第68話 豪商人との再会

 アリサたちが商品を見てる頃、琢磨は別の商品棚で商品を手にとっては戻すという作業を繰り返していた。琢磨は異性との付き合いはアリサだけしか記憶がない(アリサが琢磨に近づく女性を遠ざけていたため)。物心ついた時から一緒にいたため喧嘩しようが直ぐに仲直りできる。だが、それ以外の女性にはどう接したらいいか分からない。どうとでもいいなら冷たくあしらったりして特に気にしない。

 琢磨は「ハァ~」とどうしたものかとため息をつくとその様子を見ていたシルフィーが話しかけてきた。


「何だか、シエラさん元気なさそうですけど喧嘩でもしました?」


 琢磨はチラッとシルフィーに視線を向けるが、何も言わずに別の棚に向かう。シルフィーは琢磨の服の袖をつかんだ。


「ちょ、ちょっと無視しないでください。相談に乗りますよ。それに一人で抱え込まないで話した方が楽になると言いますし、言っちゃいましょうよ! さ ぁ!・・・・・・さぁ!」


 シルフィーの掴む手にさらに力が入る。


「ああ、もうつかむな! もとわっといえばお前のせいじゃないか!」


 一瞬何を言われたか分からない顔をしたシルフィーだが負けずに言い返す。


「な、何で私が悪いことになるんですか!」


 琢磨は振り返るとシルフィーの耳を掴む。


「ふぁっ、ま、またさわって・・・・・・」

「こんな耳をしてるのが悪い。こんなの見たら触りたくなるじゃないか」

「そ、そんなの言いがかりです。あの時、獣耳族の耳に目移りした琢磨さんが悪いんじゃないですか!」

「こ、この、まだ言うか」


 琢磨はさらにモミモミとシルフィーの耳を掴んでる手に力を込める。シルフィーは段々気持ちよさそうに悶えだしている。その様子を遠めに見ている客もチラホラ。


「・・・・・・タクマ」


 背後から呼ばれて、琢磨はシルフィーの耳を掴んでいた手を放すと、さび付いたロボットのような動きでギギギと後ろに振り返った。するとそこに立っていたのはシエラだった。


「ど、どうしたんだ。シエラ――」


 琢磨は恐る恐るシエラを見ていたがある一点で目が留まった。何とシエラの頭になかったはずの兎人族の耳が生えていたのだ。・・・・・・これはいったい。


「タクマ、カワイイ?・・・・・・」

「・・・・・・ああ、どうしたんだ、それ?」

「向こうにあったのよ、その耳飾り。しかも偽物とは思えないぐらいの触り心地で良い反発ぐあいだったわ」


 アリサがいい物を見つけたと言わんばかりに力説する。


「・・・・・・タクマ、これで他のに目移りしない。触りたくなったらいつでもこれ・・・・・・提供する」


 やはり、シエラは琢磨が他の種族に興味を惹かれてたのが気になっていたらしい。嫉妬しているシエラも可愛いと心の中のファイルホルダーに保存する琢磨だった。

 その時、ちょうど査定が終わった店主が現れた。


「お客様、終わりましたよ。・・・・・・おや、そのアクセサリーに目をつけるとはお目が高い」

「何だ、魔力でも内蔵されてるのか。見たところ何もなさそうだが・・・・・・」

「これは珍しい。鑑定スキルをお持ちですか。なら、誤魔化しても無駄ですな。これは、おっしゃられる通り何の変哲もない飾り、いわゆるただのファッションアイテムです。これを身につけたからってステータス上、何の変化もありません。ただ、これは男のロマンなのです。お客様ならお分かりかもしれませんが、獣耳族の中でもウサギの耳が特徴の者たちを兎人族とじんぞくというのですが、そのモフモフとした耳を触りたい男たちが後を絶ちませんでした。しかも、兎人族は身体能力も高くさわりにいこうなら返り討ちに会い、万が一触ってしまうと、兎人族のおきてでその者と結婚するか殺すしかないということでどちらにしろ触ってしまったものに一生纏まとわりつきます」


 どこかで聞いた話だな。纏わりつかれるのやだな。もう、一人めんどくさいのがいるのにこれ以上増やしてたまるか。触りに行かなくてよかった。横目でシルフィーを見るが、「何か?」みたいな顔をしているのでわかってないな、コイツと思いながら話の続きを聞く。


「触りたい男たちとそれをうっとおしいと思った兎人族の女性たちでにらみ合いが続きました」


 なんかいきなりしょうもない話になってきてないか。アリサなんて飽きて商品を品定めしてるし、シルフィーもアリサのところに行ってしまった。この場には俺とシエラしかいない。これは、話を振ってしまった手前、最後まで聞くしかないようだ。


「にらみ合いが続いてしばらくたったころ、これを見かねた兎人族の職人と私たち商人が立ち上がりまして、本物そっくりな兎人族の耳飾りを作って売ろうと考えたのです。まず、兎人族の職人が兎人族の女性の耳から型を取り、その後に毛を一本一本手作業で飢えていきます。ちなみにその毛は我々人間の髪みたいに抜け落ちた物を使っています。兎人族の女性は自分の毛を持っていけば高値で買い取ってくれるから喜んで提供してくれるわけです。そして、完成した商品を我々のところに卸して売るという訳です。そのおかげで、いざこざが無くなり、さらに思ってもいなかった効能で今では手に入れるのも難しくなっています」

「・・・・・・効能って何?」


 シエラの質問に店主はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにほくそ笑んで言った。


「それは――」

「「それは」

「それは、何とこの耳飾りをつけた女性が男性にプロポーズするとうまくいくというジンクスが生まれたのです。しかも成功率は脅威の百パーセント!!」


 その言葉を聞いたシエラは即座に「これ、ほしい」と言った。


「そうだな。これいくらだ」

「少々値が張りますがよろしいですか?」

「かまわない」

「・・・・・・タクマ、ありがとう」


 シエラの言葉を聞いて店主の動きが止まり驚いたように琢磨を見る。


「タクマ・・・・・・あなたはもしかして鈴木琢磨さんですか。たしかに大分印象が変わりましたが面影がある・・・・・・」


 店主のの言葉に琢磨とシエラが魔力を高める。異変に気付いたアリサとシルフィーも加わり、いつでもいけるように臨戦態勢をとる。

 琢磨たちから来るプレッシャーに脂汗を流しながら店主は慌てたように言う。


「ま、待ってください。私のことを覚えていませんか。野営地でお世話になったものです」

「野営地・・・・・・?」


 琢磨は野営地、野営地と呟きながら店主の顔を見比べて思い出した。


「あ~あ、俺がガブリエルと彩と一緒に駆け出し冒険者として旅をしてた頃、野営地で一泊止めてくれたあの商人か」

「思い出してくれましたか。まさかこんなところで再開できるとは」


 琢磨が魔力を霧散させたことに倣ってシエラたちも臨戦態勢を解いた。プレッシャーから解放された店主はその場で勢い余って尻もちを着いてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る