第73話 あの日の出来事

「実はこのエルフの里を作ったのは私なのです」


 ティードリッドは語りだした。


「あれは今から数百年前、この世界は様々な種族が共存してそれは平和な世界でした。しかも、人間、エルフ、ドワーフなど多岐多様な種族がいて、妖精族などが飛び交い、さらに魔族も仲良くしていたのです。暫くは争いごともなく、穏やかだったのですが、ある時、天を裂かんとばかりに空が割れたのです。まるで、異次元の穴が開いたようでした。そして、その穴から奴らが現れたのです」

「・・・・・・もしかして」


 琢磨の思ってることを肯定するように頷くとティードリッドは言った。


「そう、天使です。奴らは突然現れ、私たちは事態を飲み込めずただ、空を見つめて傍観してました。その時、奴らは地表目掛けて何かを投下しました。それは一瞬の出来事でした。それが着弾するのと同時に大爆発が起きました。その衝撃をまともにうけたのか暫く気を失っていましたが、目を覚ますとあんなに美しかった自然や街並みが嘘のように消失して辺り一面焼け野原でした。しかも、魔族を筆頭に一部の他種族までもが逃げ惑う人を追いかけては惨殺していたのです。その様子は阿鼻叫喚でした。私たちは何とか逃げ延び、そこに新たな土地を作りました。それがのちのエルフの里です。私は長年、天使の動向を探っていました。その結果、人間が王国を作り、シンボルとして天使をあやかってることを掴みました。そして、最初の内は王国にスパイとして、一緒に逃げ延びた人間やエルフの仲間が変ええてこないことがしばしば続きました。そこで私自ら赴くことになったのですが、このエルフの姿では目立つことからダークエルフの姿で潜入することになったのです。幸い、ダークエルフは天使側についてるって噂があったので王国にはスムーズに入れたのですが、ある時私は天使の罠に引っかかり四方を固められ、絶体絶命のところを颯斗の生産系スキルによって救われたのです」

「・・・・・・さすが魔王様」


 シエラの呟きが聞こえたのかティードリッドは微笑みながら言った。


「この時の颯斗はまだ魔王って認知されてなかったんですよ」


 ティードリッドは話を続ける。


「颯斗のおかげで何とか逃げ延びた私はエルフの里に戻り、天使の動向を探っていました。颯斗は天使に逆らった魔王として手配書が出回り身動きが取れませんでした。しかも、多くの人間や他種族の者たちは天使に精神を支配されてる者もいれば自ら進んで協力する者もいました。そこで、エルフの里に天使に関わるものが入ってこれない様に結界装置を作りました。それが完成したのち私と颯斗は天使の動向を探りつつ志を同じくする仲間集めに奔走ほんそうしました。その過程でそれぞれの土地に拠点を作り機会を窺ってました。ちなみに拠点は怪しまれない様に見た目はダンジョンです。シエラが封印されてたのもその一つです」


(どおりで、ダンジョンなのに最下層に颯斗の研究室があったわけだ)


「そうしたある時、私たちは天使が真祖の吸血鬼が持つ不老不死の体を狙ってるってことが分かりました。ただ、私は吸血鬼にあったこともなければ見たこともありませんでした。おとぎ話に出てくる伝説の生き物で実在するとは思ってませんでした。そして、颯斗と手分けして情報集めをしてやっと吸血鬼がいる場所を掴んだのです。そして、信頼できる仲間を集めてすぐに向かったのですが、結果は既に壊滅していて唯一生き残っていた吸血鬼を助けることしかできませんでした。天使は真祖が見つからなかったことで諦めたようでしたが奴らはまたすぐに来ると思いその救い出した吸血鬼を拠点に隠しました。その拠点は颯斗の魔法で一切の気配を探知できない様にしていたのでそこにいれば安全でした。それからしばらくは何事もなかったのですが、八か月たって遂に天使に真祖が私たちのところにいることがばれてしまったのです。あとでわかったことなのですが私たちの中に情報を流している者がいたのです。それがダークエルフの女性でした。あろうことか私が変装していたダークエルフの格好でバレたとしても私に罪をかぶせるつもりだったのでしょう。ちなみにこのダークエルフは颯斗に討伐されています。しかし、情報が漏れたことで天使が来るのも時間の問題でした。強大すぎる天使の力には私達で勝てる見込みはゼロでしたが、奴らに真祖がを取られたら未来永劫あいつらの言いなりになってしまう。そこで、天使でもなかなか手が出せない拠点の最下層に真祖を封印することにしたのです。いつか、天使に歯向かう者が封印を解くことを願って・・・・・・もう、お分かりかもしれませんがその吸血鬼の真祖がシエラさんです。あとは皆さんが知っている通りです。何か質問はありますか?」


 ティードリッドは琢磨たちを見回す。


「・・・・・・一つ聞いていい?」


 声を上げた主はシエラだ。


「何ですか、シエラさん?」


 シエラはしばらく俯いていたが、意を決したように聞いた。


「・・・・・・どうして、私を封印したの? 最後までみんなと一緒が良かった・・・・・・」


(シエラ、お前・・・・・・やっぱり気にしてたのか)


 居たたまれない空気が流れる中、ティードリッドが口を開いた。


「先ほども言った通り、天使にあなたの真祖の力を奪わせないためですが、本当のことを言っても言うことを聞いてくれなかったでしょう。みんなを――特に颯斗をしたってどこに行くのも一緒でしたから」


 シエラは当時を思い出したのか、目じりに涙が浮かぶ。


「シエラはあの日、封印される時のことを覚えていますか?」

「・・・・・・んっ、あの時、出来たばっかりのダンジョンを視察するから一緒に回らないかと誘われて・・・・・・」

「そうです。あの時の天使の力は増大でとても太刀打ちできる状況じゃありませんでした。あのまま戦えば私たちは全滅、それではこの世界に未来はありません。そこで、颯斗はひそかにシエラの力を奪われない様に封印装置を作ったのです。いつか壊してくれるものが現れることを願って。そして、私たちは颯斗がシエラを封印する間の時間稼ぎをしてたのですが、次々とみんなやられていきました。それほど天使は絶大な力を持っていたのです。私もここまでだと諦めようとした瞬間、颯斗が現れたのですが、封印に相当魔力を使ったのか戦う力がほとんど残っていませんでした。そして、颯斗は天使の指示を出してる者だけにターゲットを絞って自分の命と引き換えに自爆技を放って天使をある程度巻き込んで撤退させることができたの。颯斗はあらかじめ自分が死んだら発動する魔法を施して、魂を骸骨の人形に憑依させてシエラの封印が解かれるのを待ってたみたいです。天使も痛手を負ったのか暫くは平穏で私もいずれ来る戦いに備えて戦力アップを図ってました。その間、こまめに颯斗と連絡とっていたのですが、ある時、シエラの封印を解く者が現れたと連絡を受けて急いでシルフィーを使いに出したのです。それ以来、一切連絡がないことからもう、颯斗はこの世にいないんでしょう。あとは皆さんの知っての通りです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る