第7話 理由
えーと、本題は何をしにここに来たのか、でしたね。
彼は私に、よく、ラインの真珠の話をしてくれました。そこには陽気な人々が住んでいて、食べ物も飲み物もすべておいしくて、風は優しく、太陽は温かい。緑があふれていて、土壌は豊か。人々はそれを享受し、また人々もそれらを思いやり、生活している。そんな理想郷がある。僕はそれを見てみたいんだって。
生きることに疲れていた彼は、その真反対の精神の人たちや環境に触れ合ってみたかったのかもしれませんね。邪推ですけど。
でも、その前に死んでしまった。だから、せめて一度くらいは彼の見たかった景色を見ておかないといけないと思ったのです。なぜかはよくわかりませんが、これだけはしておかないといけないと思いました。おじいさんの見立て通り、私は観光しに来たわけじゃないです。いうならば一種の罪滅ぼしのようなものかもしれません。
長い長い私の話が終わるころには、日が沈みかけていて、空はオレンジ色になっていた。西のほうにある渓谷で影が作られて、黒みを帯びた大河はその黒さを増していた。なんでも飲み込んでしまいそうなほど。気温はさっきまでよりも幾分寒くなったように感じる。
おじいさんは時々突っ込みを入れるとき以外、目を閉じて話を聴いていた。そのおかげで進んで話せるわけではない内容ながらも淡々と話すことができた。わかっていて目を閉じていてくれたのだろうか。
話し終えたのにしばらく沈黙が続いた。おじいさんは何も言おうとしなかった。三十秒ほどの時間だったのだろうが、私には数十分くらいに感じた。もしかしたら本当は寝ているのかもしれない。さすがに気まずく感じてきたので、私から話を振ることにした。
「おじいさん、私の話は終わりです」
「おじいさんも、何か話したいことがあるんじゃないですか」
おじいさんの目が開いた。
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