第23話:理由・1
少し経ってから俺達もレストランを後にして、買い物を再開した。六花の不機嫌(?)も出る頃には治まっていて、今は買い物を楽しんでいる。
――――六花がうちに来てから何度か買い物は一緒にしているけど、それでも六花にとっては目新しいものばかりなのだろう。何を見る、あるいは触れるにしても楽しめているのが証拠だ。そんな六花を微笑ましく思いながら、先ほどの事を考えていた。
「(朱音達を睨んでいたわけではないにせよ、何か思うところはあった……ってところかな)」
それが何なのかは皆目見当もつかないが……。
あるいは朱音達なら何かわかるのだろうか。六花本人に聞こうにも、さっきと同じようにはぐらかされてしまうだろう。それに、せっかく戻った機嫌をまた損ねたくはない。
「春お兄ちゃん、難しい顔してるよ」
そこまで考えたところで、いつの間にか目の前まで来ていた六花が心配そうに声を掛けてきた。
「え、ああ……何でもないよ。それより、何か良いのは見つけた?」
「う~ん……色々あったけど、今日はいい。春お兄ちゃんは?」
「俺は特に何も。そしたら目的の物買って今日は帰ろうか」
「うん!」
この件は一先ず置いておこう。そう決めた俺は六花と共に買い物を済ませて帰宅した。
――――今日もなんやかんやあったものの、どうにか段ボールの中身を全て片付けた俺達は、リビングで休憩していた。流石に疲れたのか、六花はソファの背もたれに寄りかかっていた。
そんな六花を見て、ふと以前考えていたことを思い出した。
「そうだ。六花、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな」
「お願い? なに?」
「そのうちでいいからさ、亜美ちゃんと千里ちゃんに、二人のお母さんと少しお話しできませんかって言ってたって伝えて欲しいんだ。それかもし二人の携帯の番号知ってるなら電話でもいいんだけど……って、六花?」
最後まで言い終わる直前で、六花の顔が若干不機嫌になった……ような気がする。正直あまり違いが無いから分かりにくいが。
「……あ、うん。えっと、電話ならすぐ出来ると思うし、今掛けてみようか?」
「じゃあお願いするよ」
「わかった。まずは亜美ちゃんに掛けてみるね」
携帯を操作してコールを鳴らす。三回ほど鳴ったところで亜美ちゃんが出てくれたみたいだ。少し話をしてお母さんに変わってもらうことになったらしく、俺も六花に携帯を渡された。
「もしも~し、春君ですか~?」
「はい、お久しぶりです、真奈美さん」
「久しぶりね~、元気だった?」
「ええ、真奈美さんもお変わりないようで」
「ふふ。ええ、毎日元気よ~。それで、何かお話したいことがあるのよね?」
「はい、できれば千雨さんも含めて、直接お話できればと思ってるんですけど……どうでしょうか」
「もちろんいいわよ~。それじゃあ三人でお茶会ね、楽しみだわ~。予定はいつ空いてるかしら?」
意外……でも無いけれど、即効で了承してくれたことに安堵しつつ、頭の中でスケジュールを思い出しながら答える。
「ありがとうございます。予定は来週金曜日以外ならいつでも」
「りょうか~い。それじゃあ先に千雨さんに電話してみるから、一度切るわ~。あ、春君の携帯の番号教えてもらっていいかしら?」
「あ、はい。えっと……」
自分の番号を真奈美さんに伝えた後、お互い電話を切る。そのまま六花に携帯を返すと、六花が聞いてきた。
「春お兄ちゃん、亜美ちゃんのお母さん達と、何のお話をするの?」
「ん、まあその、今後の行事がどういうのか先に聞いておこうかなって。六花達生徒は今後の楽しみってことでいいかもしれないけど、俺達保護者組はそうもいかないことが多いかもって思ってさ」
本命には触れずに、しかし嘘でもない答えに六花はそっか、と納得してくれたようだ。よく見ると、先ほど見えた不機嫌さは微塵も感じなかった。やはり気のせいだったのだろう。
しばらくして真奈美さんから電話が掛かり、話を進めていく。予定を立て終えてお互い電話を切った後、俺は六花にその内容を伝える。
「六花、明日亜美ちゃんの家に行くことになって、良かったら六花と千里ちゃんも呼んで亜美ちゃんと三人で遊ばないかってことになったんだけど。行くか?」
「行く!」
「ノータイムで返事したな……了解、メールで伝えておくよ」
「うん! えへへ、楽しみ~」
手早く真奈美さんに六花も行くことを伝えると、千里ちゃんも来てくれるという内容の返信が来た。六花達にとっては明日は楽しい一日になりそうだ。もちろん俺自身も楽しみではあるが、どちらかというと例の事を聞くのがメインだし、保護者同士での集まりというのは初めてだから、少し緊張する。
「春お兄ちゃん、どうしたの?」
いつの間にか近付いてきて顔を覗き込んでいた六花に驚きながらも、あまり悟られない様に努めて何でもないと答える。
「……あ。お邪魔する身だし、菓子折りとか持って行った方がいいよな…………。今それっぽいものうちに無いし、ちょっと買いに行くかな。六花はどうする?」
「行きたい!」
「はは、了解。じゃあ早速行こうか」
そうしてオレ達は手早く明日の準備を済ませて早めに休み、いよいよ当日を迎えるのだった。
インターホンを鳴らして数秒程経つと、玄関が開いて数週間ぶりにその姿が見えた。
「いらっしゃ~い、春君、六花ちゃん」
「改めてお久しぶりです、真奈美さん」
「こんにちは!」
お互い挨拶をした後すぐに家の中に案内してもらい、リビングに入ると既に千雨さんが勝手知ったるといった様子で寛いでいて、近くでは亜美ちゃんと千里ちゃんが六花を待ち構えていた。
「いらっしゃい、六花ちゃん。は、春さんも、こんにちは」
「こんにちは、春さん! 六花もよく来たわね!」
「こんにちは、亜美ちゃん、千里ちゃん」
「お邪魔します……って、ここは亜美ちゃんのお家でしょ、千里ちゃん」
「細かいことはいいのよ!」となぜか得意げに言う千里ちゃんに呆れながら、楽しそうに会話をする六花達。その様子を傍目で見ながら、俺は千雨さんに挨拶する。
「千雨さんも、お久しぶりです」
「ええ、久しぶり。授業参観以来ね」
「ふふ、挨拶も済んだところで、早速お茶にしましょうか~」
六花達は亜美ちゃんの部屋で遊ぶことになり、リビングに居るのが俺達保護者組だけになったところで、まずはと主婦同士の間ではよくある(?)世間話から入った。普段の家事のこと、買い物先であったこと、本当にありふれた話の内容だったが、そういったことも初めての俺には新鮮な会話だった。……何もかも一人でやらなきゃいけないことの苦労話とかは、嫌に共感できてしまったが。
小一時間程経ったところで、「それで……」と千雨さんがメインとなる話を切り込んできた。
「今日は春君、私達に聞きたいことがあるって聞いたのだけれど、そろそろ聞かせてもらってもいい?」
「はい。……いくつかあるのですが、まずは」
そうして俺は、昨日六花に感じた少しの違和感のようなものが何なのか、経緯を一通り話してから聞いてみた。
「少し不機嫌に……なるほどね~」
「……ふふっ。なるほど、そういうことね」
「え、あの。お二人とも、分かったんですか?」
何が何やらさっぱりな俺に対して、二人はすぐに理解したといった様子でクスリと笑った。
「春君って、案外鈍いところもあるのね。ちょっと意外だわ」
「ふふ、でもそっちのほうが可愛らしくて私は好きよ~」
「……えっと」
未だ分かっていない俺に、真奈美さんはコホンと咳ばらいをし、少し姿勢を正してこう言った。
「春君、六花ちゃんが不機嫌に見えたのは、きっと見間違いじゃないわ」
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