第9話 初めてのダンジョン攻略
「ねえ、その人誰?」
「あんた、美人がここにいるのに他の人をナンパしてるの?」
俺が女騎士に手を握られてるときに彩とガブリエルが身支度を整えて現れた。
ガブリエル、余計なことを言うな。また周りから白い目で見られてるじゃないか。一部からは殺気立ってこっちを見てる集団まである。こいつ、美人だからって仕立てに出てたらいい気になりやがって。こっちはお前のドジのせいで死んだことをまだ許してないぞ。
俺がガブリエルを睨みつけると「ヒイッ!」と怯えたように彩の後ろに隠れてしまった。それを見た周りのやじ馬が、
「今の見た。あの子の怯えよう」
「見た見た。きっと暴力で言うこと聞かせてるのよ。男のクズね」
「・・・・・・でも見て。あの女騎士の人が見かねて折檻してくれるわ」
俺の評価がみるみる落ちていく。心の中で泣いていると女騎士が手を放し、周りの声が聞こえてないのか気にしない素振りで、
「これは失礼した。私の名前はアザエル。見た通り騎士だ。このパーティーに入れてもらった。どうかよろしく頼む」
「あらそうなの」
「よろしくね」
三人はがっちり握手を交わしていた。
アザエルは二人の手を触ってちょっと興奮してるようだが二人は全く気付いてない。
俺は身支度を整えると、
「じゃぁ、ダンジョンに行くぞ」
「おや、もう行きますか」
俺たちが歩き始めると行商人が馬に荷物を括り付けてから話しかけてきた。
「ああ、もう行くよ。昨日は世話になったな」
「温泉、気持ち良かったわ」
「コーヒーもうまかったよ」
ガブリエルと彩がそれぞれ感想を述べると、
「気にしないでください。私も久々に一人ではなかったので楽しかったですよ。やはり、話し相手がいるのはいいものです。それで、私は街道を西の方に迂回してガモスに向かうつもりです。そこで暫く商売をするので、また会えることを願っています。どうか気をつけて」
行商人が手を差し伸べてきたので琢磨は握手を交わすと、ガモスの方角に現れたダンジョンに向かった。
俺たちは街道に現れるモンスターを狩ってレベルを上げつつ、正午ごろ俺たちはダンジョンの前にたどり着いた。周りを見渡すと他にも冒険者のパーティーがちらほら見える。
俺たちは初めて見るダンジョンにそれぞれが少しばかりの緊張と未知への好奇心を表情に浮かべている。
だが、ダンジョンの入口を見て、少し期待してたのと違った。
というのも、琢磨としては、ダンジョンといえば仄暗く不気味な洞窟の入口というものを想像していたのだが、実際にあったのは、まるで遊園地のアトラクションみたいに、入場ゲートがあり、役所のような受付窓口まである。ギルド職員らしき制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入口をチェックしている。どうやら、ここで冒険者カードをチェックして出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するらしい。
少しでも身元不明者を無くすための措置なのだろう。
入口付近の広場では露店など所狭しと並んでおり、それぞれの店主がしのぎを削っている。できて間もないダンジョンは多くの冒険者が来るから稼ぎ時なのだろう。
浅い階層ではダンジョンはいい稼ぎ場所として人気があるようで自然と人が集まる。欲に目がくらんでダンジョンをなめてかかった者は命を散らしたり、ダンジョンを犯罪の拠点にして手が出しづらくなったものも多くいたようで冒険者ギルドと協力うして王国が設立したらしい。受付窓口の隣では素材の売買もしているので、ダンジョンに潜る者は
琢磨はまだ見ぬ王国にいずれ行ってみたいなと思いつつ、気を取り直して頭をポリポリ掻くと、キョロキョロと周りを見渡すと一人の大男に声をかけられた。
「お前たちもこれからダンジョンに潜るのか?」
「そうですけど・・・・・・」
返事をしながら目の前の大男を見上げると身長が二メートルぐらいに鎧の上からでも分かるほど筋肉がついている。背中には大剣を装備して、顔には左目と右頬に傷がある。きっと今まで俺には想像できないほどの死線を潜り抜けてきたのだろう。
そして、大男の後ろを見ると、男女さまざまでいろんな職業の人たちがいる。みんな強そうだ。
「俺たちとダンジョンに潜っているときだけでいい。パーティーを組まないか。この中はまだ未知数で油断できない。少しでも仲間を増やして死ぬ可能性を少しでも減らしたいんだ。ダンジョンで見つけたアイテムなどの取り分は減ってしまうかもしれないがどうだろうか?」
俺たちからしたらダンジョンに潜るのはこれが初めてだ。中がどうなってるのかわからない。ここは経験者がいた方がいいだろう。それに目の前の大男は俺たちよりはるかに強いだろう。その大男がここまで言っているのだ。それほどダンジョンは危険なのだろう。
俺はガブリエルたちに視線を向けるとみんなが頷き合うのを確認して、
「分かりました。よろしくお願いします」
俺は二つ返事でOKした。
この大男は騎士団の団長で元S級冒険者らしい。名前はガゼル。ここには、王国と昔所属していたギルドの頼みできたらしい。俺たちに声をかけたのはダンジョンに潜るのが初めてだと思わぬ苦戦で欲に目がくらんで引き際を間違えると死んでしまうことも過去にはあったとか。そういう人たちを無くすためにダンジョン初心者の教育も担ってるらしい。確かに他の人たちは俺たちとたいしてレベルが変わんなかった。
俺たちは互いに自己紹介を済ませると、ガゼル団長を先頭にダンジョンの中にゾロゾロ入っていった。
迷宮の中は、外のにぎやかさとは無縁だった。縦横長く伸びている通路には明かりもないのに
一行は隊列を組みながらしばらく進むと広場に出た。見渡すとドーム状の大きな場所で奥に先に進む通路が見える。こういう場所はゲームだとフロアボスを倒さないと先に進めないがこの異世界はどうなのか。
と、その時、一行の前にわらわらとスライムが現れた。よく見るとあの時のまだら模様の奴だった。一行の中にいる女の冒険者だけが後ずさりしている。どうやらみんな同じ目に遭ってるようだ。
「よし、私がおとりになろう」
そう言って進み出たのがアザエルだ。
「よし、アザエルがひきつけてるうちに男どもが一斉にかかるぞ! 女たちは下がれ! 知ってるものもいるようだが一応言っとく。あれはスライムに見えるがただのスライムではない。最近目撃されるようになったユニークモンスターでまだら模様が特徴だ。このスライムはあまりのすばしっこさでたいていの攻撃は当たらないが、パーティーに女がいると口から粘液攻撃をとばし、装備が溶けていく様をどういう訳がじっと見ているという特徴がある。故に攻略方法はただ一つ、女がおとりになっている間に男どもで攻撃をすればいともたやすく切れる」
その言葉の通り、まだら模様のスライムは結構な速度でアザエルに近づくと、そのまま素通りして背後で固まってたガブリエルたちに襲い掛かった。
スライムが粘液攻撃を繰り出して女たちに当たろうとした瞬間、ポニーテールの魔法少女が、
「プ、
魔法の膜が展開され粘液攻撃を防いだ瞬間に俺たちは一気にスライムを倒した。
アザエルの方を見ると棒立ちのまま固まっている。どうやら、スライムに女として見られなかったようだ。
俺はアザエルに近づくと、
「ドンマイ」
としか声をかけられなかった。
ガゼル団長は気まずそうに、
「ああ~、うん、よくやったぞ! この調子で次も行くぞ、気を緩めるなよ!」
思ったよりできる琢磨たちの優秀さに苦笑いをしながら気を抜かないように注意するガゼル団長。しかし、初めてのダンジョン攻略にテンションが上がるのは止められない。それぞれコミュニケーションをとっている琢磨たちに「しょうがねぇな」とガゼル団長は肩をすくめた。
「それとな・・・・・・モンスターが落とした魔石の回収も忘れるなよ。売ったり武器を改造したりいろいろ使いようがあるからな」
ガゼル団長の言葉に琢磨たちは慌てて魔石を拾うのだった。
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