第11話 出発

 なぜこのおじいさんが知っているのか理解できなかった。まさに私が今まで、というかさっきまで話していたのは朔也との話だ。

 すくなくとも私が知る限り、朔也は自分の曲をネットに投稿することもしなかったし、SNSも熱心にやっている風ではなかった。はるかかなたのドイツとの接点なんてないはずだ。ましてや頻繁にこちらに来る金銭的余裕はなかった。

 もろもろの疑問をおじいさんにすべてぶつけた。



 お嬢さん、あんたはさっき、「自分のせいでサクヤが死んだ」って言っていた。それははっきり言って、違う。全くもって違うね。

 何を言っているのかわからないって顔をしてるね。お嬢さん、とにかくあんたは思いつめすぎだ。そういう自分への縛りとか、とりあえず辞めるんだ。お嬢さんはわたしとは違うのだから。


 お嬢さん、日も暮れたし、夕食でも食べに行かないか。いいレストランを知ってる。絶対にお嬢さんも気に入るはずだ。腕のいいシェフがいる。まあそいつはわたしの昔からの友達なんだが。そしていい音楽もかかってる。友達の作る料理と、あの店の雰囲気と、あのアコースティックギターが合わさってるんだ。それでいてそんなに高くない。行ってみよう、もちろんわたしの奢りだ。人気店だから席が埋まるかもしれない。よし、そうと決まればさっさと行こうじゃないか!



 うまく質問をはぐらかされた感がある。

 お互い涙の跡が残ったままの顔で、私はおじいさんの大きな車に座った。ガイドブックには、海外で誰かに誘われたりしても絶対について行ってはいけない、車に乗るなど論外だと書いてあったけど、そんなもの、このおじいさんには無関係だ。

廃城のすぐ横を通って、緩やかな坂道を下っていく。右横にはすぐ線路が通っていて、ちょうど前方から、大きな金属音を出しながら電車が走ってきた。いかにも大陸らしい堂々とした音だ。

 おじいさんの車はそのまま線路沿いを走っていって、白い小綺麗な塔のところで左に曲がった。そのままずっと緩やかな坂道を、今度は登っていって、大きな駐車場を少し通り過ぎたところにあるレストランに止まった。

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