第62話 王国騎士団との邂逅

 琢磨たちがシエラたちの元に向かうと何人かの男たちに囲まれているのが見えた。もめごとのようだ。アリサがエルフの子供をかばうように立っている。その横でシエラが今にも飛びかかりそうな雰囲気を醸し出している。その証拠に魔力があふれて放電している。その横で怯えたようにシルフィーが両者を見て視線が右往左往している。仮にもエルフのまとめ役の娘だろ。自分の揉め事ぐらい何とかしろよと言いたかったがクルゴンも琢磨の背中に隠れるように見ている。やはり親子だ。怯え方までそっくりだ。何でこいつがまとめ役なんだ。もうこの親子やだ。琢磨は天を仰いだ。


「どうかしたのか?」

「タクマ」


 琢磨が声をかけるとシエラが琢磨のところに駆けてくる。その表情はどこか嬉しそうだ。その証拠にシエラの周りにいつ爆発してもおかしくなさそうな魔力がいつの間にか霧散してなくなっていた。


「なんだ、貴様!」


 十人ほどの兵士が周りを取り囲む様にたむろしている。兵士の格好は全員が鎧に全身を包み、槍や剣、盾を装備している。そして、鎧の左胸には天使の翼を象ったエンブレムが刻まれてる。あれには見覚えがある。ガゼル団長が身につけてたのと同じだ。


 ・・・・・・なるほど。王国の兵士か。


「王国の兵士がこんなところで何をしている?」


「そいつらの狙いはエルフたちをさらって奴隷商に売りさばくつもりよ」


 琢磨の問いにアリサが答えた。


 王国の兵士たちはアリサの言葉を裏付けるよ様に周りにいる女子供を値踏みする様に視線をさまよわせている。その中には、エルフ以外にシエラやアリサ、たまたまここに居合わせた人間も含まれているようだ。女子供ならだれでもいいらしい。兵士の風上にも置けない奴め。

 そして、兵士の一人がアリサを見て何か思い出したように隊長だと思われる人物に報告しる。


「小隊長! まさかあの女、『金色こんじきの閃光』じゃないですか?」

「何だと!?」


 小隊長と言われた男がアリサを目踏みするように観察してくる。その視線に嫌悪感を抱いたのかアリサは両手で体を隠す動作をする。


「・・・・・・金髪の長い髪に碧の目。そして、装備品からして冒険者であるのは間違いない。確かに『金色の閃光』のようだ。これはついてるな。エルフだけかと思ってたがこんな場所で冒険者にしておくのは惜しいほどの美少女まで付いて来るとわな。お前たち、年寄りや男共は殺してもいいが、女子供は殺すな。商品価値が下がるからな」

「しょ、小隊長お、大丈夫ですか? 向こうには『金色の閃光』がいますよ。返り討ちになるんじゃ・・・・・・」

「な~に、こっちにはエルフの子供の人質がいるんだ。何もできはしない。未だに何もしかけてこないことが証拠だ」


 小隊長の言葉で部下たちの緊張がほぐれていく。


「小隊長ぉ、女も結構いますし、ちょっとぐらい味見してもいいですよねぇ? こんだけイイ女をいっぱい見たらもう我慢が出来ません。一人や二人ぐらいならばちが当たらないでしょう?」

「ったく。二、三人でやめておけよ。上に文句を言われるのは俺なんだからな」

「わかってますよ!」


 小隊長の言葉を聞いた部下たちは視線でエルフやシエラたちを吟味しているようだ。完全に獲物としか見ていない。自分たちが狩られることを全く意識してないようだ。その証拠に戦闘態勢をとることは無い。エルフの女性たちはこれからやってくる恐怖にその場でただ怯えて震えることしかできない。


「なぁ、一つ聞いていいか?」


 琢磨の声に今琢磨を認識したように小隊長が振り向いて楽しみを邪魔しやがってというような忌々しい顔で見てくる。


「何だ、お前? エルフじゃないな。いかつい恰好しやがって・・・・・・人間か?」

「ああ、人間だ」

「その人間が何の用だ。もしかして奴隷商か何かか? 既にここにいる者たちはお前の商品になってるから横取りするな敵の。だったらそいつらの倍の金額を払うからここに置いていけ」

「お前らのその恰好、王国の騎士団で間違いないな」


 琢磨の言葉に小隊長がぴくっと反応する。


「ほう~、まさかこんな辺鄙へんぴな場所で騎士団を知ってるやつがいるなんてな」

「知り合いにいたからな」

「なるほど。ならわかるだろう? 王国に逆らってもどくなことない。そこにいる者たちは王国で買い取る。金は倍だすんだ。悪い話じゃないだろう?」


 小隊長は琢磨のことを勝手に奴隷商か何かと勘違いし、王国をかさにし、金は倍だすんだからここに置いていけと迫る。当然奴隷商と思い込んでる小隊長は断られるわけがないと言った顔で琢磨に命令する。

 当然、琢磨が従う訳もない。


「断る」

「・・・・・・今、何て言った?」

「断ると言ったんだ。こいつらは俺の物だ。こいつらをどうしようが俺の勝手だ。お前らにどうこう言われる筋合いはない。諦めて王国に帰るんだな」


 聞き間違いかと問い返し、返ってきた不遜ふそんな物言いに小隊長のこめかみにぴきっと青筋が浮かぶ。


「・・・・・・小僧、口の利き方に気をつけろ。俺達は正真正銘の王国最強と言われる騎士団だぞ。まさか、偽物だと思ってないよな?」

「たしかに騎士団がこんな誘拐まがいなことをするかと思ったが、あやかってる天使があれだからな。おそらく本物なんだろうが関係ない。俺の所有物に手を出した。それだけだ」


 琢磨の言葉を聞いたシエラや女性のエルフたちは顔が赤くなっている。クルゴンもポッとなっている。おっさんは気持ち悪いだけだからやめてほしいと琢磨は視界の外に追いやった。


 小隊長は琢磨の言葉を聞いたことで顔の表情を消した。周囲の部下たちも剣呑けんのんな雰囲気で琢磨を睨んでいる。

 と、その時、琢磨を観察する様に視線を這わせていた小隊長は琢磨の後ろに先ほどまで見かけなかった幼い容姿でありながら纏う雰囲気に艶がありこの世とは思えないほどの絶世の美少女の姿。

 小隊長は一瞬呆けたが琢磨に寄り添ってることから親しい間柄と目をつける。


「あぁ~よくわかった。お前が世間知らずのクソガキだとな。だが、俺は寛大だ。一つチャンスをやろう。お前の横にいる女をよこせ。そうすれば今までの不敬な態度は見なかったことにしてこの場を去ろう。お前だって王国を敵に回したくないだろう。どうだ、うん?」


 その言葉に琢磨は返事代わりに抑えてた魔力を解放する。


「な、何だ!? このプレッシャーは」


 小隊長はじめ、部下たちは琢磨の魔力に当てられ後ずさりする。そして、シエラも嫌悪感をあらわにするように右手を掲げて魔力を集中させている。今まで人質だったエルフの子供がいたことにより成り行きを見守っていたが、度重なる騎士団の女を道具としか見ていない態度に堪忍袋かんにんぶくろの緒が切れたらしい。その証拠にシエラの魔力は騎士団がこの世に存在するのを許さないぐらいの威力が込められている。だが、このままでは騎士団どころかエルフの里も滅ぼしかけない。

 琢磨はシエラを制止する。不満そうな視線をしてくるシエラを尻目に、琢磨は最後の言葉をかける。


「王国だろうが何だろうが関係ない。俺の大事なものに手を出すお前らは全員敵だ!」

「て、抵抗する気か? まだ状況が分かってないようだな。てめえは大人しく膝まついて許しを――っえっ!!!」


 最後の抵抗とばかりに恫喝していた小隊長の首が落ちた。

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