第69話 琢磨、思わぬ情報を掴む

「ほら、大丈夫か?」

「す、すいません。あまりの衝撃に驚いてしまって・・・・・・」


 琢磨は尻もちをついた店主を助け起こす。


「それにしても生きてたんですね。ダンジョンの奈落に落ちて行方不明だと聞いたので、私はてっきり・・・・・・」

「・・・・・・俺が落ちたこと誰から聞いたんだ?」

「それは、ガブリエルさんと彩さんから聞いたんですよ。あの時、琢磨さんたちと別れた後、無事に商業都市ガモスにたどり着き、商売を始めて二か月ぐらいでしょうか? お二人が仲間を引き連れていろんな人に聞き込みをしていたんです。切羽詰まったような顔だったのとタクマさんがいなかったことで何かあったのかと思い声をかけて琢磨さんがダンジョンで奈落に落ちて行方不明で、もしかしたらダンジョンの抜けた先にある商業都市ガモスにたどり着いてるんじゃないかと思って探しに来たと言っていました。何でも手続き上ギルドには死亡届が出されたらしいのですが、自分たちは生きてることを願って仲間たちと手分けして情報を探してると言ってました。しかも、そこには、ラファエル様も手伝ってくださってるとか」


 今聞きずてならない名が出なかったか?


「・・・・・・ラファエルって天使のか?」

「はい、そうです。今から数日前に王国に天使が降臨されたってニュースが駆けめくったんですがご存じないですか?」


 天使が? 俺を探してる? 俺の存在がばれたのか・・・・・・


「タクマ・・・・・・」


 シエラが心配そうにしてるが大丈夫だと目で合図して店主に聞いた。


「天使ってラファエル一人か?」

「そう聞いてます。お二人がおっしゃるには王国でタクマさんを探す手がかりを見つけられずにいると、騎士団長にあるところに連れていかれたらしいのです。そこは古びた教会で中に入るとそれが合図だったように急に光の柱が現れ、しばらくして光が消えるとその場にはラファエル様が立っていたそうです。何でも、この世界に呼んだタクマさんの反応が突然消えて行方を掴めなかったからその情報をガブリエルさんに聞きにいらしたようなんです。そのことを聞いた時はさすがに驚きました。まさか、タクマさんが転生して天界から送られた人でガブリエルさんが天使だったなんて・・・・・・おっと、こうしちゃいられない」


 店主はカウンター席の引き出しから何かを取り出すと直ぐに戻ってきた。


「何だ、それ?」


 店主の手には緑色のビー玉のような物が握られていた。


「これですか。これは、離れた相手と連絡できる魔法道具マジックアイテムです。相手も持ってないと意味ないのですが、この前ガブリエルさんたちに再開したときにお渡ししておりましてこまめに連絡を取っているのです。きっと驚きますよ、タクマさんが生きてここにいると知ったら・・・・・・」


 店主が魔法道具を起動しようとするのを琢磨が手で押さえて止める。


「どうしたのですか?」


 店主が怪訝けげんな顔して聞いてくる。


「・・・・・・俺が生きてること、しばらく伏せておいてくれないか?」

「えっ!? なぜです?」

「ちょっと気になることがあってな・・・・・・それに、生きてる俺にじかにあった方がサプライズになるだろ」


 店主がいぶかしい顔をしている。ちょっと言い訳がましかったか? 店主がなんて言うか身構えていたら、「サプライズって、何ですか?」と聞かれて思わずズッコケそうになった。

 シエラとシルフィーも首をかしげている。同じく意味が分かってないのか二人はアリサに教えてもらっている。どうやら、こちらの世界にない言葉なのかもしれない。


「サプライズっていうのは簡単に言うと驚きのことだ。生きてる俺にあった方が驚きはでかいだろ?」

「なるほど。理解しました。そういうことなら黙っておきます。それにしてもサプライズとはいい響きですね。今度驚きを浴びせるような商品が手に入ったら商品名『サプライズ』っていうのもいいかもしれないですね」


 もう次のアイデアとは根っからの商売人何だと思った。


 話が一区切りついたところで店主が買い取り価格を提示する。


「買取価格は金貨二十枚に銀貨五枚となりましたがよろしいですか」

「ああ、かまわない。それと、兎人族の耳飾り一つくれるか。いくらだ?」


 シエラが嬉しそうな顔で見てくる。なんだかすごくかわいい。今すぐ撫でたい。

 その様子を見ていた店主がにこやかに言った。


「代金はいりませんよ。差し上げます。タクマさんが生きていてくれたことがとてもうれしいのでそのお礼ということで」

「そうか、ありがたくもらおう」

「じゃぁ、俺たちは行く」

「はい、私はしばらく店をここに構えるつもりなのでまた何か入用の時に来てください」


 シエラたちが店を出た。後に続いて琢磨が暖簾を上げたところで、もう一度店主に言った。


「分かってると思うが、俺が生きてること黙っておいてくれ」

「分かっております。『サプライズ』ですね。安心してください。商売人は信用性第一ですから。たとえ拷問されようと喋りません。墓まで持っていきます」


 その言葉を聞いて、琢磨は店を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る