3-19 カーバンクルと撮影機
ディスマスが、イツキに手を差し出した。
「? 何スか?」
「魔法石取り上げとく。手持ち全部出せ」
「は、何で?」
「悪用の芽を摘むんだよ」
「……っ!」
イツキが何かに思い至った顔になって、ディスマスを睨んだ。
「……あんたは俺がル……じゃねえ、カーバンクルを実体化するために禁忌破りするって思ってんスね?」
「ああ」
事も無げに返したディスマス。
彼はイツキの長年の師匠であるはずなのに冷酷そうな声音だった。
「ざけんな!」
「お前がだろうが。自分の欲を満たすためなら人間は何でもする。お前も人間だ」
イツキは押し黙り、そして憎しみを込めて笑った。
「……だからあんたが俺を管理してくれるって? ざけんなつってんだよ」
イツキは一度肩を強張らせて、脱力した。
「しねぇっスよ。ルーが、ここに居てくれるだけで充分なんで。ほんと、どんな形でも俺は……」
「そーかよ」
ディスマスはそれだけ言い捨て、手を下ろした。
イツキは心なしか疲れが濃くなったように見える。
「……ごめん、ムカゴ。何が何だか分かんねぇよな」
「……いえ。魔法石を使うのが禁忌なんですね?」
「うんと、全部が全部駄目なんじゃなくて、……そうだな、魔法石を“魂”の代わりに使っちゃ駄目ってことだけ知ってて」
気付けば、ディスマスは厳しい視線を女子中学生に向けていた。
「とっとと白状しろよ。その気があってここに来たんだろうが」
「ああ、そうだったイツキ。私がカーバンクルを人間界に連れて行った黒幕だ」
ジュアンは堂々と宣言した。
女郎蜘蛛を筆頭とした連中に情報を流したのは彼女だという。
ムカゴは黒幕が誰かよりも、クコを助けられるのかが大問題なので、正直驚きはしても今クコの所在を知っているわけではなさそうな彼女に関心はなかった。
しかし、ホノカやイツキはそこを解明したいようだ。
「どーやって白魔女に気付かれず結界を通り抜けたんだ?」
イツキの問いに、ジュアンは人差し指を立てた。
「何事も、愛の力で乗り切れるの。ロマンチックに見つめ合うのがコツよ」
「水晶体」
ディスマスがぼそっと答えを言い当てた。
「あ! 目で姿を“映した”んですね!」
ホノカが納得したように頷いた。
ジュアンは一度、魔法使いの世界に立ち入った後、白魔女の隙を突いてペットのカーバンクルを盗み出し、カーバンクルの額と自身の目を合わせ鏡にした。
カーバンクルは“映し出す”ものに入れる能力があるため、自身を映したジュアンの瞳に入ったのだ。
そして、人間であるジュアンは堂々と結界を抜けて人間界に戻った。
少女の目的と、そもそも魔法使いの世界に行った手段もあっさり話した。
もしかしたら最初から彼女に隠す気など無かったのかもしれない。
ジュアンを魔法使いの世界に連れて行ったのは、やはり女郎蜘蛛だった。
カーバンクルを連れ出すこと自体、彼の指示だという。
女郎蜘蛛なる人物の正体についてはディスマスが調べたようだ。
女郎蜘蛛は元魔法使いだった。
他の魔法使いたち同様に、魔女裁判所から異界に派遣されていたものの、ある時連絡が付かなくなったという。
彼の思想は「自然は自然のままに」。
従来の人間保護的考えを捨て、魔物が侵入したのならばそのままに、人間が滅ぼうと構う必要はない、自然淘汰に任せてしまえばいい、というもの。
要は、人間界で利己的に金稼ぎをしようとしている。
カーバンクルを捕えようとしたのも金儲けのため。その金で人間界に商売の拠点を作ろうとしたのだ。
ムカゴは、「金儲け」ということが女郎蜘蛛と直接対峙した印象とは遠い気がしたが黙っていた。
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