第4話 ゆかいな仲間たち

 是非、紹介したい人がいるから来てほしいとヘパイストスに誘われて、耀、奈月、妃乃、神龍、圭がやってきたのは、造船所だった。


ガレオン船のそばで、ホログラムパネルを開いて作業している男に、「ダイちゃん!友達つれてきたよ!」と、ヘパイストスが、声をかけた。


背の高い茶髪の男が、ふりかえる。


「なになに?ヘパちゃんの友達?」と、やってきた男を、ヘパイストスは、魔道士たちに紹介する。


「この人が、ダイダロス先生!時空移動船ノーザンクロスの発案者!」


そして、ダイダロスに、魔道士たちを紹介した。


「ダイちゃん。魔道士の耀、奈月、妃乃、神龍、それから松岡博士やで。」


はじめまして!と、ダイダロスが手をさしだす。


耀、奈月、妃乃、神龍、圭は、順番に握手した。


「ノーザンクロスって、白鳥座のことだよね?」奈月がきいた。


「正解!よくわかったね!」と、ダイダロスが、にっこり笑う。


「ダイちゃんは、作品に星の名前をつけるんだよ。」ヘパイストスが言った。


「星みたいに時間の制限を超えて、半永久的に、作品が存在してほしいって愛を込めてるんだよ。」と、ダイダロス。


「船つくってるんですか……?」と、耀は、ガレオン船を見上げた。


「どう、ノーザンクロス。」と、ダイダロスも、ガレオン船を見上げる。


ヘパイストスが、船体をぺしぺし叩いて言った。


「ボディは、俺が担当したから、最高に頑丈やで。」


「ヘパちゃんには、秘密の黄金比があるもんね!」というダイダロスの言葉に、「秘密の黄金比?」と、妃乃が首をかしげている。


ヘパイストスが言った。


「いろんな金属をドロッドロに溶かして固めて、最強の金属をつくるんやで。どんな金属をどれくらい混ぜるかは秘密。あの、かたーい鉄が、熱で粘土みたいに柔らかくなって、自由に形を変えられるのがおもしろいんだよね、鍛冶って。」


ちなみに……と、ダイダロスが話す。


「システム製作は、プロちゃん担当。帆船のデザインは、アポロンちゃん担当。うちのエンジニアチームは、プロフェッショナルがそろってるんだよ。今、定期メンテナンスしてたとこ。この前、白亜紀まで旅行してきたから。」


白亜紀?と、魔道士たちは、ぽかんとした。


「あれ、言わなかったっけ?」ヘパイストスが、きょとんとする。


「ノーザンクロスは、時空移動船。タイムマシンだよ。」


タイムマシン!?と、魔道士たちは、声をそろえて叫んだ。


その反応が楽しくて、ダイダロスは、笑っている。


「タイムマシンなんて、SFの世界だけかと思ってた?夢をカタチにするのが、俺たちエンジニアだから。」


あ、そうそう!と、ダイダロスがスマホをとりだした。


「白亜紀旅行の動画があるんだけど、よかったら見る?」


耀は、ダイダロスからスマホを受け取る。奈月、妃乃、神龍、圭ものぞいた。


『Tレックスと、命がけの鬼ごっこしてみた!』


『ブラキオサウルスの首で、すべり台してみた!』


『トリケラトプスの角で、輪投げしてみた!』


『プテラノドンと空中散歩してみた!』


こういう動画が、たくさんある。


耀は、いちばん最初の動画を開いた。


恐竜の鳴き声が聞こえた後、シダの茂みから、ダイダロスが飛び出した。


全力疾走するダイダロスを、Tレックスが、おぼつかない足取りで追いかけている。


ダイダロスは、走るのに夢中で、Tレックスの牙がかすったことに気づいていない。


やがて、Tレックスが、諦めて去っていった。


『はぁ……はぁ……俺の勝ち?』


膝に手をついて喘いでいるダイダロスを、カメラマンが笑っている。


『おまえ、もう少しで喰われてたぞ!』


「おい、ダイダロス!」と、スマホから聞こえていたのと同じ野太い声が、上から聞こえた。


金髪の男が、ガレオン船から降りてくる。


「こっちの作業は、終わ……この人たちは?」


あ、プロちゃん!と、ダイダロスがふり向いた。


「今、魔道士ちゃんたちに、恐竜の動画を見せてたところ。」


「俺がとったやつ?」


きいてくれよ!と、男は、耀たちに言った。


「こいつ、恐竜の動画を撮るために、時空移動船なんて考えたんだぞ!」


男に肘でこづかれて、だって!と、ダイダロスは言う。


「図鑑を眺めてるだけじゃ、つまんないじゃん。本当に、恐竜に会いたいなーって思って、がんばって、時空移動船の設計図、描いたんだよ。」


紹介するね!と、ヘパイストスが、ガレオン船から降りてきた男を手で示した。


「この人は、うちのチームのSEで、俺のいとこおじのプロメテウス。」


プロメテウス!?と、魔道士たちは悲鳴をあげた。


人間に魔法を教えた伝説の神様が、目の前にいる。


「教科書に出てた神様!?」耀が叫んだ。


「教科書に載ってるってよ、プロちゃん!」と、ダイダロスがちゃかす。


「俺のバディ、そんなに有名なんだ。うれしいなー。ねぇねぇ、みんな。プロちゃんが、人間に伝授したのは魔法だけだと思ってる?不思議だと思わない?なんで人間が、文明を築けるほど進化できたのか。」


もったいぶって、ダイダロスはつづけた。


「人間に知能を与えたのも、プロちゃんなんだよ。」


「よけいなこと言いやがって!」プロメテウスが、ダイダロスにくいついた。


「秘密にすることないじゃん。人間は、プロちゃんがつくったみたいなもんでしょ。」


「興味があったんだよ。霊長類に知能を持たせたら、どこまで進化するかなって。いろいろ、かってにやり過ぎたんで、ゼウスと喧嘩になったけどな。」


視線が自分に集中しているのが恥ずかしくて、プロメテウスは、顔を隠してしまった。


ダイダロスは、耀からスマホをかえしてもらって盗撮する。


「はい。魔道士ちゃんたちに見つめられて、照れてるプロメテウスです。」


「おまえ、なに撮ってんだ!」プロメテウスが、スマホに手をのばした。


ダイダロスは、奪われないように、スマホを高くかかげる。


プロメテウスは、ぴょんぴょん跳ねて頑張ったけど、届かなかった。


「あとで、それ消させるからな。」と、諦めたプロメテウスに、あの……と、耀が質問した。


「最初の魔法、どうして炎属性だったんですか?」


「なんでだっけかな……。」


プロメテウスも、昔のことで、よく覚えていなかった。


「まずは、炎だと思ったんだよ。火がつかえれば、生活レベルが向上すると思ったし。魔法の命令式も、13属性の中じゃ、簡単やったし。」


『そもそも魔法陣って、俺たちタイタン族が、自分の属性以外の魔法をつかうための手段なんだよな。』というプロメテウスの声が、心の中に直接入ってきて、魔道士たちは驚いた。


「びっくりした?」と、プロメテウスは、笑っている。


「自分の属性の魔法なら、魔法陣を描かなくても、つかえるんだよ。『火、水、氷、風、雷、天、地、光、闇、時、音、心、命。』俺の魔力は、心属性ってわけ。だから、魔力を解放することで、心に直接メッセージを送れたってわけ。」


そういうことだったのか………と、耀、奈月、妃乃、神龍、圭は、顔を見合わせた。


時々、ハデスとクロウが、魔法陣なしで炎を出したり、吹雪を起こすことがあって、不思議だった。


人間の場合は、魔法陣を描かないと、魔法は発動しない。


「テレパシーがつかえるってことは、心を読めたりもするんですか?」という神龍の質問に、プロメテウスは、誓うように挙手をした。


「できるけど、やらないから!そんな、友達の信頼をなくすようなこと、絶対やりません!」


「じゃあ。俺が代わりに、プロちゃんの心を読んであげる。」


ダイダロスが、プロメテウスの肩をつかんだ。


「プロちゃん……。」と、ダイダロスに意味深な目で見つめられて、プロメテウスは緊張した。


まさか。こいつ、本当に読心術つかえるのか?


すると、ダイダロスが言った。


「ピザ食べたいって思ってるでしょ?」


「思ってねぇよ!」


「俺、ピザ食べたい!」と、ヘパイストスが、手をあげた。


「じゃ、アポロンちゃんとこのレストラン行こっか!今の時間なら、アポロンちゃんのピアノ聞けるかも!」


ふたりのペースにのまれて、プロメテウスも「いいよ。」と、賛成する。


「もうひとりの、時空移動船製作メンバーを、魔道士くんたちに紹介しないとな。」


 そうしてやってきたのは、港のレストラン街。


中世の酒場みたいな装いの店に入ると、おねえ系のウエイター・アルゴスに、テーブルまで案内された。


「あら、ダイちゃん!プロちゃん!ヘパちゃん!いらっしゃい!新顔ちゃん連れてきてくれたのー?ありがとう!」


アルゴスは、耀、奈月、妃乃、神龍、圭が天使の客だと思っていたから人間と知った途端、喜んだ。


「魔道士ちゃんたちに、是非、食べてほしいピザがあるの!今日の店長の気まぐれピザ、プロシュートとルッコラのピザなのよ!超新鮮よ!プロシュートもルッコラも、今朝、私と店長で、市場で、もとめてきたものなの!」


「じゃあ、それで。」と、ダイダロスが注文する。


「あと、マルゲリータと、チーズ明太子と、てりやき。」


了解!と、アルゴスは、メモをとると、きびすを返し、ウエイターの仕事に戻った。


アルゴスは、完璧な接客で、ホールをひとりでまわしていた。


目で確認しなくても、アルゴスは、店の様子を把握していて、客に呼ばれる前に自分から動くし。


キッチンから離れた場所にいても、ピザが焼きあがったことに気づいていた。


アルゴスが、「お待ちどうさま!」と、ピザを持ってやってきたけど、耀たちは、ぜんぜん、待っていなかった。


「どうなってんの。まるで、全身に目があるみたいに死角がない……。」


アルゴスの立ち振る舞いに感嘆している耀に、


当然よ!と、アルゴスは、照れながら、兵役経験を自慢した。


「私、天軍にいた頃、百の目を持つ男って言われてたのよ!」


焼きたてだから、火傷しないでね!と、ピザを置くと、アルゴスは、ウエイターの仕事に戻っていった。


 ダイダロスが、乾杯の音頭をとった。


「遠慮せず、食べて!お近づきの印ってことで、俺たちのおごりなんで!」


やった!と、神龍が、生ハムのピザに、くいついた。


神龍のくいっぷりが気に入って、ダイダロスは、生ハムのピザを、もう一枚、追加で注文した。


 不意に、店内のざわめきがやんだ。ピアノのそばに、青年がいる。


ピアノの演奏が始まると、店は、たちまち、コンサート会場と化した。


天空から降り注ぐような澄んだ音色に、客は、食べることを忘れて、聞き入っている。食いしん坊の神龍も、食べる手が止まっている。


最後の曲の子犬のワルツが終わった。


青年が、立ちあがって、おじぎをすると、拍手喝采が起こる。


指笛を吹いたのがダイダロスとわかって、青年の頬が緩んだ。


ピアニストがひっこむと、店内が、また話し声で満ちはじめる。


しばらくすると。


「みんな、来てたの?」と、さっきのピアニストが、テーブルにやってきた。


ヘパイストスは、弟のアポロンを、魔道士たちに紹介する。


「時空移動船をデザインしたのがアポロンちゃんなら、海賊の酒場みたいな、このレストランの内装を考えたのも、アポロンちゃんだよ!」


アポロンは、耀、奈月、妃乃、神龍、圭の正体を知って、


「魔道士?まじかよ!」と、驚いた。


「人間と話したのなんて、数百年ぶりだよ!」


タイタン族から見たら、天使か人間かなんて、見分けがつかない。


翼は邪魔になるから、天使は、普段、魔法で翼をしまって生活している。店にいる客も、誰も翼を生やしていない。


「人間って、珍しいですか?みんな、驚くけど。」耀は、きいた。


「こっちの世界はさ。」と、アポロンは話す。


「タイタン族じゃなきゃ、ほとんど天使だからね。人間が紛れ込んでるなんて、思わないよ。まぁ、ダイちゃんみたいな、わけありは別だけど。」


わけあり?と、魔道士たちが、ダイダロスを見た。


ダイダロスは、意味深な笑みを浮かべて、肩をすくめている。


やべ、余計なこと言った!アポロンは、焦って、「サイコパスってこと。」と、はぐらかした。


「発明家は、みんなサイコパスだよ。0から1を生み出すんだから、ぶっ飛んでるくらいがちょうどいいよね。」


ダイダロスが笑っている。


「あかんって。サイコパスって、ダイちゃんにとっては、褒め言葉やから。」


プロメテウスが言った。奈月が、ピアノの話に、話題を変える。


「一番最初の曲、きれいだったね。右手が、いったりきたりするやつ。」


「エチュード1番?」と、アポロン。


「俺が弾いたのは、全部、ショパンの曲だよ。あいつとは、友達だったんだ。」


ヘパイストス、おまえも弾けよ!と、アポロンに無茶ぶりされて、ヘパストスは、困った。


「やだ!アポロンの後なんて、絶対、弾きたくないって!」


「そんなこと言わずにさー。なんでもいいから、弾いてよ。」


「子犬のワルツならいいよ。それくらいしか、暗譜できてる曲ないよ。」


「だめ。俺が、さっき弾いたじゃん。じゃあさ、別れの曲、弾いて。」


「無理!無理!途中が、難しすぎるって!」ヘパイストスは言ったけど、「俺が横で楽譜めくるから!」と、アポロンに連行されてしまった。


 ステージに立った途端、視線が自分に集中する。


人前で弾くのと、家で弾くのは違うのに……。ヘパイストスは、緊張した。


テンポが乱れた時、ゆっくり!と、アポロンが手で合図する。


最初は弾けていたけど、途中の不協和音の音階で、やっぱり、つっかえた。


お客さんのあたたかい目に見守られながら、難関箇所を弾きたおせた。


間違えたのに拍手してもらえて、ヘパイストスは、泣きそうになった。


テーブルに戻ってきた時、よかったよ!と、みんなに褒められて、なんだか気恥ずかしい。


アポロンが、余っているピザに気づく。


「俺も食べていい?」


いいけど?と、ダイダロスが言った。


「食べたら、アポロンちゃんも割り勘の頭数にカウントされるよ。」


「まじかよ。」と、アポロンは、食べた。


もぐもぐ食べながら、アポロンが言う。


「ヘパ。星祭りでも、別れの曲、弾いてよ。」


なんで!?と、ヘパイストスは、ジャスミン茶を吹き出しそうになった。


「やだよ!ただの恥さらしじゃん!アポロンみたいに弾けないのに!」


「うまく弾けばいいってもんでもないよ。ヘパのピアノ、俺、好きだよ。音が優しいんだよね。」


「だったら、お祭り以外で弾いてあげる。」


「ビビるなって。やじ飛ばす奴いたら、俺がパンチしてやるから。」


「アポロンちゃんが指ケガしたら大問題だから、やめて!」


「お祭りって?」と、耀がきいた。


「星祭り。天界のお祭りだよ。」プロメテウスが説明する。


「星空の下で集まって、ご飯を食べたり、ゲームをしたり。星に願い事をして……日本の七夕みたいな感じ。みんなも、願い事、考えときなよ。」


 突然、すみの方で、悲鳴があがった。女店長と客のグループがダーツをしている。


遊びとは思えない命懸けのガチな空気が、妃乃は怖かった。


「なんか、すごい気迫だね……。」


そりゃそうだよ!と、アポロン。


「店長にダーツで勝ったら、食べた分が全額ただになるからね。」


まじ!?耀、奈月、神龍は、びっくりした。


「楽しそうだね。誰でも参加できるの?」


圭が、やりたくて、うずうずしている。


「もちろん。挑戦してみる?」


姉貴に勝てた奴なんて、見たことないけど。まぁ、がんばってよ。


そう思いつつ、アポロンは呼んだ。


「アルに挑戦したいって恐れ知らずが、ここにもいるぞ!」


「どいつだって!」と、銀髪ボブカットの女店長がやってくる。


「姉貴のアルテミスだよ。」と、アポロンは紹介した。


「まぁ、双子だから。俺の方が、少し後に生まれただけなんだけどさ。」


「人間が相手だろうと、私は手加減しないからね!」


アルテミスが、挑発するように、ウインクする。


耀、奈月、妃乃、神龍、圭は、5本ずつダーツをわたされた。


ルールは簡単。アルテミスより高いポイントを獲得すれば、魔道士チームの勝ち。


頼む、みんな勝ってくれ!と、ダイダロスが祈っている。


しかし、祈りは届かず。魔道士チームは、ボロ負け。


5人のポイントを合計しても、アルテミスのポイントまで到達しなかった。それくらい、アルテミスは強かった。


アルテミスが、いたずらっぽく笑う。


「ほな!金額どおり、いただきます!」



 ペガサスの乗馬に、アポロンも誘ったけど、「ごめん。俺、夕方は、オーケストラの合同練習が入ってんだよ。」と、都合つごうがつかなかった。


群れの中にいた白いペガサスが、自分から耀のそばに来た。


「このペガサス!」と、耀は気づいた。


「前に、ゼウスに誘われて乗馬した時、俺が乗ったペガサスだ!」


プロメテウスのもとには、黄色のペガサスがやってくる。


「一回乗るとペガサスに覚えられるから、自然と、自分の馬が決まってくるんだよな。」


「みんな、どの色に乗るの?」ダイダロスは、水色のペガサスをつれていた。


「絶対、白馬でしょ!」奈月と圭は、発言がかぶって、思考回路がいっしょだ!と、ふたりで笑っている。


妃乃は、サクラ色。神龍は、黒い馬を選んだ。


「乗馬初心者の魔道士くんたちは、まずは、リングくぐりかな。」


プロメテウスが、フィールドへ案内した。


「設定したレベルに合わせて、宙に、大小さまざまなリングが現れるから。それをくぐればええんやで。くぐったリングが小さいほど、ポイントが高いよ。レベルは1から10まで。」


プロメテウスが、レベルを1に設定した。


きれいに横に並んだリングが、フィールドに現れる。


最初のレベルは、まっすぐ飛べば、全部、くぐれた。


レベルが高くなるほど、リングの位置があっちこっちに、ずれてきた。


レベル5になると、テクニックがもとめられるコースに変わった。


急上昇、急降下、急旋回が、まだ難しい魔道士たちには、レベル5は、つらかった。


「俺の本気を見せてやるよ!」


プロメテウスが自分のレベルを10に設定した。


「嘘だろ、レベルマックス!?」ヘパイストスが、ひいている。


「レベル10って、どんだけ難しいの?」耀は、ダイダロスにきいた。


「ランダムで出てくるリングがあるから、反射神経も大事なんだよね。ほんとに、ペガサスと心を合わせないと、全部くぐるなんて無理だよ。」


プロメテウスは、ペガサスと息ぴったりだった。


ランダムで現れたいじわるなリングも、プロメテウスは、余裕でくぐっていた。


満点をたたきだしたプロメテウスが、ドヤ顔で帰ってくる。


「さすが、プロメテウス様……。」耀は、つぶやいた。


「俺もやろうっと!」と、ダイダロスもレベル10に挑戦した。


「俺もやる!」と、ヘパイストスも便乗した。


プロメテウスが、簡単そうに飛んでいたから、自分たちにもできそうな気がしたけど、難しかった。


ふつうにコースを飛ぶのが精一杯で、ランダムで現れたリングは、もう無視した。


コースを完走して帰ってきたダイダロスとヘパイストスに、おつかれ!と、プロメテウスが声をかける。


ダイダロスが、はぁはぁしている。


「うわー、難しいよ。プロちゃん、よく全部いけたね。」


ヘパイストスは、ボードを見た。ダイダロスに3点差で負けている。


「あとひとつ、リングをくぐってれば、ダイちゃんに勝てたのにー!」


悔しがって悲鳴をあげているヘパイストスを見て、ダイダロスが笑っている。


「ポイントがつくと、競いたくなるよねー。」


「ねぇ、今度は、レースする?」と、プロメテウスが提案した。


やりたい!と、耀たちも賛成する。


じゃあ……と、ダイダロスが、離れ小島に建っている高い塔を指差した。


「アトラスタワーで引き返して、乗馬クラブの上空がゴールね。」


 ダイダロスの掛け声で、スタートする。


冷たい潮風を浴びて、夕焼けの海を滑空する疾走感が最高で、みんな叫んでいる。


やったー!と、一位になれたヘパイストスが、歓声をあげた。


タッチの差で、みんな、次々とゴールする。


圭が、離れ小島の塔を見つめて言った。


「ねぇ。あの塔、いくらなんでも、高すぎじゃない?」


「俺も、雲に隠れて頂上が見えない塔なんて、初めて見た。」と、奈月。


「なんのために建てられたんだろう……。」耀も不思議だった。


「展望台?」妃乃が言う。


「高すぎだろ。雲しか見えないよ。」と、神龍がつっこんだ。


「空を支えるためだよ……。」プロメテウスが、淡々と話す。


「俺の兄貴、戦艦テュポンのキャプテンだったんだよ。ティタノマキアで、たくさんの命を奪ったんだ。テュポンの主砲は、島を吹き飛ばすくらい、すごい威力でさ。兄貴は、ティタノマキア後の軍事裁判で、A級戦犯になって。その罰として、ずっと、あの塔のてっぺんで空を支えてるんだよ。」


ほんと、馬鹿だよな………と、プロメテウスは、寂しそうに、


アトラスタワーを見つめていた。

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