第4話 新たな仲間
「仲間を増やそう。スライムに苦戦してるようじゃ先が思いやられる。募集をかけるぞ!」
街に帰った俺たちは、真っ先に大浴場で汚れを落とし、冒険者ギルドに依頼達成の報告をすると、ギルド内の酒場で食事をしながら作戦会議をしていた。
今日は、スライムの討伐で50Gとドロップしたアイテムを売りさばいて1050Gある。ガブリエルは装備がダメになったので今は普通の服を着ている。明日は装備の買い出しだ。俺が天界でもらったアイテムは俺専用で他の人が使ったり売ることができないらしい。俺のチートアイテムだな。ちなみに英雄のマントをガブリエルにかぶせた時はマントは防御しているが、ガブリエルには効果なかったらしい。その証拠にスライムを討伐した帰り道に街道でガブリエルの下着がなくなったときは焦った。そのせいで元気がなかったが食事で元気を取り戻したのか、自棄になったのかよく食べている。
ガブリエルが洋服を着ると見た目と相まって、貴族のお嬢様みたいに見える。さっきから冒険者の男たちの視線がいたい。
「どうかした?」
「いや、何でもないよ」
俺は気を取り直した。
「とりあえず仲間はどういうのがいいか希望はあるか?」
「ふぉのへんきのわたひがいるんだはら、なはぁまあんて」
「行儀が悪いから、口の中のものを飲み込んでから喋れ」
口の中のものをゴクリと飲み込み、
「この天使の私がいるんだから、仲間なんて募集かければすぐに集まるわ」
「・・・・・・お前、前もそんなこと言って誰も相手してくれなかったじゃないか」
「そ、それはたまたまよ。見てみなさい」
そう言われてガブリエルが向けてきた背中を見ると、
「お、お前、それ・・・・・・」
「気づいた。私の翼が戻ったのよ。最初はレベルが一だからなかったみたいね。レベルが上がったら戻ったわ。これで見た目も天使にみえるでしょ。それに、『祝福の天使』ってスキルを覚えたわ。これは、あらゆる回復魔法が使えるわ。補助魔法に毒や麻痺なんかの治癒、蘇生だってできるの。しかも効果はレベルを上げれば上げるほど倍増よ。それに、聖剣を持っている琢磨さんもいるのよ。どこのパーティーも喉から手が出るぐらい欲しいに決まってるじゃない。最初は琢磨さんに巻き込まれる形でこの世界に落とされ不安だったけど(自分のしたことを忘れている)、本来の力からは程遠い状態とはいえ、この私が声をかければ『お願いですから仲間に入れてください』って輩が山ほど出てくるはずよ! わかったら、あ、そこの骨付き肉貰っていい?」
と言って、テーブルに残っていた骨付き肉を貪る天使を、俺は不安気に眺めていた。
翌日の、冒険者ギルドにて。
「・・・・・・何で、誰も来ないのかしら・・・・・・」
ガブリエルが寂しそうに呟いた。
仲間募集の張り紙を出した俺たちは、冒険者ギルドの片隅にあるテーブルで、半日以上も張り出してる掲示板の方を眺めながら誰か来てくれるんじゃないかと待ち続けている。
張り紙が見られてないわけじゃないらしい。
こちらをチラチラ見てる冒険者がそこそこいるが、結局他の冒険者とパーティーを組んでどこかに連れだって行ってしまった。
誰も来ない理由は分かっている。他の冒険者のささやき声がたびたび聞こえた。その内容は、あのカップルの中に入る度胸がないだとか、あの二人の関係を壊したくないだとか、天使のコスプレまでして自分のことを天使と言っている残念美少女がいるとか、一緒にいたらこっちまで頭がおかしいと思われるとか等々。
あれ、ようく考えたらこいつのことが大半じゃねえか! こうなったら他の町に行って募集したほうがいいかもしれないな。
「・・・・・・なあ、ハードル下げてダメだったら他の町に行って募集しようぜ。目的は魔王を倒すことなんだろ? だったらいい加減冒険ぽいことを――」
「この世界には魔王なんていないわよ」
「・・・・・・はっ!?」
ガブリエルが言ったことに理解ができなかった。こういうファンタジー世界は冒険して魔王を倒すんじゃないの? なんで冒険者ギルドがあるの?
俺が疑問に思っていると、
「ああ、言い方が悪かったわね。魔王みたいな存在はいるわよ。ただ、呼び方が違うのよ。この世界では天使を崇めてるでしょ。それに対して悪魔教って悪魔をシンボルマークにしてる邪教徒があるのよ。でも、やってることは大差なく人間を恐怖に陥れることだから違うことは呼び方ぐらいだから、魔王=悪魔と思っとけばいいんじゃない」
「そうか。それならいいか。・・・・・・それよりも俺たちはカップルと思ってるやつがいるらしいから、仲間には男と女の冒険者を入れるのと上級職というのを外すぞ。高望みしすぎだ」
俺がそう言って、立ち上がろうとした時だった。
「上級職の冒険者募集を見てきたのですが、ここで良いのでしょうか?」
今時の女子高生みたいな長い
そして、紫に赤が混じったようなしっとりとした質感の、背中まである長い髪。
俺たちに声をかけてきたのは、青いマントに青いロープ、茶色に赤い刺繍が入ったブーツに杖を持ち、紫のとんがり帽子までかぶった、二次元から出てきたような魔法使いの、ガブリエルに負けず劣らずの美少女だった。
受付のお姉さんといい、この世界では、美人が多くないか・・・・・・。
「そうですが、あなたは?」
俺の質問に対し、見た目は十七~十八歳ぐらいにしか見えない、片目を眼帯で隠した美少女は、突然バサッとマントを翻し、
「我が名はシャナ! アークウィザードを生業とし、炎系の最強の攻撃魔法、爆裂魔法を極めし者・・・・・・!」
「・・・・・・あの、冷やかしに来たのですか?」
「・・・・・・ち、違います!」
女の子の自己紹介に思わず突っ込んだ俺に、その子は慌てて頭を下げて否定する。
「・・・・・・その赤い目。もしかして、あなたは悪魔教の人ね?」
ガブリエルの声が聞こえたのか周りがざわつきだした。
「あ、違います。私は日本人です。本当の名は加藤彩と言います」
「じゃあ、その赤い目は何?」
「これは、カラコンです」
女の子はコンタクトを外して見せた。
「あ、そう・・・・・・」
その時、女の子の腹の虫が鳴った。
「あの、図々しいお願いなのですが、もう三日ほど何も食べていないのです。できれば、何か食べさせては頂けませんか・・・・・・」
加藤さんは、そう言って悲しげな瞳でじっと見てきた。
「・・・・・・飯を奢るぐらいいいけどさ。その眼帯はどうしたんだ? 治せるなら治すぞ?」
「・・・・・・フ。これは、我が目に封じられし邪神を抑えるもの。この、マジックアイテムがなかったら邪神が暴れだし、この世は大いなる災厄によって滅ばせるであろう・・・・・・」
「へえー・・・・・・。日本から転生してきたのにそんな宿命をおびて大変だな」
「まあ嘘ですが。単に、コスプレです。せっかく異世界に来たのですから、眼帯をつけたら面白そうじゃないですか・・・・・・あっあっ、ごめんなさい、やめてください引っ張らないで!」
「俺の同情を返せ」
バチンッ!!
「イタッ!!!」
俺が引っ張てた眼帯から手を離すと勢いよく加藤さんの目にクリーンヒットした。
それから、冒険者のみんなも違うのかとそれぞれチリジリになった。
それから、みんなでテーブルに着くと、加藤さんの冒険者カードを見させてもらった。
「ええと・・・・・・名前はシャナ? あの、あなたは加藤さんですよね?」
「は、はい。そうですけど昔やってたアニメの好きなキャラで使わさせてもらってます」
「おい、バカ天使! 本名以外での登録ができるなんて聞いてないぞ」
「そ、そうだったかしら・・・・・・ふゅ~ふゅっ~」
こいつ、へたくそな口笛でごまかせると思うなよ。後で変更できないか聞いてみるか・・・・・・。
俺が登録名を変えられるなら何がいいか考えてると、加藤さんが手を上げて質問してきた。
「あの~、さっきから気になってたんですけどあなたも日本人ですよね?」
「ああ~、自己紹介がまだでしたね。俺は鈴木琢磨です。年は十八です。あと、敬語いりませんよ。俺も使うのをやめるから」
「私は天使のガブリエル本人よ」
「そういうことなら、天使のガブリエルさんに、琢磨さん・・・・・・あれ、鈴木琢磨ってどっかで聞いたような・・・・・・あああああああ!!!!!!!」
「ど、どうした?」
加藤さんが急に大声をあげるからほかの冒険者もなんかこっちを見てるじゃないか。目立つからやめてほしい。
加藤さんが説明する。
「今から三週間前ぐらいに組んでた人がいて、その方も日本からの転生者で年も近かったことから意気投合したんだけど、その人が転生した理由を聞いたら、幼馴染が不運な事故で死んだらしいんだけどそれで、生きる気力もなくなって自暴自棄になってた時に声が聞こえて気づいたら天界にいたんだって。それで幼馴染が異世界で生きてることを知って、転生してきたんだって。で、その時言ってたのよ。幼馴染の名前が鈴木琢磨って」
「ちょっとどうしたのよ。あなた、顔が真っ青よ」
ガブリエルに言われるまでもなく、全身から脂汗がすごく出てるだろう。
だが、俺は希望を捨てない。異世界まで来たのはあいつじゃない可能性もある。俺は希望を捨てない。
おそるおそる加藤さんに聞いた。
「あの、つかぬ事を聞くけど、その人は髪は金髪でツインテール、身長は百五十ぐらいで青い目をしてませんか?」
「はい。特徴は完全に一致してるよ。ちなみに名前は
「ああ!!!! 完全に一致してる。何でアイツまでこっちに来てるの! なんか恨みでもあるの!! せっかく第二の人生を謳歌しようとしてたのに!!!!!・・・・・・あ、待てよ。たしか三週間前とか言ってたな。俺たちが来てからまだ数日しかたってない。俺が死ぬ時まで生きてたはずだからそいつは別人じゃないか! 他人の空似だよ、きっと」
「天界とこっちの世界じゃ時間が違うから、私たちより前の時間に飛ばされてても不思議じゃないわよ」
俺の淡い期待は肉をかぶり付きながら言ったガブリエルの一言で脆く崩れ去った。
まあ、この世界で早々出あうこともないだろうと思いなおして冒険者カードをあらためてみた。
「・・・・・・俺たちよりレベルが高いな。何か仲間にするには申し訳ない気が・・・・・・」
俺は冒険者カードをガブリエルにも見せた。
「いーんじゃないんでしょうか? 冒険者カードは偽造できないし、職業もアークウィザード、強力な魔法を扱う魔法使い。しかも、魔力も高い数値が出ています。これは即戦力です。いやー、これで、この先の冒険も楽になるわね。・・・・・・ウフフッ・・・・・・ウフフッ・・・・・・」
こいつ、途中から心の声駄々洩れだぞ。
ガブリエルを無視して店のメニューを手渡した。
「これからよろしくな。何でも好きなもの頼んでくれ、加藤さん・・・・・・いや、仲間になったんだから彩って呼ばせてもらうよ。俺のことも琢磨で構わないからさ。こいつのことも呼び捨てで構わないぞ」
彩は「そうさせてもらうね」と言うとメニューをひと通り見ると「すいませ~ん!」と元気よく店員を呼ぶのだった。
こうして、俺たちに魔法使いの仲間が加わった。
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