魔獣退治

夜。

村の各地に、焚き火の明かりが灯っている。

それぞれの焚き火の周りには、数人の村の人間が配置されている。


「俺達は火の番してるだけでいいのかね?」

「あの旅人さんがそう言ったんだ」

「狩りのことは農家やってる俺達にゃわからん」

「ファーマ達は旅人さんについてったみたいだが」

「コニーの仇を取りたいんだろ。気持ちはわかる」

「コニーは生きてるだろ」

「向こうは大丈夫かねぇ…」



村の東側。

クリスが一人、木箱に座って、あくびをしながら火の番をしている。


「暇だなぁ……見習いん時以来だなこんなの……クソババァめ…面倒な仕事押し付けやがって…」


ぶつぶつと独り言を溢している。

すると、周囲に気配を感じる。


「やっと来たか…」


そう呟くと、暗闇から草が揺れる音がした。

立ち上がり、音のした方へ向かう。


その時だった。


クリスの真後ろから勢いよく何かが飛び掛る。

その気配を感じて素早く剣を抜き、半回転しそれを斬り捨てる。

真っ黒な毛をした狼の様な見た目。大きく発達した牙と爪。赤い目。

アストだ。

剣を振り抜くと同時に、音のした方からもう一匹、アストが飛び出す。

更に半回転しながら、腰に差したナイフを左手で抜き、投げつける。

ナイフはアストの胸元に刺さる。

体勢を崩したその隙を見逃さず、クリスは剣を突き出す。

一瞬で二匹のアストを絶命させた。


そして、暗闇から複数のアストが唸り声をあげながら現れる。


「あらあら…寄って集ってまぁ…」


正面のアストに気を取られていると、クリスに一番近い建物の陰から三匹のアストがクリスに向かって駆け出す。

が、クリスに向かったアストは、突如沈んだ地面に吸い込まれるように落ちていった。


「流石、本職の罠。バレてねぇ」


狩人達が仕掛けた落とし穴だ。

アストは這い上がろうと穴の中でもがいている。


奇襲が失敗したのを把握した、アストの一匹が遠吠えをする。

それを合図に、一斉にアスト達はクリスに襲い掛かる。

だが、それも突如飛んできた、四本の矢に阻まれる。

矢は全て命中し、四匹を行動不能にした。

異変を感じ、動揺しているアストを、クリスが一気に切り伏せる。


「ふぅ…」

「やったなクリスさん!」


ファーマの喜びに満ちた声が聞こえる。

声のした方を振り向くと、ファーマと他の狩人の四人が、民家の屋根の上から弓を持って手を振っていた。


「あぁ、助かったよ」


クリスが手を振り返す。


「そりゃこっちの台詞だ!」

「あんたすげぇな!」

「あんな一瞬で魔獣共斬っちまうんだもんな!」


そう褒められると悪い気はしない。

クリスが狩人達に向かって歩き出す。


「フフッ…まぁ、それ程でもあります…」

「あっ!」

「そこは!」


クリスの踏み締めた地面が沈む。


「のおおおおおおおおおおおおお!!!」

「落とし穴が…」

「あるぞー…」




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