第10話 美味しい話には裏がある

 まだら模様のスライムを倒してからは、そこそこのモンスターしか出てこなく、俺たちは問題もなく交代をしながら戦闘を繰り返し、順調に階層を降りて行った。

 そして、二十階層にたどり着いた。この階層はセーフティーポイントといって休憩できる空間らしい。この場所は入口に青い宝石が埋め込まれた台座があり、そこに冒険者カードをかざすとデータが記憶されこの場所からダンジョンの入り口にワープすることができるらしい。ただ、もう一回同じ場所に来ようと思えば地道に降りるしかないらしい。だから、よっぽどのことがない限りこの場所で休んだらまた攻略に向かうらしい。要するにいざというときの緊急避難用だと考えておけばいいだろう。

 ここまでは割と早く降りれたがこの先がどうなってるのかは誰もわからない。休めるときに十分休んだ方がいいだろう。

 ダンジョン攻略で最も怖いのはモンスターもだがやはりトラップだろう。場合によっては致死量のトラップも数多くあるのだ。

 この点、トラップ対策として、職業で違うが、盗賊だと、罠感知や鍵がかかっている所を開けるなど補助系のスキルを多く持っているようだ。気配を消すこともできるらしい。このパーティーに盗賊のスキルの人がいてよかった。もし、いなかったら自分たちの経験や勘でいくしかないのでここまで来ることも大変だっただろう。

 従って、琢磨たちが素早く階層を降りれたのは、ひとえにガゼル団長以下、一緒に来たパーティーのおかげだろう。俺たちだけだったらここまでこれずに全滅してたかもしれない。それに、ガゼル団長からも、トラップがどこに仕掛けられてるか確認するまで勝手に先走っていかないように強く言われていた。


「よし、お前たち。ここから先は一種類のモンスターだけでなく複数種類のモンスターが混在したり連携を組んでくる場合がある。今までのようにいかないぞ! もし危なくなったら、無理しないでセーフティーポイントに戻って地上に帰るぞ。ダンジョン攻略よりもお前たちの命の方が大切だからな。それに、情報を持って帰ったら新たな対策を講じえるからな。分かったら気を引き締めていくぞ!」


 ガゼル団長の声がダンジョン内というだけあってよく響く。

 琢磨は立ち上がろうとすると、ふと視線を感じた。ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。今にも襲い掛かってきそうな殺気めいたものを感じる。

 その視線は今が初めてというわけではなかった。ダンジョンに入るあたりから度々感じていた。視線の主を探そうと死線を巡らすと途端に霧散する。

 もういい加減琢磨はうんざりしていた。


「琢磨、どうかしたの」

「顔色もなんか悪いよ」


 俺に心配そうに声をかけてきたのはガブリエルと彩だった。


「いや、問題ないよ。それにしても二人とも今までが別人かっていうぐらいの大活躍じゃないか」

「忘れたの。私はこれでも天使なのよ。本来は地上の者どもにはどうあっても会うことができない大天使様よ。もっと、私を敬って――い、いたたたたた!!!」


 俺は、調子に乗りだしたガブリエルの頭を両手でグリグリした。


「ちょ、ちょっと天使の私にこんなことをしてただで済むと思うの。ねえ、聞いてる」

「まあまあ」


 俺たちを宥めるように彩が止めに入って、それを周りの人たちが見て笑っている。

 俺はガブリエルと彩も戦い方が分かってきて攻撃が当たるどころか他のメンバーとうまく連携を取れるようになっている。それに、このパーティーは居心地がいい。俺たちが強くなれたのはガゼル団長とみんなのおかげだろう。

 俺が考えを巡らせていると、また不快な視線を感じて振り向くと霧散した。


(何なんだ!? いったい・・・・・・)




 一行はセーフティーポイントを出て二十一階層に降りて探索を開始した。

 ダンジョンの各階層には数キロ四方に及び、迷わないようにマッピングしながら進んでいた。

 二十一階層の一番奥は鍾乳洞のような氷柱が飛び出していて地形が悪い。ここでモンスターに襲われてはやばいかもしれない。

 この先を進むと二十二階層への階段があるらしいので急いだほうがよさそうだ。

 一行はせり出す氷柱のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 すると、先頭を行くガゼル団長たちが立ち止まった。すると、ガゼル団長の後ろにいた職業暗殺者アサシンが探索魔法を発動していた。それを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物モンスターのようだ。


「擬態しているぞ! まわりをよ~く注意しろ!」


 ガゼル団長の忠告が飛ぶ。

 その直後、前方でせり出していた氷柱の一部が突如変色しながら起き上がった。氷柱と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がり、後ろには尻尾もある。そしてワニみたいな頭をした魔物がこちらを睨みつけている。どうやら、カメレオンのような擬態能力を持ったリザードマンのようだ。


「リザ―マンだ! こいつはリザードマンが突然変異で進化したとも云われている。決して油断するな!」


 ガゼル団長の声が響く。ここは前衛に特化した人がいいだろう。俺は身体強化を施しつつ、前に出た。その時、飛びかかってきたリザ―マンの剛腕を拳闘士の人が拳で弾き返す。その隙に俺とガゼル団長が取り囲もうとするが、あちこちにある氷柱のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 こちらが思うように動けないことを感じたのか、リザ―マンは後ろに下がり陸上のクラウチングスタートな態勢に入って動きが止まった。

 直後、


「グゥガガガァァァァァ――!!」


 リザ―マンが発した強烈な咆哮ほうこうで部屋全体が震えた。


「ぐっ!?

「ぐわっ!?」

「きゃぁ!?」


 体にビリビリと衝撃が走り、前衛にいた俺たちは硬直してしまう。これはリザ―マンがスキルで威圧してきたようだ。これを防ぐには無効化する装備を身につけるか、レベル差が圧倒的にないときついらしい。俺たちが麻痺してるところを見るとこの魔物はそんだけ手ごわいことが疑われる。

 俺たちが動けない隙をついて、リザ―マンが勢いよく突進してきてその長い爪を振り下ろしてきた。俺たちはまだ体がよく動かなくて防御が間に合わない。もうダメだと思って目を閉じたとき、


 ガキィンッ!!!


 大きな音がして目を開けると、


 いつの間にか現れたアザエルが大きな大剣でリザ―マンの爪を止めていた。

 アザエルは下半身に力を込めて踏ん張ると、


「くぅうう、このぉぉぉ!!!」


 大剣でリザ―マンを弾き飛ばした。

 そして、それを待ってたように、後衛にいたガブリエルや彩たちがいつの間にか準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けて、発動しようとした瞬間、ガブリエルたちは衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 何と、先ほどまで氷柱だったはずが次々と変色していってリザ―マンに変わっていった。しかも、新たに表れたリザ―マンはどういうわけか俺たちには目もくれず、後衛にいる女たちのところへ迫る。その姿は、変態オヤジが若い女を見つけてような感じで、妙に目が血走り鼻息が荒くてなんか怖い。

 ガブリエルたちも「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。「こっちに来ないでぇ――!」と魔法の杖をブンブンと振り回している者もいる。なかなかのカオス状態だ。


「こらこら、戦闘中に何やってるんだ!」


 慌ててガゼル団長が今にもガブリエルたちに襲い掛かろうとしていたリザ―マンを切り捨てる。

 ガブリエルたちは、「助かった~」と安堵してるものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めてる者もいた。そんな様子を見てキレるものがいた。俺とガゼル団長を除いた男共だ。


「貴様・・・・・・よくも我らのオアシスをけがしてくれたな・・・・・・いくぞ! お前ら!!」

「「「オー!!!!!」」」


 どうやらガブリエルたちが気持ち悪さで青褪めてるのを見て、彼女たちが穢されたと思い、ブチ切れてるようだ。何人かはチャンスとばかりいいとこを見せて自己のアピールをしようとする輩もいるようだが。


「我が天に捧げる――」

「水の精霊よ。我が呼びかけに応えて――」

「我が聖剣よ。今こそ眠りから――」


 男共はそれぞれが大技を放とうと詠唱しだした。


「あっ、こら、馬鹿者!」


ガゼル団長の声を無視してそれぞれが一斉に技を放った。

 それぞれから爆音がとどろいて強烈な光が飛んで行った。逃げ場などない。四方八方から飛んできた光はわずかな抵抗も許さずリザ―マンたちを縦に両断し、焼き払い、更に、奥の壁を破壊し、跡形もなくリザ―マンたちは消滅した。

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐き汗をぬぐい、カッコつけた感じでガブリエルたちへ振り返った男共。それぞれがガブリエルたちを怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だと声を上げようとしたところでいつの間にか目の前に来ていたガゼル団長によって拳骨を食らった。


「へぶぅ!?」

「ぐふっ!?」

「いったー!?」

「この馬鹿どもが。気持ちはわかるが、こんなところで使う技じゃないだろうが! 一歩間違えれば崩落して魔物どころか俺たちまで全滅してただろうか。もっと、緊張感を持て。その分冷静だった琢磨は評価に値するがな」


 あのテンションについていけなかっただけですが、と思ったが言ったら後が怖そうなので黙っていた。

 男たちもばつが悪そうにしていたがガブリエルたちが苦笑いしながら慰める。本当にこのパーティーはいい人ばっかりだ。


「・・・・・・あれは!? あの輝きは我のエネルギーの塊・・・・・・」


 彩の中二病な発言は華麗にスルーしつつ、俺たちは彩が指差す方へ目を向けた。

 そこには青白く発光する鉱物が所狭しと壁から生えていた。まるで宝石がちりばめられてるようだ。ガブリエルたち女性はその美しい光景にうっとりとした表情になった。


「ほぉ~、あれはクロイツ鉱石だな。大きさも中々だし、これはとても珍しいものだぞ」


 クロイツ鉱石とは、宝石の原石みたいなもので、効能があるわけではないが、加工して指輪やイヤリングにして恋人にプレゼントするとプロポーズの成功率は脅威に九十パーセント以上だとか。


「素敵・・・・・・」


 女性人がガゼル団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとしてるのを見た男性人が我先にと鉱石を掘り出しに向かった。


 「こら! 勝手に動くな! 安全確認もまだなんだぞ!」


 ガゼル団長が追いかけようとしたとき、盗賊スキルを使った女性が慌てたように、声を張り上げた。


「き、気をつけて! トラップがあるよ!」

「ッ!?」


 しかし、警告は一歩遅かった。

 男性人の何人かがクロイツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。クロイツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れると発動するトラップだ。どうしてこの人たちは駆け出しの冒険者だということを忘れるのだろうか。こっちの身にもなってほしい。

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がって輝きを増した。


「撤退だ! 早くこの部屋を出るんだ!」


 ガゼル団長の言葉に俺たちは急いで部屋の外に向かうが・・・・・・間に合わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る