忘レ慰 ━ ワスレナグサ ━
斐古
勿忘草の花言葉
私がこれから逝く場所は、どんな所でしょうか?
貴方と出会った時のように、透き通るような青空が見える、景色のいい場所だといいのですが。
そして私と貴方の好きなあの花があれば、なお素敵なことでしょう。ですが、そう上手くはいかないでしょうね。
貴方に会えたことが幸せでした。
貴方と出会えたことが、私にとってかけがえのないものになりました。
貴方のおかげで、沢山の宝物が増えました。
貴方との日々は、色のない私の人生に花が咲いたように、美しい思い出になりました。
だから私は、一人先へ逝くのです。
貴方との思い出の日々を、ずっと綺麗なままで。
私は色褪せぬよう、忘れぬように、大切に抱えて逝きます。
貴方にとって重荷にならぬよう、黙って逝く事をどうかお許しください。
今は貴方を悲しませてしまった。
そして悲しむ貴方に、私はそっと寄り添えない。
貴方の心を慰め、癒すことが出来ない。
その事実が、今の私の唯一の心残りです。
貴方は不器用な人だから、私は少し心配です。
ですが、私は知っています。貴方はとても強い人だと。
私が居なくなっても、貴方はきっと大丈夫でしょう。
私は知っています。貴方がとても優しい人だと。
私が居なくても、沢山の人が貴方を支えてくれるでしょう。
私は知っています。貴方はとても素敵な人だと。
私よりもきっと、貴方を愛してくれる人が現れるでしょう。
だから私は、最後に貴方へこの言葉を残します。
「私の事を忘れてください」
貴方がどうか、前へ進めるよう。
私の事は忘れてください。
貴方が明日も、笑っていられるよう。
私との思い出を、全て無かったことにしてください。
貴方の残りの人生が、少しでも明るくなれるよう。
私という存在で、貴方が縛られないように。
……ですが一つだけ。最後に私の願いを、聞いてはいただけないでしょうか?
貴方と初めて、出会ったあの場所で。
貴方と初めて、眺めたあの景色で。
貴方と初めて、恋に落ちたあの花畑で。
貴方と共に、毎年見たあの花の時期が来る度に。
どうか思い出して欲しい。
私と貴方、共に愛したあの花を。
貴方の心に、私はずっと生きていたかった。
叶うなら、貴方と共に一生を終わらせたかった。
でもそれは、私には出来なかった。
だからこれは、単なる私の我儘です。
毎年、貴方へ贈った。あの花の花言葉を知っていますか?
私は照れながら「真実の愛」と伝えていましたが、察しのいい貴方の事です。気づいていたのでしょう?
そして貴方は、必ず私へ「愛の象徴」と言って、恥ずかしがる私に、紫苑の花束をくれるのです。
私が貴方へ贈っていた花。
勿忘草の花言葉。
「どうか私を忘れないで」
一番でなくてもいい。
貴方の心の片隅に、私を永遠に生かしてください。
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