第66話 アリサが琢磨を追いかけて異世界に来た理由

 琢磨が荷物の整理をしているとシエラたちが戻ってきた。


「話はついたのか?」

「・・・・・・アリサはいい奴。タクマと同郷なだけはある」

「シエラはとてもいい子ね。琢磨が好きになったのが分かるわ」


 琢磨は違和感を覚えて整理していた手を止めた。


「お前ら、さっきまで殺す勢いじゃなかったか? 一体何をしたんだ?」


 琢磨の疑問にアリサが答える。


「ちょっと話し合いをして、シエラが琢磨の正妻で私が第二夫人ってことで落ち着いたから」

「そうか――――えっ!? 今なんつった」

「だから!! 何でそうなる」

「だから昔約束したって言ったじゃない。それがあったから生きてこれたのにあなたは死んだっと思ったら異世界に行ったというし颯斗に頼んでこっちの世界に召還してもらってやっと琢磨を見つけたと思ったら既に女の子を侍らしてるしおまけにその子と結婚するって知ったときの私の気持ちわかる?」


 アリサの剣幕に琢磨は目をそらして、「なんか、すまん」と謝るしかなかった。


 琢磨はハァ~とため息ついてシエラに聞いた。


「シエラはいいのか?」

「・・・・・・かまわない。それに約束をずっと忘れずに一途に貫いたアリサの気持ちを尊重すべき。・・・・・・それに、約束を反故ほごにするなんてタクマはするはずがない。・・・・・・違う?」


 まさか、シエラがアリサ側に立つと思わなかった琢磨はたじろぐ。


「わかった。シエラがそれでいいなら何も言わない。アリサに何も思わないわけでもないしな」


 話がひと段落ついたところでシルフィーが「はい、は~い」と手を上げて話に入ってきた。


「私も彼女に立候補してもいいですか?」


 シルフィーの言葉に対して、三者三葉に――


「これ以上話をややこしくするな」

「・・・・・・この泥棒猫!!」

「分をわきまえなさい」


 シルフィーは「三人とも辛辣ですぅ~」とシクシク泣いていた。




 それから荷物の整理を終えた琢磨たちは物を売るために商人が多く集まっている広場にシルフィーの案内で向かっていた。

 広場へ歩いてる道中、アリサに気になったことを聞いた。


「そういえば、颯斗が言ってたこの世界に呼んだ人ってアリサだったんだな」

「そうよ、颯斗に聞いたんじゃないの?」

「いや、俺のよく知ってるやつとは言ってたんだが、誰かを言う前に消えてしまったからな」


 琢磨たちの会話を聞いてたシエラが言葉を挟む。


「・・・・・・魔王様、いつも肝心なこと言わない」


「そうなんだ。私は琢磨が死んだことを信じられず原因をいくら調べても何も分からなかった。しかも、みんなの記憶からも琢磨の存在が消えていたわ」

「何だと!? それはどういうことだ?」

「・・・・・・みんなから記憶が無くなったなら何でアリサだけ覚えてるの?」


 シエラも気になったらしく質問した。


「順を追って話すわ。まず、記憶がないと言ってもあの時の琢磨は何年も家に引きこもってゲーム三昧。まともにあってる人も私ぐらい。おまけに両親も海外にいて何年も帰ってきてない。だから、記憶が無くなったんじゃなくみんなの記憶から琢磨の存在が忘れ去られただけだと思ったわ」

「おい!」


 琢磨のツッコミを無視するようにアリサは話を続ける。


「そして私は手掛かりを得ようと琢磨が死んだ交差点に言ったの。周りにはコンビニ、レストランなどもあって人通りが多いから誰かしら目撃情報があると思ってね。そこなら知り合いじゃなくても人が無くなるような出来事早々忘れるはずないと思っていろいろな人に話を聞いたの。だけど、その道をよく使う人や隣接する店で働いてる人に聞いても、誰もそんなことは起きてないって口をそろえて言ったわ。耳を疑ったわ。でも答えは変わらなかった。私はあまりのショックでふさぎ込んでいたら、あれほど騒がしかった車や人の話し声などが聞こえなくなって顔を上げたら時間が止まったように周りの者が身動き一つしてなかった。そのことに唖然としていると突然声が響いてきてそれが颯斗だったのよ。それでいろいろ聞いたわ。琢磨の死因は天使が関わってるものでそのせいでみんなの記憶から抜け落ちたとね。だけど私には魔力の素質があって、精霊にも愛されてるらしいの。そのおかげで記憶が抜け落ちなかったわけなんだけど、最初、何言ってるんだと思ったけど目の前で進行形で摩訶不思議なことが起きてたら信じるしかないじゃない。その時に琢磨が死ぬ瞬間を颯斗がその場所の時間軸を巻き戻して見せてくれたわけだけどまさか、ゲーム機が空から降ってきてそれが原因で死ぬなんてね、思わず笑いそうになったけど、死ぬときもゲームってある意味琢磨らしいと思ったわ」


 琢磨はあの時のことを思い出したのか、顔を真っ赤にして「・・・・・・あの野郎、余計なことをっ!!」とこの場にいない颯斗に憤慨ふんがいしていた。何か、この情景を思い浮かべてしたり顔をしている颯斗の顔が目に浮かびそうだ。


「そして、琢磨が異世界に転生して、その天使たちがいる天界がまた琢磨を狙ってることを聞いて颯斗の誘いに乗ってこの世界に来たの。その時の時間軸のづれかなんかで琢磨がこの世界に来る数か月前に来たらしんだけど、幸い時間があったからこの世界の知識と魔力の使い方をみっちり仕込まれたわ。そして、最後は冒険者になって実戦で戦い方を身につけていったわ。今度は私が琢磨を守れるぐらい強くなるって誓いを胸にね」


「・・・・・・タクマのためにそこまで。アリサ、私は感動している」


 シエラはどこかで影響したようなセリフを吐いて拍手している。

 アリサは戸惑ったように「あ、ありがとう」と言った。

 その時アリサは思い出したように言った。


「・・・・・・そういえば、冒険者してる時にちょっとの間、日本から転生してきたって言ってたコスプレイヤーの格好をしたような子と一緒にいたことあるんだけどあの子、元気かしら。もし、あの子も天使に狙われてるならどうにかしてあげたいけど・・・・・・」


 アリサが言っているコスプレイヤーには琢磨は覚えがあった。


「もしかして、彩のことか?」

「・・・・・・下の名前で呼んでるのが気になるけど、彩ちゃん、元気かしら」


 彩はガブリエルと一緒にいるはずだ。それに俺をこんな目に遭わせた元凶も・・・・・・

 どうするか迷ったがアリサに言うことにした。


「・・・・・・彩は、たぶんガブリエルと一緒に行動している」

「また知らない名前。また女ね。白状しなさい。この世界でシエラ以外にどんだけ女性を篭絡ろうらくしたの?」


 アリサに詰め寄られて胸倉をつかまれて揺さぶられる。


「お、おちつけ。ガブリエルは天使だ」

「・・・・・・どういうこと?」


 琢磨は説明した。自分が死ぬ原因になったのはガブリエルが天界から落としたゲーム機が当たったこと。異世界転生にするにあたって持っていけるものにガブリエルを指名したこと。そして、この世界に来て共に冒険したなど・・・・・・


「なるほどね。あんなおかしな死に方もとい琢磨を殺したのはそのガブリエルなのね。今度会ったら八つ裂きにしてあげるわ。それにしても天使が一緒にいたならもしかしたら琢磨が死んだと思って警戒が緩んでるかもしれないわね。彩だけはどうにか助けてあげたいわ」


 琢磨は考えた。彩はおそろくガブリエル一人ならどうにでもなりそうだ。だけどあそこには俺を殺そうとした奴がいる。ガゼル団長も善人そうだったがさっきの騎士団が平気で悪事を働いてたし天界の後ろだってがあるようなことも言ってた。だとすると、騎士団のトップが何も知らないわけがない。今思えばあの時、声をかけてきてパーティーを組もうとした流れも不自然だ。他にも冒険者はいっぱいいたのになぜ俺たちだったんだ。あの時は冒険者になったばかしのペーペーだった。冒険者になりたてのものを死なせないためみたいなことを言ってたような気がするがもしかしたら俺が天使に疑問を抱かない様に天界が命令して監視するために来たのかもしれない。ガゼル団長が連れてきた冒険者はみんな初心者みたいだったがグルで演技だったのかもしれない。


「そうだな。もし見かけることあったら彩だけでも助けないとな」


 話がひと段落ついたところで広場にたどり着いた。

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