第29話 黄金の吸血鬼

 扉の奥は真っ暗で何も見えない。琢磨は【緋色の魔眼】を発動するとこの先に大きな空間が広がっていることが分かる。少しでも情報を手に入れるためその場所に向けて歩き出す。奥に歩き出しながら【緋色の魔眼】で辺りを見渡すと足元は今までの岩がゴツゴツしたのと違い大理石のようにつややかな石が敷き詰められている。そして左右には柱が規則正しく二列で奥に続いている。その中をしばらく歩くと奥から光の筋が伸びておりその中央に巨大な立方体の石が置かれているのが分かる。そして、石の中央あたりが光に照らされてキラキラと輝いている。

 近くで確認しようと石の前に行ったら、輝いていたのは美しい金髪の髪の毛だった。こいつ、急に何を言い出すんだと思うだろう。だが、俺は見たままを言っているだけだ。石の中央から人間の女らしき上半身が生えているのだ。もちろん何も身につけてない。


「・・・・・・何だ、これは!? アラクネみたいな女性の人間が上半身の魔物か!?」


「・・・・・・だれ?」


 かすれた、弱々しい女の声だ。ビクリッとした琢磨は臨戦態勢をとり辺りを見渡す。だが、魔物の気配はない。警戒しながら石の中央を見るとそこから生えてる金髪娘がユラユラと動き出した。


(もしかして今喋ったのはコイツ・・・・・・)


 魔物だと思ったがまさか・・・・・・


「人間・・・・・・なのか?」


 思ったことが口から出た。もう一度この金髪娘をよく観察した。

 上半身から上は出ているが下半身と両手が立方体の中に埋まっていた。長い金髪が垂れさがっておりその隙間から紅の瞳がのぞいている。体つきは出るところが出てスタイルが大変よろしい。なんか、妖艶ようえんなお姉さんって雰囲気だ。そして、。年の頃はニ十歳前後ぐらいだろう。ただ、全体的に随分やつれているようだ。この場所に長く封印されてるのだろう。これはかかわらない方が良さそうだ。そう思い、紅の瞳の女性を見るとどこか呆然とした面持おももちで琢磨を見つめていた。琢磨はゆっくりと深呼吸し決然とした表情で告げた。


「すみません。間違えました」


 きれいなお辞儀でそう言うとかかわりになりたくないと言ってるように百八十度ターンしてその場所を離れようとする琢磨。それを金髪娘が慌てたように引き止める。もっとも、その声はもう何年も出していなかったように掠れて呟きのようだったが・・・・・・

 ただ、必死さは伝わった。


「ま、待って!・・・・・・待ってください!!・・・・・・どうか・・・・・・助けてください・・・・・・」

「嫌です。他の人を探してください」


 そう言って、もう一度きれいなお辞儀をきめると元来た道に向かって歩き出した。


「ど、どうしてですか・・・・・・何でもするから・・・・・・お願い・・・・・・」


 金髪娘は必死だ。首から上しか動かないが、それでも必死に顔を上げ懇願こんがんする。それはそうだろう。こんな所には人はなかなか来ないだろう。ここで琢磨がいなくなってしまうと次に人間はいつ来るか全くわからない。それゆえの必死さだろう。

 しかし、琢磨は歩を止めると鬱陶うっとうしそうに言い返した。


「あのな、どれぐらいここにいたか知らないけどこんな人が近づいてこないようなダンジョンの最下層に、明らかに封印されてるような奴を解放するわけないだろう? 絶対あとでヤバいことになるって。それに見たところ封印されてるだけでなにがしらの装置も見つからないし・・・・・・俺では役に立ちそうにない。という訳で・・・・・・」


 正論をまくし立てこの場を去ろうとする。

 しかし、囚われた女性の助けを求める声をここまで躊躇ためらいなく切り捨てられる人間はそうはいないだろう。ちょっと前までの琢磨なら囚われてる地点でこれは何かのイベント的展開では・・・・・・とか言ってどうにかして助ける手段を模索しただろう。だが、今の琢磨はとても用心深く他の人を信用しない様に徹している。それもこんなことになった原因を鑑みれば致し方ないだろう。

 すげなく断られた金髪娘だが、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。


「ちがう! ケホッ・・・・・・私、悪くない!・・・・・・待って! お願い!・・・・・・」

「容疑者は皆そう言うんだ」


 知らんとばかりに歩き始めた琢磨に焦ったように金髪娘が声を発する。


「裏切られただけなの!」


 その言葉に琢磨の歩は止まった。十秒、二十秒と時が経ち、苦虫をかみ殺したような表情で琢磨は金髪娘のところに戻った。

 琢磨としては、何を言われようが助けるつもりはなかった。この時の琢磨の心は助けるべきかどうか天使と悪魔が戦ってる状態だった。だが、こんな場所に封印されてる地点でよっぽどやばい奴だと見切りをつけた。きっと、邪悪な存在が言葉巧みに騙そうとしているだけだろうと。だが、『裏切られただけなの!』という言葉にあの時の火球が飛んできたことを思い出してしまった。もしかしてコイツも・・・・・・と間が差してしまった。


(何やってるんだ、俺は)


 琢磨は内心溜息ためいきを吐く。

 琢磨は頭をカリカリと搔きながら、金髪娘に歩み寄る。もちろん油断はしない。


「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前を封印した? 俺だったらそんなめんどくさいことをせず殺す。こんなことができる奴が実力的にもお前に劣るとは思えない」


 琢磨が戻ってきたことに半ば呆然としている金髪娘。

 ジッと垂れ下がった金髪の隙間から覗く紅い眼が琢磨を捉える。何も答えないな金髪娘に痺れを切らした琢磨は「・・・・・・何も答えないなら話はここまでだ。じゃぁな」と言って踵を返す。それに、ハッと我を取り戻し、金髪娘は慌てて封印された理由を語りだした。


「私、吸血鬼の真祖・・・・・・すごい力がある・・・・・・魔王さまのために頑張ったのに・・・・・・ある日・・・・・・魔王さまに呼ばれてこの場所に来た・・・・・・そして、言われるままこの場所に立ったら魔法陣が発動して封印された・・・・・・魔王さま・・・・・・お前は必要ないって・・・・・・理由は教えてくれなかった・・・・・・ただ一言・・・・・・お前を殺すことができないから・・・・・・封印するって・・・・・・そして、魔王さま・・・・・・どこかに転移してしまった・・・・・・それから、ずっとここに・・・・・・」


 枯れた喉で必死にポツリポツリと語る金髪娘。話を聞きながら琢磨はこいつも信用してた者たちに裏切られたのか。何となくほっとけないような気がした。だが、気になるワードもあったので琢磨は尋ねた。


「魔王に仕えていたって四天王的なものか?」

「・・・・・・(コクコク)」


(マジか・・・・・・この世界に来た時の最初の目的は魔王を倒すことだったな。天使の言うところの悪魔らしいけど・・・・・・だけど今の俺にとってはどうでもいいことだな)


 琢磨は他の質問をした。


「殺すことはできないってなんだ?」


「・・・・・・勝手に治る。怪我しようが、体が灰になろうが、首を落とされようがその内に治癒されて元通りに復元される」


「・・・・・・そ、そいつは結構なチートじゃないか。・・・・・・すごい力ってそれか?」

「これもだけど・・・・・・今は体力がなくて無理だけど・・・・・・ありとあらゆる系統の魔法、操れる・・・・・・余計な詠唱もいらない・・・・・・しかも・・・・・・一度見た魔法は・・・・・・たいてい使える」


 琢磨は「それはとんでもないな」と一人納得した。

 琢磨も魔物を喰らってから肉体は強化され、魔法も詠唱無しで使うことはできる。だが、魔法はまだそれほど多くを覚えていない。しかも聖剣も紛失してしまった。あるいみ好条件の仲間をゲットしたと思えばラッキーだな。魔王に仕えてたってことには目をつぶろう。裏切られたって言ってたし問題ないだろう。


「・・・・・・たすけて・・・・・・」


 琢磨が一人で思索にふけり一人っで納得しているのをジッと眺めながら、ポツリと金髪娘が懇願こんがんする。


「・・・・・・」


 琢磨はジッと金髪娘を見た。しばらくすると「・・・・・・ずっと見られるの恥ずかしい」と顔を逸らされた。耳がちょっと赤い。


 やがて琢磨は考えをまとめると金髪娘を捉えている立方体に手を置いた。


「あっ」


 金髪娘がその意味に気が付いたのか大きく目を見開く。琢磨はそれを無視して立方体を調べだした。

 全ては金髪娘の吸血鬼を助けるために。

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