第63話 騎士団との戦い、決着!!

 小隊長の首が落ちたことで辺りを静寂が包む。

 琢磨に恐怖したように後ずさりしたのが信じられないのか、恫喝する様に苛立いらだちをあらわにして怒鳴る小隊長だったが、その頭部が胴体と別れたことによって、強制的に、そして永遠に口を閉ざさせられた。そして、残された胴体は糸が切れた操り人形みたいに後ろへ倒れ込む。

 何が起きたか理解してない苦悶の表情を浮かべる小隊長の頭。そして、それを呆然と眺めてる小隊長の部下たちに容赦のない追い打ちが駆けられた。


 スパァァンッ!


風を切り裂いたような音が聞こえたと思ったらさらに騎士団の頭部が三つ斬り飛ばされた。

 突然の事態に騎士団の兵士たちは半ばパニックになりながらも武器を琢磨に向ける。何が起きたが理解できないが琢磨がやったことは理解できてるゆえの迅速な行動だ。人格は破綻してるクズどもでも流石さすがは王国に仕える騎士名だけはある。実力は本物らしい。


「奴を殺せ!」

「魔法で援護しろっ」


 早速騎士団の前衛が飛び出し、それを援護する様に後衛が魔法を放つべく詠唱を始める。だが、その気勢をあざ笑うかのように、後衛で詠唱している者たちの足元に何かが転がってきてせっかく詠唱してたまった魔力を根こそぎ奪われていく。「な、何だ、これは!?」と転がってきた緑色の物体、緑輝石りょくこうせきに警戒して気づいた時には遅かった。魔力がたまった緑輝石は腹の底まで響くような大爆発を起こし、その場所には大きなくぼみと物言わぬ何体かのむくろが転がっていた。

 この一撃で魔法を詠唱してる者たちとそれを守るように布陣してた者たちを屠ることができた。残りは前衛で突撃しようとしてた者たちだけだ。

 背後からのいきなりの爆風に思わずたたらを踏む騎士団の隊員たち。何事かと振り返ってその場にとどまったのがいけなかった。次の瞬間、琢磨はその一帯に雷槍を放った。騎士団に次々と雷が降り注ぎ断末魔を上げながら倒れて行って屍となっていく。何とか直撃を避けた唯一の兵士が仲間が次々と打たれていくのを目の当たりにし、力を失ったように、その場にへたり込む。

 無理もない。ほんの一瞬で、仲間たちが殲滅されたのである。彼らは王国でも最強とうたわれた騎士団の精鋭たちだ。それなのにたった一人のわけのわからない男に手も足も出ないでやられていってしまっている。まるで悪夢だと言わんばかりにうつろの目を彷徨さまよわせている。

 そんな彼の耳に、これだけのことしでかしておいてまるで実験か何かをしてるような声が聞こえた。


「なんだ、騎士団って言うぐらいだからもうちょっとやれるのかと思ったけど全然大したことなかったな。天界からの恩恵おんけいはなかったのか? それとも気にしすぎか? どうやら雷槍まで出したのは過剰防衛だったかもな。これぐらいの実力なら聖剣だけでの近接戦闘で十分だろ」


 唯一生き残った騎士団の兵士がビクッと体を震わせて怯えた目で琢磨を見る。


「ひぃ、く、来るなぁ! な、何なんだ、お前! こ、こんなことしてただで済むと思ってるのか? 騎士団に手を出したんだぞ。それも王国の。わ、分かってるのか、騎士団に手を出したということは天使様に手を上げるのと同義だぞ。この世界では天使様に逆らったら終わりだぞ。邪教徒として追われるぞ。いいのか?」


 怯えながらも何とか琢磨を言いくるめようとする兵士。その顔は恐怖にゆがみ、今にも気を失いそうだ。琢磨は、そうな兵士を見下ろし、聖剣を振り下ろした。


「ひぃ!」


 兵士が身を竦めるが、その体に衝撃はない。琢磨が振り下ろした聖剣は兵士の顔を掠るように地面に突き刺している。それに気づいた兵士は自分の命がまだあることを安堵したと同時に一瞬気が緩んだことと立て続けに味わった恐怖で股間から液体があふれ出している。

 その様子を見た琢磨は、これが返事だと言わんばかりに兵士の眼前に聖剣をつきつける。再び、ビクッと体を震わした兵士は、この世の終わりだというような顔つきで最後のチャンスとばかりに命乞いを始めた。


「た、頼む! 命だけは! 俺には帰りを待っている嫁と息子がいるんだ。な、何でもするから!頼む!」

「そうか? なら教えてもらおうか。このエルフの里の結界を壊したのはお前らか? それと、こんな人さらいみたいなのをやったのは上からの命令か、それともお前たちの独断か?」


 琢磨が質問したのはエルフの里の結界の破壊についてだ。破壊されてからそれほど時間が経ってないのにこんなところに王国の騎士団が展開してるのは都合がよすぎると思ったからだ。前もって知ってないとスムーズにエルフをさらうことなんて不可能に近い。しかもこんな人ごみの中で。やるとしたら、結界の破壊と魔物の襲来でエルフの里が困難してるところに乗じてやるしかない。それにもしかしたらこの案件に天界も絡んでるのかもしれないと思って上からの命令があったのか聞いた。こっちの方は可能性がひくいと思ってるが・・・・・・天界がこんなしょうもないことをするとは思えなかった。


「・・・・・・は、話せば助けてくれるか?」

「言いたくないならいいんだ。お前も仲間たちのところに逝くか?」

「ま、待ってくれ! 話すから!・・・・・・俺たちは結界が壊れて中に入れるのを知ってた。この近くの街道を歩いてるときに黒いフードを目深にかぶって顔まで見えなかったがそいつが教えてくれたんだ。俺達はエルフが高く取引されてるのを知ってた。だからチャンスだと思って半信半疑だったが、エルフの里が見える近くの森で待機してたら本当に結界が破壊されたんだ。全てはあいつの言ったとおりだった。・・・・・・今思えば、フードの隙間から長い耳が見えた。おそらくアイツもエルフで仲間を売ったんだ」


 その言葉にクルゴンたちエルフ族はまさかとショックを受けたようにお互いの顔を見ていた。疑心暗鬼ってやつだ。琢磨はその様子をチラッと見て兵士に視線を戻す。そして、聖剣を握る手に力を込める。


「ま、待ってくれ! お、俺が王国に帰ったら王様に進言する。俺達は魔物にやられたと・・・・・・そうすれば追手がかからないはずだ。だから頼む。見逃してくれ!」


 琢磨の殺意に気が付いた兵士が再び命乞いをする。その言葉を聞いた琢磨は聖剣を下ろした。それで助かったと兵士が安心した瞬間・・・・・・

 空気を切り裂くような音とともに兵士の首が落ちた。その表情は自分が斬られたことを理解してないような顔だった。

 琢磨の容赦ない行動に息をのむエルフたち。この場に居合わせた商人やエルフの子供たちは耐えきれずに吐いてる者もいる。中には恐怖している者もいたが、クルゴンが勇気を振り絞って琢磨に尋ねた。


「あ、あのさっきの人は何も殺さなくてよかったのでは・・・・・・」


 この期に及んで甘いなと呆れたような視線を浴びせてくる琢磨に「うっ」と唸るクルゴン。自分たちの結界を破壊して里をめちゃくちゃにしようとしたり自分たちの同胞をさらって人間たちの奴隷にしようとした奴らに同情するなんて平和ボケしすぎだろ。琢磨は口を開こうとしたが、その機先を制するようにシエラが反論した。


「・・・・・・理由が何であれ、剣を抜いたからには自分たちがやられても文句は言えない。それなのに相手が強かったからと言って見逃してもらおうとするのはお門違かどちがい」

「そ、それはそうですが、せっかく追手がこない様にしてくれると言ってたのに・・・・・・」


 その言葉に今度はアリサが反論する。


「まったくの甘ちゃんね。あいつの目を見てなかったの。あれは嘘八百並べてどうにかその場を切り抜けようと自分のことしか考えてなかった保身に走った目よ。もし、あいつを取り逃がしてたら追手がこないどころかもっと大物が来たでしょうね。例えば天使とかね。どうせ追手がかかるなら少しでも遅い方がいいでしょ。それに琢磨がやらなければ私があいつを斬ってたわ」


 二人とも静かに怒ってるようだ。こんなことなら騎士団の連中を少しぐらい残してあいつらの怒りの禿口はげぐちにした方がよかったかなと考えているとエルフ族はばつが悪そうな顔をしている。


「確かにお二方のおっしゃる通りです。私たちは平和ボケしすぎてああいう人間がいる事を忘れておりました。観光都市になってからここにやってくる人間はいい人たちばかりだったので、それに結界に頼りっきりでした。今後はこんなことが起きない様に自衛にも力を入れなければなりませんな」


 そして、商人たちが人間を代表して謝ってるようだが、エルフ族も一部の人間が悪いことが分かってるので謝る必要がないと言ってお互いに握手したり肩を組んだりしている。こういう人たちばかりだったら戦争なんて起きないんだろうなと思いながら琢磨は馬車のところに向かった。

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