第28話 琢磨の戦い方

 琢磨のダンジョン攻略は続く。

 サメの階層から更に二十階層は進んだ。琢磨に時間の感覚は既にないので、どれぐらいの日数が過ぎたのかわからない。それでも、常人には到底理解できないほどの速度で進んできたのは間違いない。しかも、ソロで。

 ここまで来るのは今までと比べようがないものだった。例えばある階層では至る所が毒で覆われていたり、またある所では一歩足を踏み入れるたびに麻痺して動けなくなったりと、そして、全身から毒ガスを出すイノシシに出くわした時は苦戦した。このイノシシは触れるものをすべて腐敗させるのだ。幸いにも炎が弱点と分かり、遠距離からファイヤーボールを連発して倒した。諸突猛進しょとつもうしんな単細胞で攻撃がやみやすくて助かった。そして、火であぶってかぶり付いた時は体中に毒が周り死ぬかと思った。火で毒がなくなると思ったら体内に毒を生成する機関があり、そこをピンポイントに喰らった結果だ。この時は神聖水があって助かった。でも、その結果毒耐性を手に入れることができた。そして、更に下の階層ではダンジョンの中なのに樹木が生い茂っておりジャングルのような階層もあった。ものすごく蒸し暑くてまるでレンジで温められてるようだった。汗も止まらず装備も肌に張り付き今までで一番不快だった。この階層の魔物は蟻地獄のような魔物だ。樹木の中を歩いているとオアシスのようなところにたどり着き、湧き出てる水を発見し、あまりののどの渇きに我慢できずに飛び込もうとすると、突然、目の前に地面が沈んでいき、一つ目の巨大な蝶の幼虫みたいな魔物が出てきて、琢磨をひき吊り込もうとした。だが、この時の琢磨はあまりの暑さとのどの渇きで頭がぼーとし、この時のことをよく覚えていない。水分を十分に取り、全身に水を浴び、すっきりしたところで背後を振り返ると魔物が雷に打たれたように感電して倒れていた。この状況をよくわかってない琢磨だったが、深く考えずこの魔物の肉を食べた。その結果、ありとあらゆる状態に耐性ができ、この後は今までのが嘘のようにここまでスムーズに来ることができた。

 そして、この階層も樹木が生い茂っているのだが、気候は快適だ。しかも木の実らしきものが生っているのだ。試しに食べてみたところとてもみずみずしくジューシーで美味かった。体の筋力も少し上がり、体力、魔力も少し回復した。どうやらステータスを上昇させる効果があるようだ。


 琢磨はこの階層を新たな拠点にし、体力回復や新たな木の実を探す時間に費やした。探した結果発見した木の実は同じものだった。何度も食べるとステータスの変化は起きなくなり、ただの甘い果物と同じになった。ある程度の上限までしか効果ないようだ。だけど味は美味いのでいくつか収穫した。しばらく休んで十分回復すると先に進んだ。樹木を抜けると今までとは異なる空間に出た。

 その場所は地面に石が引き詰められ、奥には高さ三メートルの装飾された豪華な両開きの扉がある。そして、扉の脇には一対の耳がとんがって背中には翼、まるでゲームに出てくるガーゴイルみたいな巨人の彫刻が半分埋め込まれるように鎮座している。

 琢磨はその空間に足を踏み入れた瞬間、空気が重くなったように感じこの先に行くのを躊躇ちゅうちょした。琢磨は扉の脇にある彫刻に注目した。


(・・・・・・あの彫刻、十中八九侵入者を検知すると作動する門番だろうな)


 琢磨はこの先に行くのをためらったが後戻りはできない。装備を確認すると、扉に向かって歩みを進める。注意しながら慎重に歩を進めたら特に何か起きるわけでもなく扉の前にたどり着いた。近くで見ればカラフルな色をした見事な装飾が目に入る。しかも、扉の中央にはくぼみがある。そして、扉の右側に台座がありその中央には赤い色をした丸い宝石が埋め込まれている。どうやら、この窪みに宝石をめれば何か起きるかもしれない。琢磨は台座の前に行き紅い宝石に触れた瞬間、フロア全体に突然、


 ブアァァァン!! ブアァァァン!!・・・・・・


 と鳴り響いた。赤い宝石は点滅しまるで警報装置のようだ。

 琢磨はバックステップで台座と扉から距離を取り、何が起きても対応できるように魔法剣をスタンバイする。

 音が鳴り響く中、ガラガラと音がし遂にある物が動き出した。


「やっぱ、そう来るよな」


 琢磨の予想通り、扉の両脇に鎮座していた二体のガーゴイルみたいな巨大な石像が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。ガーゴイルは閉じられていた目を開けると眠りを邪魔した無粋な侵入者を排除しようと琢磨の方に視線を向けた。

 その瞬間、空気を切り裂く音と共に右のガーゴイルの頭が切り離されて倒れた。その直後に転がってきた核と思われる石に魔法剣を突き刺すと右のガーゴイルは砂となって消えた。

 左のガーゴイルは何が起きたか理解できない様子で瞬殺された右のガーゴイルのなれの果てを見る。


「悪いが、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。たとえ卑怯だろうが何だろうが生きるためなら何でもやってやる」


 いろんな意味で酷い攻撃だった。もし、この場にアレク達がいたら避難殺到しただろう。琢磨は今までの経験してきた修羅場によって、一切の躊躇が無くなっていた。生きるためには精々堂々な戦いにも卑怯なことをしてでも生き残ることを第一目標に定めている。琢磨はガーゴイルが起動する瞬間、魔法剣を風の魔法で生み出し、刃先を風で鋭くすると、ガーゴイルが立ち上がるのと同時に予め狙いをつけていた右のガーゴイルの首目掛けて魔法剣を振り下ろした。狙い通りに首と胴が切り離されて体が倒れた衝撃で砂煙が舞うところに、コロコロと足下に転がってきた球を突き刺して破壊したら砂になって消えていった。

 琢磨の狙い通りに行ったが、・・・・・・左のガーゴイルからしたらたまったものじゃないだろう。


 おそらく、この扉を守るガーディアンとして封印か何かされていたのだろう。台座はほこりがかぶっていて何年も人がこの場所を訪れるものなど皆無だったろう。

 ようやく来た役目を果たすとき。もしかしたら彼(?)の胸中は歓喜で満たされていたかもしれない。満を持しての登場だったのに一番かっこよく登場したかっただろうに起動した瞬間相手を見ることなく頭を切り離されたのだ。今まで出会った魔物の中でこのガーゴイルが憐れでならない。


 相方(?)を失ったガーゴイル(左)が戦慄の表情を浮かべ琢磨に視線を転じる。その目は「よくもうちの相方をやってくれたなぁ!」と言っているような気もしないこともない。

 琢磨は動かず、ガーゴイル(左)を睥睨へいげいする。ガーゴイルは魔法剣を警戒するように背中の翼を羽ばたかせると上空に逃れ距離を取りつつ琢磨を睨む。膠着状態が十秒、二十秒と続くといつまでも動かない琢磨に痺れを切らしたようにガーゴイル(左)が高速で上空から琢磨に目掛けて突進してきた。その直後攻撃したはずのガーゴイル(左)は壁に顔面からダイブした。ガラガラと砕けた壁を払いのけるように体を起こすとガーゴイル(左)はわけが分からないといった様子で琢磨がいたはずの場所を見る。その場所には未だに微動だにしない琢磨の姿がある。だが、よく見ると体の端々から波打ってるように揺らいでるように見える場所がある。これは琢磨の蜃気楼による残像だ。仕組みは簡単だ。魔法剣を地面に刺し剣先から火の魔法で地面に接してる空気を温め、空気の密度を低くし条件がとどのったところで自分の虚像を作り出した。それに気づかずガーゴイル(左)が突っ込んだ地点で勝負ありだろう。

 低く唸りながらもがくガーゴイル(左)に、琢磨がゆっくり近寄っていく。コツコツという足音が、まるで死の宣告をしに来た死神のようだ。琢磨がガーゴイル(左)の眼前にやってくるとガーゴイル(左)は恐怖に支配されたように這いつくばって動けないでいる。琢磨は作り物でも恐怖の感情があるのかと思いつつも、何のためらいもなくガーゴイル(左)の核となる石を破壊した。

 琢磨は台座にある赤い宝石を手に取り、何も起きないことを確認すると目の前の豪華な装飾をしている扉の窪みに嵌めた。

 しばらくするとガコッと何か仕掛けが作動した音がすると光が部屋全体に行き渡り久しく見なかったほどの光に包まれる。

 琢磨は少し目をまばたかせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

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