第65話 琢磨をめぐる恋愛模様

 琢磨が荷物整理しているとシエラが声をかけてきた。


「・・・・・・タクマ、どうして一人で戦ったの? 私たちのため?」

「・・・・・・ああ」


 シエラが言っているのは騎士団との戦いのことだ。あの時騎士団の態度にシエラの魔力が高まり今にも爆発しそうだった。それを遮る形で琢磨が一人で騎士団の連中を瞬殺してしまった。シエラにとって不完全燃焼だっただろう。だからシエラには聞く義務があるかも知れない。


「一番はあんな連中に一瞬でもシエラの体を目に焼き付かせたくなかったことだが、それ以外にも確かめたいことがあってな・・・・・・」

「・・・・・・確かめたいこと?」


シエラが聞き返す。シルフィーとアリサが興味深そうに聞き耳を立てている。


「・・・・・・別に大したことは無いんだけどな・・・・・・俺は今まで魔物しか殺したことなくてな、あの時の騎士団の連中が初めての人間相手の戦闘でな、元の世界でも人殺しはご法度だったしできれば殺したくなかったんだがここではそんなきれいごとは通用しないと学んだんでな。だから、人を殺した時の自分がどうなってしまうか騎士団で実験してみたんだ。向こうが殺意むき出しで襲ってきたしな。・・・・・・で、結果、初の人殺しをしたわけだが、特に何も感じなかったし、もしかしたら見た目が変化したときに心も変わって化け物になってしまったのかもな」

「そんなことない!」


 いつにもなくシエラが声を張り上げて否定する。初めて見たシエラの剣幕にシルフィーとアリサが目を見開いて驚いている。その様子を見てシエラは自分がしでかしたことに顔がみるみる赤くなって顔を背けて呟く。


「・・・・・・そんなことない。タクマは人間の心を失ってない。本当に身も心も化け物になったんならあの時、私を助けてない。あの時私を助けるメリットなんてなかった。それなのに助けてくれた。その結果、今の私がある。タクマが人間の心を失ってない証拠。・・・・・・それに、化け物ならそんなこと考えすらしない」


「確かに」とシルフィーとアリサが頷いている。

 琢磨は照れくさそうに「ありがとよ」とお礼を言うのだった。そんな時アリサが言った一言で別の火種が付いた。


「琢磨、安心しなさい」

「・・・・・・何がだ?」


 琢磨が疑問を投げかけるとアリサは顔をニヤ~とさせて言った。


「昔約束した結婚の約束、たとえどんな姿になっても私の愛は冷めないからね」


 アリサの投下した爆弾発言にシエラとシルフィーが理解できてないのか固まっている。

 琢磨は慌てたように言った。


「い、いつ、そんなこと言った?」

「ほら、思い出してみなさい。幼稚園の時、大きくなったら結婚しようって親がいるところで劇的にプロポーズしてくれたじゃない。今でもうれしかったことを覚えてるわ」

「それは子供の時のことだろ。そんなもんは無効だ。それに――――」


 琢磨の言葉を遮るように琢磨の腕に自分の腕を絡めるとシエラは勝ち誇ったような顔をして言った。


「・・・・・・タクマと結婚するのは私。お前の出る幕はない」

「・・・・・・何ですって!?」


 アリサはタクマとシエラを交互に見るとあわれむような目で言った。


「・・・・・・琢磨、いくらモテたかったからって、こんな幼女に手を出したら犯罪よ」


 アリサの言葉がかんに障ったのか怒気を強める。


「・・・・・・お前、いい度胸。それに私は吸血鬼の真祖。お前よりずっと長生き・・・・・・」

「なら、おばあさんじゃない」

「おばっ!? ・・・・・・もう許さない。私を侮辱したことを後悔させてやる」


 シエラが魔力を高めてアリサを攻撃しようとしたとき、アリサは何かを手にかざした。


「これ、な~んだ?」

「そ、それは!?」


 アリサが手に持っていたのは琢磨の他人には見られたくない写真だった。普通なら琢磨にすぐ様に回収された上に半殺しに会うところだが、琢磨は二人が争いだしたところで関わりたくないと言わんばかりに荷物の整理の続きをし始めたためこの状況に気付いていない。


「これ、欲しいんじゃない?」

「だ、誰が・そ・ん・な・も・の」


 アリサが写真を持っている手を左右に動かすのに合わせて、シエラの目も左右に動いている。


「いくら言葉で否定しても体は正直ね」

「くっ・・・・・・何が望み?」


 アリサは微笑んでシエラの元に近づきと誰にも聞かれない様に耳元でささやくように言った。


「そこまで用心しなくても大したことじゃないわ。この世界は、一夫多妻制が珍しくないみたいらしね。正妻の座はシエラにあげるわ。だから私を第二夫人として認めてくれない。そしたら他の写真も上げるわよ。それに、私たちが争うより協力したほうが琢磨のためになると思うのよね。どう?」

「お前の言うことにも一理ある。だけど元の世界に帰りたくないの?」


 シエラの言葉にアリサは腰に手を当て胸を張るようにして言った。


「ふっ、愚問ね。私の望むところは琢磨の傍にいる事。琢磨がいない世界には何の未練もないわ」

「そう、分かった。なら、その提案を受ける。でも、タクマがOKするか分からない」

「それなら大丈夫よ。それはそうとお近づきの印に」


 アリサはシエラに一枚の写真を渡す。


「こ、これは!?」


 渡された写真には琢磨が涎を垂らして机にうつ伏せで寝ている写真だった。


 それを見たシエラはいい物を見せてもらったとばかりにアリサと熱い握手を交わすのだった。

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