第2章 仲間たち

第4話 三献茶の逸話

翌日から、私は事務所に毎日通うようになった。


毎日1話、利休の話を聞き、人に話す方法を伝授された。


長官:「まっすぐ目を見て話しすぎると、人は恐怖を覚えます。時々、視線をずらしましょう。また、ジェスチャーを入れるのも効果的です。相手に視線を逸らす時間を取らせるのです。」


秘書:「長官、そろそろ時間です。利子さんに今日の逸話を話して良いでしょうか。」


長官:「お願いするよ。」


秘書:「では、今日は三献茶の話をしましょう。」


私:「わ~い。待っていました。」


秘書:「ある時、利休がお寺を訪れ、喉が渇いたのでお茶が欲しいと言います。」


秘書は間を開けて、両手で大きめの茶碗を持つようなジェスチャーした。

秘書:「一人の小坊主が、大服でぬるい茶を出します。利休は、大変おいしいので、もう一服ほしいと言います。」


秘書は、少し両手を小さくして言った。

秘書:「少し熱めの茶をちょうどよい程度出します。利休は、さらにもう一服ほしいと言います。」


秘書は、さらに両手を小さくして言った。

秘書:「今度は熱い茶を少量出します。利休は、その飲ませ方にとても満足したそうです。さて、利子さん、利休は何に満足したと思いますか?」


私:「おいしい抹茶を飲めたことに満足したわけじゃないの?」


長官:「それだけでは、ないんだよ。温度と量を三回に分けて飲ませる方法は、身体にも良い方法なんだ。そして、疲れている人に対する心意気が感じられた。」


秘書:「利休は始め、喉の渇きを取りたかったのだから、たくさん飲みたいのがわかるでしょ。」


私:「はい。」


秘書:「次は、喉の渇きが癒えているわけだから、普通に味わいたいと思わない。」


私:「思うかも。」


秘書:「最後は、抹茶の味わいがわかるよう熱くして、しかも無理なく飲める程度に少なくしてあげれば、三杯とも全部飲むことができると思わない。」


私:「そうか。それで疲れている人に対する心意気が感じられるんだ。」


長官:「利子さんは優秀だね。利休は、心を打たれたんだよ。利子さん、私達、利休派の最大の武器は、言葉で相手の心を打つことなんだ。織部ズムのように物で釣るのではなくね。」


秘書:「利子さん、あなたなら友人を言葉で取り返すことができるはずよ。利休の逸話を信じて。」


私:「はい。ありがとうございます。」


その日、私に新しい特技が備わった気がした。


◆◆◆


現在の利子の特殊能力

 ・逸話の伝道師・初級(☆LVUP↑)

 ・茶道は不得手

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