第5話 昼時のレストラン
予約していたレストランに入ると、テラス席に案内された。
テラス席は川沿いにあって、そこからひんやりとした風が頬を撫でる。初夏の厚さを和らげるにはちょうどよくて、とても心地よい。
「うわぁ……すごい‼」
このレストランで食事をすることを楽しみにしていた三浦さんは、どうもこの風景が見たかったらしく、忙しなくシャッター音が聞こえてくる。
「――ねぇ綾瀬くん。そっちからこの角度で写真撮ってよ!」
「えっ⁉ 僕が……?」
「そうそう。そっちの方向からだとこのかわいい植木鉢も入るし、奥のビル群がいい感じの背景になると思うの! ほらっ、早くっ!」
三浦さんはさっきここまで来るまでのきつい口調は鳴りを潜め、今は明るい表情をこれでもかというくらいに見せている。
携帯を握る手が少し湿ってくるけど、ジーンズで軽くこすって携帯を持ち直す。
「は、はいチーズ――」
「どう? いい感じに撮れた?」
「うん、とってもきれいだよ」
「き、きれ……⁉」
「ん? どうかした?」
「な、なんでもないわよ! それより、料理まだかしら……」
「たしかにちょっと遅いかもね。でもさ、休日のお昼時だし、店員さんもきっと急いで作ってくれているんだと思うな。だからさ、もう少し気長に待ってあげようよ」
「……そ、そうね」
「ん……?」
三浦さんの顔が赤くなったように見えたんだけど……たぶん僕の気のせいかな。
「――大変お待たせ致しました。ランチお二つでございます」
額に汗を浮かべた店員さんが小走りで料理を運んできた。
「とんでもないです。ありがとうございます」
僕は店員さんからプレートを受け取る。
「はい。三浦さんの分」
「あっ……ありがと」
僕はてっきり自分の目の前に運ばれてきた料理に興奮して写真を撮ると思っていたのに。もしかして不満だったとか……? 写真と実物が違い過ぎてがっかりしたとか……?
僕は不安になって声を掛けようとすると、三浦さんの方から僕に話しかけてきた。
「あ、綾瀬くんって優しいんだね」
「えっ?」
「ほら、さっき料理が遅くなったのに、文句を言うどころか、労いの言葉を掛けてたから」
「そ、それは……。だって僕たちのために一生懸命に作ってくれてるのに、文句なんて言えないよ。むしろ感謝しないと」
「そ、そうなんだ……」
三浦さんは「そっか」とつぶやくと、僕の方をじっと見つめて止まってしまった。
「み、三浦さん……?」
「――っ⁉ こ、これは……何でもないからっ‼」
今度ははっきりと分かるくらいに顔を真っ赤にして、ランチに手を付け始めてしまった。
でも、少ししてすぐに三浦さんの動きが止まる。そして携帯を取り出すと、食べかけのランチに携帯を向けようとして断念。「はぁ」と深いため息をついてしまった。
「――あ、あの……僕まだ手を付けてないから、もしよかったらこれ使ってよ」
僕が自分のランチプレートを差し出すと、僕とランチプレートとに視線を行き来させる。そして最後はカメラをパシャリ。
ランチを写真に収めることができた三浦さんはとてもご満悦のようで、ニコニコとしながら「ありがとう」と僕に言った。
その表情に僕の心臓が今までになくドキリと跳ね上がる。
突然のことでびっくりするけど、それを三浦さんに見られまいと、必死に隠しながら、僕もランチプレートに手を伸ばし始めた。
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