第2話 冒険者になり上級職を手に入れる!?

 俺たちが降り立った場所は、石が敷き詰められた街道に、馬車が目の前を走り去ってゆく。中世ヨーロッパのような街並みだ。


「・・・・・・これが異世界か。・・・・・・遂にここから夢まで見た冒険が始まるのだ。魔法を使うのってやっぱオタクにとっては憧れだよな」


 俺は目の前の明らかに地球とはどこか違う光景に興奮した。

 最初はガブリエルにどう仕返ししてやろうと思ってここまで連れてきたが、この異世界にこれたことで水に流してやろう。

 周りの建物を見ると看板らしきものに見たことない文字が書かれているが、俺の頭の中に自然と文字の意味が流れてくる。どうやら言葉は問題ないようだ。

 実は、言葉通じなかったらどうしようってちょっと不安だったんだよな。


「あ・・・・・・あああ・・・・・・あれは?」


 俺は行きかう人々を見ると二次元でしか見たことない者を発見した。


「耳が長い美女が歩いてる。きっとエルフだ。あっちは斧を担いだ身長が低いおじさんが。ドワーフだ。是非とも他種族とパーティを組んで冒険してみたいもんだ」

「ああああああ・・・・・・ああああああ!」


 俺は隣で奇声を上げているガブリエルをみた。こいつの存在をちょっと忘れていた。


「おい、うるさいぞ。かりにも天使だろ。何のために一緒にいると思ってるんだ。ラファエルも言ってただろ。誠心誠意俺を助けるのがお前にたいする罰になるって。・・・・・・わかったら行くぞ。こういう時はギルドに行くと相場が決まってるんだ。お前もゲーマーだったらこの世界楽しまないと損だぞ?」

「――だもん」

「何だって? よく聞こえなかったからもう一回・・・・・・」


 俺が聞き返すと、ガブリエルは泣きながら俺にしがみついてきた。


「だから無理なの! 私ここでは天使の力が一切使えないの! ここでは普通の人間と変わらないわ! 自慢じゃないけど三日以内に死ぬ自信があるわ!」


 ほんと自慢にならないな。


 涙目で喚き散らしてるガブリエルの手を取ると、


「分かった、分かった。ならこれから一緒に死なないように強くなろうぜ。何なら俺が守ってやる。だから泣くな。それ以上喚くようなら・・・・・・」


 俺が金属バットをちらつかせると、ガブリエルは首を縦に振って「はい」と頷いた。


「まずは、ギルドか酒場を探すぞ」

「そうね。冒険者になるための定番だものね。それに情報収集ができるしね」

「分かってるじぇねえか」


 そういえばいくら力がないといってもガブリエルがこの世界に疎いとは思えない。俺みたいなのを送り込んでいるんだ。土地勘があってもおかしくない。俺はガブリエルに聞くことにした。


「ガブリエル、冒険者ギルドの場所って知ってるか?」


 俺が尋ねるとガブリエルの顔が青ざめてきて距離をとった。


「殴らないから正直に言ってみ?」


 ガブリエルは「そう」とトコトコ横に来たかと思えば、


「場所は知らないんです。ごめんなさい。それに私の担当は他の異世界もあるのでその中のさらに一つの町の情報なんてとても」

「それは、お前がゲームばっかしで仕事を疎かにしてたからじゃないのか? だからこんなことになってるんだし」

「・・・・・・痛いところを」


 こいつやっぱダメ天使だな。


 俺は通りを歩いてるおばさんに尋ねる。

まだこの世界のことはよくわかってないのでガラの悪い相手だと厄介だし見た目温和かそうだったこのおばさんに白羽の矢が立ったわけだ。


「すいませ~ん、ちょっとお尋ねしていいですか? 冒険者ギルドを探してるんですが・・・・・・」

「ギルドですか? この町のギルドを知らないということは他所から来たのですか? そういえば見慣れない格好をしていますが」


 おばさんの言葉にギルドがあってホッとしたこととこの格好はこの世界ではおかしいことを指摘された。そういえば死んだときの格好だから上下ジャージ姿のままだった。


「いやあ、遠くから来たものなので。この格好も俺の故郷では最先端のファッションなんですよ」

「あら、そうなの。おばさん、流行には疎くてごめんなさいね・・・・・・それはそうとギルドを探してるってことは冒険者になりに来たのよね? 駆け出し冒険者の街アイシスへようこそ。ここの通りの突き当りを右に曲がってまっすぐ行ったところに大きな建物がみえるわ。そこよ。目立つからすぐにわかると思うわ」

「突き当りを右ですね。ありがとうございました!・・・・・・ガブリエル行くぞ」


 駆け出し冒険者の街か。

ちゃんと始まりはセオリー通りでよかった。いきなり中盤的なところから始まったらどうしようかと思ってたんだよな。スタート地点としては文句ないな。・・・・・・いつか会うことができたらラファエルにお礼を言おう。

 おばさんにお礼を言うと教わった道を歩いているとガブリエルが、尊敬の眼差しを向けてきた。

「あの、データーによると一日中ゲーム三昧って書いてあったから極度の人見知りだと思ってたんだけど何でそんなに手際がいいんですか? ・・・・・・あれ、でも天界で私やラファエルには普通に喋ってたし、見た目も悪くなくて頼りにもなるってことは私にあう男を見つけたのでは・・・・・・!」

「おい、何をブツブツ言っている。それと敬語をやめろ。何かあざとくてイライラする」

「本当? 実はこの喋り方疲れるのよね~! あっ! あれじゃない」


 俺たちは冒険者ギルドに入っていく。



――冒険者ギルド――



 ゲームやラノベに出てくる、冒険者に仕事を斡旋したり、パーティーを募集したり、大抵は宿屋をかめてたりする組織だ。

 そこはおばさんが言ってた通りかなり大きな建物で中から食べ物の匂いが漂ってきた。居酒屋みたいな騒ぎ声も聞こえてくる。

 中には新人をいじめてくる輩がいるかもしれない。

 覚悟を決めてて中に入ると・・・・・・。


「いらっしゃいませー。お仕事案内なら右手のカウンターへお進みください。お食事なら左側の空いてるお席へどうぞー」


 ポニーテールの黒髪のお姉さんが愛想よく出迎えた。このウエイターさんもかなりの美人だ。異世界に来てよかったと心の底から喜んだ。


 俺たちは言われたとおりに右手のカウンターに向かった。

 途中、新人が珍しいのか目線を感じる。どこか田舎者を見てる感じというか、中には笑いをこらえてるやつもいる。

・・・・・・俺はその原因に気が付いた。


「あの、やけに見られてるけど私の天使のオーラがにじみ出てるのかしら。・・・・・・ふっ! 可愛いのも罪ね」


 この天使、的外れなことを言ってるぞ。たしかに黙ってたら可愛いのは認めるけど。こいつに言ったら調子に乗りそうだから言わないけどな。


「この格好のせいだよ。何で異世界に来てまでジャージなんだよ! ・・・・・・とそうだった。たしか天界でもらったアイテムの中に・・・・・・これこれ」


 俺はアイテムボックスの中から聖騎士の鎧を装備した。

 すると、周りが一気にざわついた。

 そんなにおかしいか?


「ちょ、ちょ、琢磨さん。駆け出し冒険者がそんな装備をもってるわけないでしょ。直ぐに解除して」


 確かにこいつの言う通りだ。俺はすぐに元のジャージ姿に戻った。

 周りの連中から「さけの飲みすぎか?」「幻覚だったのか?」「疲れてるな。もう帰ろう」という声が聞こえてくる。どうやら酒で酔って幻覚でも見たと思ったのが大半らしい。

 とりあえず誰かが話しかけてきてもめんどくさいので当初の目的を遂行しよう。


「当初の目的通りギルドへの登録を済ませるぞ。そしたら簡単な依頼からこなしていこう。とりあえず、お約束としては装備を買いそろえる軍資金ぐらいは出るはずだ。それを元手に、今夜寝るところの確保まで進めるぞ。お前もゲーマーだったらこれぐらい知ってるだろうけどな」

「知りません。私は主にやってたのは格闘ゲームでこうレベルを上げるのはしんどくて、人気のやつはやっても三日坊主なんです」

「・・・・・・まあ、ロールプレイングの良さはこれからわかるはずだ。なんせ自分自身で体験してるんだしな。――よし、行くぞ」


 俺はガブリエルを引き連れ、受付カウンターに向かった。

 受け付けは五人。

 一人目は明らかにゴロツキみたいな人、二人目は見た目は美人だけど化粧がけばい人。何か怖い。三人目はお淑やかそうな和風美人、四人目は受付書類をぶちまけて平謝りしてる。いわゆるドジっ子だ。そして五人目はあきらかにオカマでこちらに投げキスをしている。体がゾクッとした。

 俺は和風美人の列に並んだ。


「・・・・・・他の列がすいてるのにワザワザこっちに並んだ理由が分かるわ。私の体から物凄い蕁麻疹が出てるもの・・・・・・」


 俺の後にくっついてきたガブリエルも同じような感じだった。思考回路は一緒でよかった。これなら問題なく冒険できるだろう。

 まもなくして俺たちの番がきた。


「今日はどうされましたか?」


 受け付けの女の人は思った通りのお淑やかそうな人だった。

 ウェーブのかかった茶色い髪に和服が似合いそうな八方美人だ。ちなみに服を着ててもわかるほど胸がでかい。

「冒険者になりたいんですが、受付はここで合ってますか?」

「ええ、大丈夫ですよ。では、登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」


 ここまではすんなり来たぞ。あとは、手数料を払えば・・・・・・。


 ・・・・・・登録手数料?


「・・・・・・ガブリエル、金って持ってる?」

「持ってないわよ。いきなりここに来ることになったんだから、持ってきてるわけないでしょ?」


 ・・・・・・なんてことでしょう。冒険する前にまさかのバッドエンド。俺は、ガックリしてポケットに手を入れると現世の金が入っていた。試しに使えるのか聞いたところ、「こんな紙いりませんよ」と突き返された。

 一旦受付から離れてガブリエルと話し合った。


「・・・・・・おい、どうしようか。いきなりピンチだぞ。天界でもらったアイテムを売るべきか」

「ちょ、ちょっとそれはやめて! そんなものを売ったらこの世界では珍しい物ばかりだから怪しまれるわ。どれも駆け出し冒険者が持ってたらおかしいもの」

「・・・・・・なら、どうするんだ?」

「私に任せて。この世界も天界の神を崇めてるはずだから」


 ガブリエルはテーブルで食事中のいかにも魔法使いぽい恰好をした女の人のところに行った。


「そこのお綺麗な方、私はこの地で崇められる神の一人、ガブリエルと申します。もし寄付をしていただけるなら・・・・・・いや、してください。お願いします」


 ガブリエルは女の人の怪しんでる態度に耐えられなかったのか土下座して金をせびった。


「・・・・・・すいません。私が崇めてる神はラファエル様です。それに、ガブリエルって神はいましったけ?」

「そんな・・・・・・失礼します」


 自分が認知されてないのがショックだったのかトボトボと戻ろうとすると、魔法使いのお姉さんが呼び止めた。


「えーと・・・・・・お嬢さん、そこまでお金に困ってるのなら差し上げますよ。見てたところ手数料がないご様子。それぐらいなら構いませんよ」

「あ・・・・・・。すいません・・・・・・ありがとうございます。あなたに神のご加護がありますように」


 お金を貰い、複雑そうな顔でガブリエルが戻ってきた。


「・・・・・・後輩のラファエルが知られてるのに、私の名前が知られてないんですけど。・・・・・・ついでに言うと、私はこれでも天界では天使の中では古株でそれなりのポジションにいるはずなんですけど。・・・・・・さらに天使ともあろうものがお金を恵んでもらうなんて・・・・・・」

「ま、まあいいじゃないか。当初の予定通りこれで冒険者になれるんだから。それに、知名度なんてこれから上げていけばいいんじゃないか」


 何かを失ったような顔をしているガブリエルを適当に励ますと、


「登録料持ってきました」

「は、はい・・・・・・。登録料はお一人五百G《ゴールド》になります・・・・・・」


 魔法使いのお姉さんから恵んでもらったのは三千G。

 ガブリエルが言うには、一G一円換算らしいので手持ちは三千円の価値がある。

 魔法使いのお姉さんは少し多めにくれたようだ。なんていい人なんだろう。

 ・・・・・・いつかお礼をしよう。

 俺たちが登録料を支払うと、


「では。冒険者について簡単に説明させていただきます。・・・・・・まず、冒険者とは街の外に生息しているモンスターの討伐を請け負ったり、依頼があれば薬草採取、護衛任務等、様々な仕事があります。依頼は一回断ると違約金が発生する場合もあるのでお気を付けください。そして、冒険者には、各職業というものがあります」


 ついに来た。これだよこれ。

 ゲームの最初でよく出る定番の奴だ。職業やジョブなど戦闘タイプを選ぶやつだ。結構悩むんだよな。

 せっかくなら剣もいいけど魔法も使ってみたいよな。せっかくファンタジー世界に来たんだし・・・・・・

 受付のお姉さんが俺とガブリエルにカードを差し出した。

 大きさは運転免許証と同じぐらいだ。


「こちらがギルドカードです。そして左側にレベルという項目があると思うんですが、これはモンスターを討伐したりスキルで獲得できる経験値が一定以上溜まるとレベルが上がります。これらは普通目で見ることができません。しかし・・・・・・」


 お姉さんが、指さしたところを見ると、


「このカードを持っていれば獲得した経験値が表示されます。次のレベルに必要な経験値も表示されるので参考にしてみてください。これが冒険者の強さの目安になり、レベルを上げれば上げるほど強くなっていきます。そして、レベルが上がれば新スキルを覚えられたりするので、あと、討伐したモンスターの情報も記録されるので、是非頑張ってください」


 その言葉に、俺のゲーマー魂に火が付いた。


「まずは、こちらの書類にご記入ください」


 えーと、何々・・・・・・身長百七十八センチ、体重七十五、年は十八歳、名前は鈴木琢磨・・・・・・。


「はい、結構です。では、二人ともこちらのカードに触れてください。それでステータスが出てくるのでなりたい職業を選んでください。後からもジョブチェンジはできるところもあるのでそこまで悩む必要もありませんよ」


 遂にこの時が来たな。このドキドキ感はクラス替えの時以来だな。

 俺は、内心妙なワクワク感と淡い期待を込めてカードに触れた。


「・・・・・・はい、ありがとうございます。鈴木琢磨さんですね。ええと・・・・・・これは素晴らしいですね。筋力、魔力も敏捷性も平均以上です。これは将来楽しみです・・・・・・。あれ? 天使の祝福ってスキルがありますね。初めて見ました。ええと・・・・・・このスキルを持ってる人はレベル上限がないうえに多少のケガなら自動的に治癒されるそうです。これは、将来有望なんじゃ・・・・・・。琢磨さんて実はすごい人なんじゃ・・・・・・」

「そんなわけないじゃないですか。普通ですよ、普通。ガブリエルはどうだった?」


 俺は話題を変えるようにガブリエルに聞いた。


「・・・・・・知力も体力も筋力も普通だって。魔力は高いだしいけど・・・・・・獲得スキルもない・・・・・・ねえ、どうして! 天使の私になくてどうして琢磨さんに明らかに天界からの恵みとしか言いようのないスキルがあるの! 何! 私は死んで言いていうの?」

「おい、落ち着け。お前は死なない。俺が守ってやるから」

「本当? もし嘘なら死んだら地獄に落とすからね」

「お前にそんな権限ないだろ」

「口答えしない!」


 その時のガブリエルの頬をぷくっとした顔も可愛いらしかった。

 見た目が美人だと役得だよな。


「・・・・・・あの、喧嘩なら外でやってもらえます?」

「すいません」


 お姉さんが気を取り直したように


「職業を拝見しますとガブリエルさんは魔力が非常に高いので魔法使いがおすすめです。レベルを上げていけば賢者にもなれるので最適だと思われます。琢磨さんは・・・・・・えっ!? ええええええっ!? 何で、上級職があるの!? それも魔法剣士!? ・・・・・・普通はレベルを上げても転職できるかわからない職業なのに・・・・・・やっぱり琢磨さんはすごい人なんじゃ!」

 

 お姉さんの声が施設内に木霊した。

 それを聞いた冒険者達がざわめく。

 どうやら、いい職業があったようだな。それだけでこの反応なら、うまくいけば富や名声も思いのままなんじゃ、こんなに順風満帆でいいのだろうか・・・・・・?

 その時はこう思ってました。この直ぐ後に現実はうまくいかないことを実感することになる。

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