第30話 金髪娘と突然の主従契約!

 琢磨は金髪娘を捉えている立方体を調べたが、封印を解除する装置やなにがしらの物を発見できなかった。

 次に琢磨は【緋色の魔眼】を発動しておかしなところがないか調べる。魔力を目にどんどん集中していくと立方体の中心に黒い点みたいなのが見える。その点を指で触れるとまるで触られるのを嫌がるように魔力の壁に弾かれた。だが、全く効果がなかったわけではないらしい。他にも黒い点がいくつか浮き出ており、【緋色の魔眼】の魔力を最大限まで上げると点同士を繋ぐように黒い筋が走っている。


「・・・・・・なんだ、これは!?」


 琢磨も【緋色の魔眼】の魔力をここまで上げたことは無かった。無意識のうちに魔力の消費を抑えるために。だけど今の琢磨は金髪娘を助けることしか考えていなかった。それ故に【緋色の魔眼】の隠された能力を発見したのは偶然の産物の賜物たまものだろう。


「試してみるか」


 琢磨は風属性の魔法剣を作り出し黒い筋に切りかかる。立方体の三分の一ぐらい縦に横断したところで突然触れてるところからバチバチと魔力が弾け魔法剣を押し返そうとする。


「ぐっ、抵抗が強い!・・・・・・魔力消費を考えてる場合じゃないな」


 琢磨は更に魔法剣に魔力をつぎ込む。【緋色の魔眼】も使っているため魔力が一気に持っていかれて体が怠くなっていって立っているのもやっとの状態だ。そこまでやってようやく魔法剣が徐々に立方体に沈んでいく。あまりの魔力に部屋全体が光り輝いている。


「あと・・・・・・少しだ・・・・・・」


 琢磨は立方体を切り裂きながら、なぜ、見ず知らずの金髪娘のためにここまでしているのかと思った。俺と同じような境遇に同情したからなのか、助けたいと思ってしまった。これからは自分の好きなように生きると決めた傍からこれでは先が思いやられる。だけど、後悔はない。姿がだいぶ進化しても琢磨本来の人間らしさは残ってるようだ。


「こん――にゃろぉおおおおおおおっ!!!」


 ズバァアアアアアアアン!!!


 次の瞬間けたたましい音とともに立方体が消えていき金髪娘の姿が露になった。

 金髪娘は支えるものが無くなり琢磨めがけて落ちていく。琢磨は受け止めることも避けることもできずに立っているのがやっとの状態だった。その直後金髪娘が琢磨を押し倒す形で突っ込んだ。琢磨はその勢いで後ろに倒れた。

 金髪娘は何とか起き上がろうと手に力を入れるがふらついて地面にペタンと女の子座りで座り込んでしまった。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 琢磨はその様子を見ながらも大の字でハァ、ハァと息をし、魔力を消費しすぎたせいで激しい倦怠感けんたいかんに襲われる。

 大の字で寝転がっていると影ができ目を開けると金髪娘の顔が目の前にありこちらを見つめている。琢磨は目線を下に下げると大きな二つの物体が揺れている。琢磨は顔が赤くなっていき慌てて顔を逸らした。琢磨はこれでも紳士なのである。

 そんな琢磨の状況を知ってか知らずか、琢磨の手を握って、震える声ではっきりと金髪娘は告げる。


「・・・・・・ありがとう」


 そう言って、少し微笑んだ金髪娘に琢磨は見惚れてしまった。琢磨は全て切り捨てたと思っていた心の内に人間らしさは残っているような気がした。

 繋がった手はギュッと握られたままだ。しかも少し震えてるような気がする。無理もない。こんな薄暗いところに一人で閉じ込められていれば・・・・・・普通の人なら発狂していてもおかしくない。なのに、この金髪娘はこの場所にどれぐらいいたのだろう。吸血鬼は不老長寿と何かの書物で読んだような気がする。少なくとも数十年単位だろう。しかもきっかけが信頼してた人に裏切られたんじゃ精神的にも相当な苦痛を伴ったはずだ。それなのに第一声が『ありがとう』か。それだけでこいつのことを信用できる。

 金髪娘は握ってた手を離すと、琢磨の横に座った。


「・・・・・・名前、聞いていいかしら?」


 金髪娘が囁くような声で琢磨に尋ねる。そういえばお互い名乗ってなかったなと苦笑いしながら琢磨は答えた。


「琢磨だ。鈴木琢磨。お前は?」

「琢磨ね。私の名前は・・・・・・琢磨に付けてほしい」

「は? 付けるってなんだ。まさか自分の名前が分からないのか?」


 自分の名前を忘れるほど長い間幽閉されてたのならあり得ると金髪娘に聞いたが首をふるふると振った。どうやら違うらしい。


「もう、私は身も心も琢磨のもの。だから、新しい名前付けてほしい」

「・・・・・・はぁ、そんなこと急に言われてもな」


 おそらくこの金髪娘は今までの名前だと裏切られた時を思い出して嫌なんだろう。前の自分を捨てて新しい自分に生まれ変わることの第一歩が名前なんだろう。

 だが、困った。琢磨は名前を付けるのが大の苦手だ。例えば犬や猫に名前を付けるとすればポチやタマとありきたりの名前しか思い浮かばない。

 チラッと金髪娘を見れば期待するような目で琢磨を見ている。琢磨ははぁ~と溜息をして頭をポリポリと掻くと、少し考える素振りを見せて、金髪娘に新しい名前を告げた。


「・・・・・・あまり期待するなよ。‟シエラ”なんてどうだ? 気に入らないなら言ってくれ」

「シエラ? ・・・・・・シエラ、どういう意味?」

「ああ、そんなこと聞かれても困るんだが、ゲーム――いや、俺の好きな娯楽に出てきた吸血鬼の名前を頂戴した。何かその長い金髪と紅い眼を見てたらそれしか思いつかなくてな・・・・・・ダメか?」


 金髪娘はしばらくポカーンと口を開けてたがやがて、クスクスと笑いだしていた。


「今日から私の名前はシエラ。これからもよろしくね」


 次の瞬間シエラの体が光に包まれると美しいお姉さんだった体系が十代半ばぐらいの見た目になりさっきまでのが嘘なぐらい肌艶が良くなっていた。


「お前、それ・・・・・・痛っ!?」


 突然右手の甲に痛みが走り、見ると見たことのない魔法陣が浮かび上がった。


「それは私との主従契約のしるしだから」

「・・・・・・おい! 聞いてないぞ!」

「ごめんね。だけど名前を貰ったおかげで大分力を取り戻したわ。これでちょっとは役に立てるから。それにご主人は琢磨だから。許して」

「・・・・・・はぁ~、なっちゃたもんはしょうがないか。お前を助けたことが運のツキだったな。それよりもだ・・・・・・」

「なに?」


 見た目が十代にしか見えないシエラは琢磨が着ていた外套がいとうを抜き出したことにもしかして誘惑しちゃったと両手で目を隠すが指の隙間から見ていた。


「これ着とけ。いいかげん目のやり場に困る」

「・・・・・・えっ」


 そう言われて差し出された服を受け取りながら自分を見下ろすシエラ。確かに何も身につけていなかった。これでは大事なところが丸見えである。シエラは一瞬で真っ赤になり外套をギュッと抱き寄せ涙目になりながらポツリとつぶやいた。


「べ、別に見られて減るもんじゃないし」

「・・・・・・」


 どうして俺のところに来る女は見た目がいいのに残念美少女ばっかしなんだろうと自分の女難の相を呪った。

 その間にシエラはいそいそと外装を羽織る。シエラは十代半ばの姿になってから身長が百五十センチぐらいしかないのでぶかぶかだ。腕の袖をいそいそと織っている姿が微笑ましい。

 琢磨はその間に神聖水を飲んで回復する。活力が戻り、脳が回転を始める。そして【索敵さーち】を発動し・・・・・・凍り付いた。直ぐ近くに今までの魔物じゃ相手にならないほどの魔物の気配がヒットしたのだ。

 場所は琢磨がこの部屋に入った扉のあたりだ。

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