第22話:初対面その2
次の日の朝。朝食を用意していると六花が眠そうにしながらリビングに入ってきた。
「おはよう六花」
「ん~……おはよう、春お兄ちゃん」
「はは、まだ眠そうだな」
甘いコーヒーを作って六花に渡す。受け取った六花は眠そうにしながら可愛らしくコクコクとコーヒーを飲む。その様子を見て微笑ましく思いつつ、朝食の用意を再開する。
まぁ昨日の夜は遅くまで起きていたし、母さんとの電話の後も楽しみすぎて中々寝付けなかったのだろう。
しばらくしてようやく覚醒した六花が、キッチンにやってきた。
「何か手伝う?」
「ん、じゃあお皿用意してくれるか?」
「はーい」
二人で朝食の用意を終わらせて、声を揃えて「いただきます」と言ってから食べ始める。
「ん、おいしい」
「それは良かった。ところで、今日は結局お土産の整理ってことでいいんだよね?」
「うん。まだ中身全部見れてないし、前に買い忘れたラック? ……とかもあるからね」
「……そういえばそうだった。よく覚えてたな」
「えへへ。あの時のことも、私にとってはいい思い出だから」
「……六花」
そんな風に思ってくれていたことに、思わず感動すると同時に嬉しくなった。昨日も感じたことだが、何気ないことでもそう思えるくらい、今の六花は変わったということだ。
「よし! じゃあ今日も気合入れてやりますか!」
「おー!」
朝食後、家事諸々を先に済ませてから早速ダンボールに取り掛かった。途中、やはり収納しきれないということが分かったため、今は二人で前にも行ったショッピングモールへとやってきていた。
「(そういえば、前回はここで梨沙と会ったっけ)」
その前には朱音も遠目で見かけてたが……。まあそんな毎回会うこともないだろうけど、万が一会うことがあれば、その時は前回同様ある程度は誤魔化したほうがいいかもしれない。
「春お兄ちゃん?」
「……ん、ああごめん。何?」
「難しい顔してたけど、大丈夫?」
「ああ、平気だよ。ちょっと考え事してただけだから」
「そう? ならいいけど」
とはいえ、適当な説明で納得してくれるとは言い切れない人が、一人いるからなぁ。まあ一番負担が掛かったから、というのもあるだろうけど。
「ふぅ……。とりあえず、前に行ったお店に行こう。今日こそ買っていかないと、次いつ片付けられるか分かんないし」
「うん。来週、また夏美さんがお土産持ってくるかもしれないしね」
「はは。そうだな」
そうして目的地に到着し、必要なものを買い揃えてお店を出る。
……さて、時間的にちょうど昼だし、どこかで食べていこうかと考えていると、隣からキュゥゥ……と可愛らしい音が鳴った。
「あぅ……」
「ん、ちょうどいいし、どこかで食べていこうか」
「う、うん」
流石に女の子だし、かなり恥ずかしいのだろう。顔が真っ赤になっている。
「何食べようか」
「ん~……」
歩き回りながらどこのお店に入ろうか悩んでいると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……会長?」
その声に思わず振り返ると、驚いた表情で固まっている朱音といつも通り落ち着いた様子で俺達を見ている水原がいた。
「…………いや、フラグかよ」
そんな二人を見て、俺は思わず呟いたのだった。
――――その後、一先ず落ち着ける場所へ移動しようということになり、近くのレストランに入った。その間、六花は俺の腕にしがみ付いて離れようとはしなかった。ただなんとなく、例の人見知り……も含まれてはいるだろうが、どこか威嚇? しているようにも見えた……気がした。
「(俺の気のせいだろうか。六花がそんなことをするような子ではないし)」
そんなことを考えながら注文したコーヒーを啜っていると、ようやく朱音が話を切り出した。
「それで、会長。その子は一体……」
「ん……。この子は六花。四月一日六花、俺の義妹だよ」
「い、妹さん? あれ、会長にご兄妹なんていましたっけ」
「正確には義理だな」
困惑している様子の朱音をよそに、水原はやはり冷静に現状を把握していたらしく、なるほどといったように頷いた。
「つまり、以前生徒会に顔を出せなくなっていたのは、その辺のご家庭のいざこざがあったからだと。そういう事ですね」
「ああ、察しが良くて助かるよ」
それを聞いた朱音も、「そういうことだったんだ」と小さく呟いた。しかしすぐにキッと表情を引き締めて問い詰めてきた。
「けど、それならそれでざっくりでもいいので話してくれれば良かったのに。私だってそこまで鬼じゃないんですから。事情を知ってたら怒りませんでしたよ」
「それについては悪かったよ」
「まぁまぁ朱音。確かにそう思わなくもないけど、あくまで先輩の家庭の事情なんだし、仕方ないでしょ」
そう水原が落ち着かせるように言うと、「分かってるわよ」とまだ若干拗ねたようにしながら紅茶を飲み干す。その様子を見て、俺は思わず苦笑いした。
「……。それで、一つお聞きしたいのですが」
「ん、なんだ?」
俺が聞き返すと、水原は俺から隣に座っている六花に視線を移して問いかける。
「先ほどから、その妹さんがジッと私達を見てる……というか、若干睨まれているような気がするのですが」
「……六花?」
そう言われて俺も六花を見ると、確かに変わらず腕にしがみ付きながら朱音達をジッと見ていた。二人と出くわしてからずっとこの状態なのだが、どうしたというのだろうか。
「……何か言いたそうな雰囲気ですが、良ければ聞かせてもらえませんか?」
水原が気持ち優しく六花に問いかける。すると六花はしがみ付いている手に更に力を込めて、ようやく口を開いた。
「お二人は、春お兄ちゃんの生徒会の人……何ですよね?」
「ええ。そういえば、六花ちゃんにはまだ自己紹介してませんでしたね」
そう言うと水原は姿勢を正して「改めて」と切り出す。
「水原楓といいます。生徒会の庶務をやってます。よろしくお願いしますね、六花ちゃん」
「……よろしくお願いします」
若干萎縮しながらもちゃんと挨拶を返す六花に、俺は心の中で偉いぞ六花……と思わず褒めた。
そんな俺をよそに、水原は自分の番は終えたとばかりに、「ほら、朱音も」とまだ少し拗ねていた朱音に自己紹介するように促していた。
言われた朱音も流石に気を取り直して六花に向きなおり、先ほどとは打って変わり笑顔で自己紹介を始める。
「……えっと、三枝朱音です。生徒会の副会長をしています。よろしくね、六花ちゃん」
「……はい、よろしくお願いします」
朱音は六花の返事を聞いて、ホッと息を吐いた。
「まぁ実を言うと、二人の事も以前六花には話をしたことがあるんだけどな」
「生徒会の事をですか?」
「ああ、生徒会メンバーがどんな人達なのか、六花も少し興味があったみたいだったから」
「そ、そうだったんですか……。あの、一体どんな風に」
「……朱音、時間」
朱音が何か言いかけたところで、水原が携帯で時間を表示しながら朱音に見せると、彼女は慌てて席を立った。
「やば……。すみません、会長。このお話はまた今度聞かせてください。私達まだ用事があるので、これで失礼します」
「あ、ああ。気を付けてな」
「はい! それでは!」
「失礼します。六花ちゃんも、またね」
「はい、また……」
挨拶もそこそこに、二人は風のようにレストランから去っていった。残された俺達は少しの間ポカンとしていたが、俺はどうにか気を取り直して六花に話しかける。
「……ところで、六花」
「あ、うん。何?」
「二人の事は前に話してあったから、多少は大丈夫だと思ったんだけど。どうだった?」
「……うん。大丈夫。ちょっと怖かったけど、春お兄ちゃんが言ってた通り、優しい人達だったと思う。春お兄ちゃんのこと、本気で心配してたみたいだし」
「そっか。なら良かった」
とりあえずは、六花の中ではそういう人物として認定されたみたいだ。一安心したところで、ふと先ほどの事を思い出した。
「そういえば、水原が若干睨まれてる気がするって言ってたけど、どうしてだ?」
「…………別に睨んだつもりはない、けど」
「けど?」
俺が聞き返すと、六花はそっぽを向いて「内緒」と言ったのだった。
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