第二十二話 昼休みの裏庭
翌日の昼休み。
俺はいつも通り教室で昼食を食べ終えた後、裏庭へと向かったが、茂みに隠れるベンチが一瞬見えたところで、俺は一度踵を返して体育館前の自販機に寄った。そこでアイスティーとコーラを一本ずつ購入して、あらためて裏庭へ向かう。
ちなみに、コーラの方がアイスティーより三十円高い。
裏庭につくと、ベンチには坊主頭の姿があった。俺は気配を消した状態で背後から近づき、青春ドラマっぽい感じで、コーラのペットボトルをそいつの頬に当ててやる。
「うわっ! 冷て!」
勢いよく坊主頭がベンチからジャンプした。う~ん、やっぱりこういうのって女の子にやりたかったな。でも実際問題女の子に対してはこんなキザな真似できない……マテ、男にやったらなおキモいんじゃないのか?
「びっくりしたぁ! 輝彦兄貴じゃないっすか!」
竹内が俺の顔を見て、ぱちくり瞼を動かしている。相当びっくりしたらしい。
「なんかお前とのファーストコンタクトって大体驚きから始まるよな」
「それは輝彦兄貴たちが脅かすからでしょ!」
「はは」
「なんすかその乾いた笑いは!」
「まあとりあえず、ここ座れよ」
「いや、もともと俺が座ってたんすけどね!」
コーラを竹内に手渡して、とりあえず俺と竹内は一旦ベンチに腰を下ろす。
「いいんすか頂いて」
「ああ、もちろん。お前のために買ってきたからな」
「あざす! ちょうど喉乾いてたんすよ! 早速頂きやす!」
シルクドソレイユでも迷うことなくコーラを注文してたから、相当好きなんだろうと思って、高かったけど買ってきたんだ。竹内が目をキラキラ輝かせて嬉しそうにしている様子を見るとコーラで正解だったようだな。
「俺、コーラ大好きなんすよね~、よいしょっと……………あれ、輝彦兄貴? ちょ、ちょ、ちょ、輝彦兄貴!? めっちゃ溢れてきてます! 溢れてきてます!」
「あれ、揺れたのかな?」
俺はもちろん冷静だ。
だって振ったから。
振りまくったから。
これでもかと振ったから。
「揺れたとかそういうレベルじゃないっすよ!」
「ああそうだった。揺れたというより混ぜたというよりも振ったかな」
「ええ! 何やってくれてんすかー! てか普通に自供しないでくださいよ!」
「ごめんよ竹内。俺としたことが……つい余計なことを……」
「余計すぎますって!」
「すまん、竹内。お前の反応が良すぎて、うざい先輩みたいな真似をしてしまうんだよ」
冷静な俺の横で、あふれ出るコーラをなんとか飲もうと戦っている姿が最高に良い。
うわ、すっごい溢れてる。メントスコーラみたいになってる。
「あぶないなぁもう。制服に掛かったらどうしてたんすか!」
「大丈夫。その時には保健室まで連れてってやる」
「あ! その手がありましたね! さすが輝彦兄貴!」
いや、納得すんのかい。
竹内は天然というのか、おバカというのか。まあ、よく言えば純粋で素直だな。
コーラの噴火が収まると、竹内も一安心した表情で腰かけに体重をかけた。
「でも、昼休みに俺以外でこの裏庭に来てるなんて珍しいな」
前回、この裏庭に来たときは菫乃が正面の茂みから出て来たけど、それは例外とする。
「実は俺も初めて来たんすよ。なんとなく歩き回ってたらここにたどり着きまして」
「でもここいい場所だろ?」
「そうっすね! 落ち着くっす!」
半分ほど無くなってしまったコーラを片手に竹内が頷いた。
裏庭だけは、騒がしい学校の敷地内とは思えないほど緩やかな時間が流れている気がする。
俺は、アイスティーを一口だけ飲み、唇を潤す。
「あのさ竹内……」
「輝彦兄貴!」
「ん?」
竹内が俺の声に被せるように、俺の名前を呼んだ。
「俺から輝彦兄貴に話したい事があるんすよ」
「えっと、なんだ?」
さっきまでハイテンションでコーラと格闘していた竹内とは、声のトーンも、表情も全く別物で、俺は雰囲気で何かが始まるのだと悟り、背もたれから腰を浮かせて背筋を伸ばした。
竹内は木々に止まる小鳥たちがいる方を見ながら、深呼吸をした。
「輝彦師匠知ってるんですよね。俺がクラスで嫌がらせを受けてること……」
竹内の口から出たのは、思いもよらない言葉だった。まさか竹内自身からその話題を切り出すとは思わず、俺はつい口を噤んでしまう。
「YouTubeに動画をあげた人も俺、分かってるんすよ」
「え?」
「海斗っすよね。あとから知ったんすけど、しずくちゃんって海斗の彼女だったんすね」
「そう、みたいだな」
竹内はポケットを探ると、なにやら年季の入った赤いお守りのようなものを取り出した。
「輝彦兄貴。海斗と俺に何があったか話していいすか?」
そして、竹内はそのお守りを見つめながら、過去に竹内洋太と篠田海斗の間に何があったのか話し始めた。
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