第31話 ムカデ蜘蛛との死闘

 琢磨がその存在に気付くのと同時に扉の方からズドン、ズドンと地響きと共に何かが近づいて来る。琢磨は【緋色の魔眼】で扉の方を見る。すると全長五メートルほどの魔物が近づいて来るのが見える。琢磨は魔力消費を抑えるため【緋色の魔眼】を止めるとシエラの手を掴んで咄嗟に抱き寄せる形で後ろに飛んだ。その直後、跳躍したのかズドンッと地響きを立てながらソレが現れた。


(一瞬判断を迷わなければ危なかった)


 その魔物は体長五メートル程、六本の腕に冒険者から手に入れたのか刀や戦斧などあらゆる武器を所持している。そして口の両側から牙が生えており目が三つ目である。しかも下半身はムカデみたいに足がいっぱいありその足をわしゃわしゃと動かしている。この魔物を観察すると牙から垂れた体液みたいなのが岩に垂れるとその場所が一瞬で溶けた。おそらくあの液体は酸かとんでもない猛毒と考えた方が賢明だ。

 明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。自然と琢磨の額に汗が流れた。

 この場所に入ったときは用心のため【緋色の魔眼】で周囲を見回したが何の反応もなかった。だが、さっきはしっかりと近づいて来るのを捉えていた。

 ということは、少なくともこの魔物は、シエラの封印を解いた後にこの場所に現れたことになる。もしかしたら、封印を解いたことで発動するトラップかもしれない。つまりシエラを逃がさないための防衛システムかもしれない。シエラを置いていけば琢磨だけなら逃げられる可能性はあるということだ。そしたらこのめんどくさい主従契約も解除されないかな・・・・・・

 腕の中のシエラをチラリと見る。彼女はムカデみたいな魔物になど目もくれず一心に琢磨を見ていた。どこか俺を試してるような目でまさか、見捨てないよね? と問いかけてくるようだ。

 せっかく助けたのにこんなところで死なれちゃ後味が悪すぎる。それに、こいつの見た目はいいしな。俺は心の中で言い訳をする。


「俺はこんなところでやられない・・・・・・死ぬのはお前だ!」

「私も手伝う」


 シエラは魔力を纏わせながら琢磨の隣に並ぶ。魔力を帯びたことで深紅の目が紅く輝き体全体から電気のようなものがほとばしっている。琢磨はシエラを横目で見てると足元がふらついてるのが分かる。いくら契約して魔力が戻りつつあっても長年封印されてたからか体力は万全とはいいがたいようだ。


 琢磨は懐から神聖水が入った容器を取り出すとシエラに投げ渡した。


「何これ?・・・・・・」

「飲んでみろ」

「・・・・・・うん」


 シエラは神聖水を口に含むと体の中から活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。


「なんだ、この溢れるパワーは! 力が漲る!! 溢れる!!!」


 シエラは突然目を輝かせながらバトルもんのマンガみたいなセリフを吐いて興奮している。何か人格も豹変してない。


「・・・・・・これで戦えるだろ。ちなみに力があふれる効能はない。精々傷の治癒と体力を回復するくらいだ。だから気のせいだ」

「いいじゃない。昔魔王に見せてもらったマンガっていうのに載ってるのを見て一度言ってみたかったのよね」

「・・・・・・そうか」


 琢磨は適当に相槌あいづちを打って聞き流そうとしたが、(ん、今なんか気になることを言ってなかったか。魔王が漫画・・・・・・)


「おい、まて。まさか魔王って俺と同じ異世界人じゃ――」

「話はあとにしよう。奴が動き出した」


わしゃわしゃとムカデの足を巧みに動かしにじり寄ってくる。


「お前を糧にしてやる」


 琢磨は【緋色の魔眼】でムカデモドキをつぶさに観察する。ムカデモドキは弓矢を構えて矢を放つ。琢磨がそれを横に避ける動作が終わる瞬間を狙うように戦斧がくるくる回転しながら飛んできた。琢磨は咄嗟に頭を下げ躱した。髪の毛がちょびっと切れた。【緋色の魔眼】で相手の動作が見えてもそのスピードについていくのがやっとだ。今のも咄嗟に反応してなければ琢磨の首と胴が切断されてただろう。

 上半身が蜘蛛みたいな感じに見えるからムカデ蜘蛛と呼ぶことにする。ムカデ蜘蛛はどういう仕組が分からないが先ほど投げた戦斧がブーメランのように戻ってきて再び一本の手に収めた。


(これじゃ迂闊うかつに近づけないな)


 琢磨は距離を取りつつシエラを探すといつの間にかムカデ蜘蛛の懐に飛び込んでいた。


「・・・・・・隙だらけ」


 シエラは両こぶしに魔力を纏わせるとムカデ蜘蛛のドテッパラをぶち抜いた。

 ドパンッ!!! と音がし後から衝撃波が襲った。すごい威力だ。やったか。

 しばらくすると「イッタァァァァァァァッ!!!!!」とシエラの声が響き渡り殴りつけた方の手をブルブルしフーフーと息を吹きかけて冷やしている。

 ムカデ蜘蛛も多少効いたようだが二、三歩後ずさっただけで耐えている。口からは酸の液が垂れてシエラの手に落ちた。


「シエラ! あのバカ」


 琢磨はファイヤーボールをムカデ蜘蛛の手前に連射で撃ち土埃を起こして視界を遮ってるうちにシエラを右手に抱えて後退した。その直後、風の嵐が吹き荒れ土埃が吹き飛ばされた。


「な!? うっ!!」


 風の刃が琢磨の左頬をかすめて血が垂れる。


「あれは! ミノタウロスが使ってた戦斧。なぜあいつが持ってやがる」


 ムカデ蜘蛛の手元には戦斧が握られており中心に緑の宝石がはめ込まれている。まさしくミノタウロスが持っていた物と瓜二つだ。


「タクマ顔に傷が」

「これぐらい平気だ。それよりお前は大丈夫か?」

「これぐらい平気。ほっとけば治る。ほら」


 シエラが見せてきた手を見ると酸でたたれてた手がみるみる元通りに治癒していた。これが死なない体の再生力か。


「これで戦える。・・・・・・あれ」


 シエラは足下がふらつくとその場で手をついてしまった。


「まだ本調子じゃないんだろ。少し休んでろ」


 ムカデ蜘蛛はこの隙に武器をいろいろ持ち替えている。よく見ると見えない空間から取り出しているように見える。これがムカデ蜘蛛のスキルかもしれない。これじゃいくら装備してる武器に対抗する策を練ろうが意味がない。・・・・・・クソッタレメ!!


 琢磨はスピードにはこちらに分があると判断し、走りながらファイヤーボールを連発する。攻撃のスキを与えない様に連発しては神聖水で魔力を回復してはそれを繰り返した。しばらくするとファイヤーボールの嵐に耐えかねたのか戦斧で風の障壁を展開して防いだ。この前はこれをぶち破ることはできなかったがもうあの時の俺じゃない。

 琢磨は即効でファイヤーボールを魔力の網で包み込むイメージで作り出し一発の火球を放った。放たれた火球は風の衝撃をパァアアン!!!と貫通するとムカデ蜘蛛の鳩尾みぞおちに直撃した。


「ギャァオオオオ!!!」


 攻撃が効いたのか初めてムカデ蜘蛛の絶叫が木霊した。

 ムカデ蜘蛛の表皮に罅が入っている。同じ場所にもう一発ぶち込めれば何とかなるかもしれない。

 ムカデ蜘蛛は三つ目が紅く輝いている。どうやら怒らせてしまったらしい。

 ムカデ蜘蛛は琢磨が近づくのを嫌って戦斧を投げつけた。だが狙いが琢磨の左側にそれ外れたと琢磨が目線を戻したタイミングを狙ったように戦斧から暴風が吹き荒れ吹き飛ばされた。


「くそっ!! まさか戦斧を持ってなくても風属性を操れるのか!?」


 これには完全に意表を突かれた。

 琢磨は何とか態勢を立て直そうとするが、迫ってくる壁が隆起し円錐の棘がそびえ立っている。体を何とか捻って風属性の魔法剣で両断して事なきを得る。


(どうして壁が突然)


 琢磨は気づいた。ムカデ蜘蛛が左右の三本目の手を地面につけると地面が隆起していくつもの棘が氷柱のようにできているのを。


「スキルをどんだけ持ってやがる」


 琢磨の顔が引きる。

 次の瞬間、隆起した突起物がミサイルのように次々と琢磨に飛来する。最初は魔法剣で捌ききっていたがやがて数の暴力に追い付かず防御を余儀なくされる。何とか致命傷を避けていたが遂に琢磨を捉える。飛来してきた突起物が琢磨の左側の脇腹を抉った。


「がぁあああ!!!」


 悲鳴を上げながら衝撃で吹き飛ばされた。激痛に襲われながら更に地面に叩きつけられ、そのまま転がる。

 琢磨は激痛に耐え血を吐きながらも次の行動に移る。琢磨は緑輝石りょくこうせきを取り出すとムカデ蜘蛛の眼前に叩きつけた。叩きつけられた緑輝石は罅が入り隙間から次々と光が漏れ出し弾けると強烈な閃光を放った。


「シャァアアアアアッ!!!」


突然の光に三つ目の目が眩み後ずさるムカデ蜘蛛。よすぎる目には効果抜群のようだ。

 ムカデ蜘蛛の目が眩んでる内に琢磨は神聖水を取り出して飲み干した。すると痛さが無くなり動ける程度には回復したが念の為、右手を脇腹に当て回復魔法【ヒール】で治癒していく。

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