凍る。
魔力を、杖の状態にとどめておけなくて、ふたりの杖が弾けた。
「ねぇさん!待って!」走り去るガブリエルを、アレスは呼び止めたけど、ガブリエルは、無視して行ってしまった。
「なんで止めたんですか、先輩!」半泣きのアレスにキレられて、クロウは、面食らった。
「アレス……なにがあった?」と、クロウは、アレスの肩に手を添える。
「朝食の時、アレスが一言も話さないから心配してたんだよ。またモイライの神殿に行ったんじゃないかと思って、様子を見に来たんだ。」
アレスが、しゃくりあげながら話す。
「神殿に、先に、ねえさんがいて、泉をのぞいてた。心配したんだよ、今まで、どこにいたのってきいたけど、関係ないみたいなこと言われて。ねえさんは、まるで俺を避けてるみたいで。俺とは、ほんとの兄弟じゃないって。そんなこと言われたから、俺、悲しくなって。このまま別れたら、二度とねえさんに会えない気がして、行かないでって、とめようと………。」
もしかして………。トリトンが、つぶやく。
「もしかして、おっちゃんの秘密って、ひとつじゃない?」
おっちゃんの秘密?と、クロウとプロメテウスは、トリトンを見た。
昨晩、時空移動船で見てきた過去について、トリトンは、話した。
「ゼウス………。」
クロウは、ゼウスがヘパイストスにしたことをきいて、呆れてしまった。
プロメテウスも、ゼウスのやり方には、納得できない。
「あいつ、やることが極端なんだよ!」
プロメテウスの脳裏に、つらい思い出が蘇った。
「俺も、かってに人間をつくったことがバレて、ゼウスと喧嘩になった時、素手で大鷲と決闘させられたっけな……。」
プロメテウスは、腕を組んで、つぶやいている。
あんな!と、トリトンが話をつづける。
「俺の勘やけど。ガブリエルのことも、おっちゃん、なんか隠してる気がする。」
「うそ!!」アレスが発狂した。
「ヘパに呪いをかけたこと以外にも、秘密があるの!?そんな隠し事だらけの人、父さんなんて、呼べない!!」
「あくまで、俺の考えやで。」トリトンは、アレスをなだめた。
「おっちゃんにきいてみないと、本当のことはわかんない。でも、俺の考えが正しければ、失踪事件の黒幕は、おっちゃんの秘密を知ってる人だと思う。たぶん、ガブリエルは、その人に利用されてる。」
クロウは、「とりあえず、家に帰ろう。」と、うずくまっているアレスに、手をのばした。
『ガブリエル、いたよ』
スマホに届いたクロウからのメッセージを見るやいなや、
ゼウスが、仕事を早退して帰ってきた。
「ガブリエルは、どこ!?」ゼウスは、クロウにつかみかかった。
「ちょっと来て。」と、クロウに連行されて、行きついたのはリビング。
アレス、トリトン、ハデス、ポセイドン、プロメテウスが、軽蔑の目で、こっちを見ている。
ゼウスが、ソファーに座ると、クロウは言った。
「君、なにか隠してることあるでしょ。ヘパイストスのことと、ガブリエルのことで。」
ゼウスは、心臓を鷲掴みにされた感覚だった。
墓場まで持って行こうと思っていた秘密がバレた!!
深呼吸して、心を落ちつかせる。
黒魔法で、ヘパイストスから魔法を奪ったことを、ゼウスは認めた。
「サザンクロスの事故で、ヘパイストスが頭を縫う大怪我をしたのが怖かったんや。ヘパイストスが、もうそんな危険な目にあわないように、俺の手元で守ってやりたい一心で、呪いをかけてしまった……。」
おかしいと思ったんだ。ヘパだけ、魔法がつかえないなんてさ。
プロメテウスは、思った。
「ヘパ、かわいそう………。」と、ハデスが口を挟む。
「呪いは、ひどい。親のすることじゃないよ。ゼウス、ずいぶん過保護なんとちゃうん?」
「ヘパに何かあった時!!おまえ責任とれんのかよ、ハデス!!」
と、怒鳴ったゼウスを、「ゼウス!!」と、クロウが叱った。
「ごめんなさい。」
「俺も、言いすぎたよ。ごめん。」と、ハデスも謝る。
ポセイドンが言った。
「魔法を奪わなくちゃいけないほどだったの?魔力のコントロールの仕方を、ちゃんと教えてあげれば、別によかったんじゃない?」
「なんていうか、その。」と、ゼウスは、話すべきか迷った。
ヘパイストスの属性を知ったら、きっと、みんな警戒する。
でも、秘密がバレた以上、もう自分一人で、悩む必要もない。
「ヘパの属性は、雷でも、光でもなくて………親父と同じなんや。」
絶句している伯父たちを見て、アレスは、不安になった。
「なに?ヘパって、やばいの?」
「時属性だよ。」クロウが、話す。
「時間を自由自在にあやつれるチートクラスの魔力なんだ。だから、ゼウスが心配する気持ちはわかるよ。やばいやつに目をつけられる可能性がないとは言いきれないし………。」
クロウが、ため息をつく。
「でも、呪いをかける前に、相談してくれればよかったのに。理由はどうであれ、ヘパイストスに、つらい思いをさせたことは変わらない。」
「ガブリエルのことは……。」と、ゼウスは、もうひとつの真実も語った。
「ティタノマキアの軍事裁判、アトラスの娘まで、俺には裁けなかった。表向きには、カリュプソを戦死にして。ガブリエルに名前を変えて、自分の娘として、戸籍に入れたんや。別に隠してたわけじゃないけど。ガブリエルを、本当の娘みたいに思ってたから、俺の口から話すこともなくて………。」
自分の正体を知った時、ガブリエルは、やっぱり傷ついたかな………と、ゼウスは、心配だった。
「このこと、俺とミカエルしか知らんのに。ガブリエルは、どこで知ったんや。」
「俺、わかったんやけど。失踪事件の真相。」
トリトンの発言に、一同は、え!?と、驚いた。トリトンの推理が始まる。
「本当の父親がおっちゃんじゃないって、ガブリエルが知ったのは、運命の女神のいたずらやと思う。ガブリエルが、いつもどおり、神官の仕事をしてた時、泉に知らない男が映った。その男は、調べたらアトラスやった。ガブリエルは、泉にアトラスが映った理由を知りたくて、タワーまで確かめに行ったんや。」
みつからんわけや………と、トリトンは、ひとりで納得していた。
「アトラスタワーの頂上くらいになれば、鳥も飛んでないし。誰も見てなくて当然。目撃者がいないって時点で、気づくべきやった。」
トッティー!と、アレスが、話をさえぎった。
「じゃあ、運命の女神が、ねえさんとアトラスをひきあわせたってこと?ねえさんは、もう帰ってこないの?」
「ガブリエルは、アトラスにとって、戦艦奪還のための、ただの
「でも、封印を解いたって、アトラスは戦艦に乗れないよ。誰が空を支えるの?」
アレスの問いに、「そんなこと、代役に任せればいいだけの話。」と、トリトンは、上を示した。
まさか!と、一同は、はっとする。
「そう。今、空を支えてるのは、ミカエルやで。アトラスが、いつまでも動かないガブリエルをあおったんや。それで今日、ガブリエルは、2週間ぶりに、モイライの神殿に来て、戦艦の封印の解き方を調べてたんやと思う。」
待って!と、ハデスが悲鳴をあげた。
「今、空を支えてるのが、ミカエルってことは!アトラスが、野放し状態ってこと!?」
「俺たちの知らない所で、やばい計画が進められてたのか。このままテュポンが、兄貴の手にわたったら………。」
プロメテウスは、それ以上の先が言えなかった。
ティタノマキアの地獄が脳裏に蘇って、みんな、なにも話さない。
クロウが、椅子から立ちあがった。
「戦艦を手に入れて、アトラスが、おとなしくしてるわけがない。アトラスに戦艦を奪われたら、スローターがはじまる。それだけは、阻止しないと。」
ハデスは、ヘパイストスからもらった新しい杖を握った。
そして、あ!と、思い出した。
「そういえば、杖を返してもらった時、ヘパから手紙あずかってたんやった。はい。ゼウス。」
「手紙?」と、ゼウスは、折りたたまれたメモを開いた。
『俺が魔法をつかえなかったのは、呪いのせいだったんだね。
いつまでも、魔法がつかえない落ちこぼれでいるのは嫌だ。
ダイダロス先生といっしょに、呪いを解きに行ってきます。』
やばい!!ゼウスは、リビングを飛び出した。
「ゼウス!待って!」
急に出て行ったゼウスを心配して、ハデスが追いかける。
途中、階段をのぼってくる魔道士たちと、ぶつかりそうになった。
「わぁ!ごめん!」
ハデス!?耀、奈月、妃乃、神龍、圭が、びっくりしている。
おどり場から、クロウが呼んでいた。
「ほっとけ、ハデス!テュポンの確保が先だ!」
「なにがあったの!?」耀は、きいた。
さっき、すれ違ったゼウスもそうだったけど、ハデスたちの慌てぶりは、ふつうじゃない。
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