第3話 アドバイス片手に

 私の名前は三浦七海。華の女子高校生。

 自分で言うのもあれかもしれないけど、結構顔は可愛い方だと思ってる。


 周りからはよく「恋愛経験豊富そう」なんて言われるけど、実はそんなことはなくて、付き合ったことすらない。

 それを言うといつも驚かれるけど……。

 

 友達が言うには、「七海は性格が強い」らしい。

 それに心当たりがないかと言われると、そうでもない。


 私は昔から感情をうまく表情に出せないのだ。嬉しいときも、悲しいときも。心の中にしっかりと感じることはあるけど、それをうまく言葉にすることができない。

 それを人はコミュ障と言うかもしれないけど、そういうものではない……と信じたい。

 どちらかと言えば、自分の気持ちを知られるのが恥ずかしくて、それを隠すように強く当たってしまうのだとーー


 「――ちょっと七海」


 「わあっ!」


 私がぼーっと窓から見える夕日を眺めていると、突然横から名前を呼ばれる。びっくりし過ぎて椅子から落ちそうになってしまった。


 放課後の教室には奥の方に男子が二人いるだけでガランとしているから、妙に声が響いてしまう。


 私が視線をキリッと向けると、そこに立っていたのは――松田杏奈、私の友達だった。


 「な、何よ杏奈! いきなり話しかけないでよ!」


 「でも実は声かけられて嬉しいとか?」


 「そ、そんなことあるわけないじゃん」


 「はいはい、ツンデレ乙〜」


 「はっ⁉ ツ、ツン……⁉」


 杏奈はニコニコしながら私を軽くあしらってしまう。

 ツンデレって何よツンデレって。私はそんなんじゃないんだからっ!


 「――そういえば七海」


 「な、何?」


 「私……彼氏できたんだよね……大学生の」


 「へぇ、また杏奈に彼氏――って、はっ⁉」


 何を言い出すのかと思ったら、またか。

 杏奈はその明るい髪色と人当たりの良さから、いままで数多くの男子との恋愛模様が繰り広げられていた。

 それでも長続きはしなくて、その度にまた新しい男子を捕まえ――じゃない、付き合っている。


 だから今回も「へぇ、そんなんだ」って流そうとしたんだけど、語尾にだいぶヤバそうな単語を耳にした気がする。


 「えっ……ど、どうやって?」


 「七海……気になる?」


 ごくり、と息を呑む音が聞こえてしまったのか、杏奈はニヤリと微笑むと、携帯を操作して私に見せてくる。


 「七海もやってみたら? マッチングアプリ」


 「マ、マッチングアプリ⁉︎」


 「何よその反応……もしかしてもう好きな人がいるとか?」


 「……べ、別に。そんなんじゃないし……」


 気になる男子はいないわけではないんだけど……。

 その人は誰にでも優しくて、あのときだって誰も見向きもしないのに、一人だけ駆け寄って助けて――って、べ、別に好きとかじゃないんだからっ!


 そもそも、私から告白なんて絶対イヤ。全然ロマンチックじゃないから。いつか私の前にも白馬の王子様が現れて――


 「――七海、今なんか変なこと考えてなかった?」


 「か、考えてなんてなかったから!」


 「はいはい。……それで? 好きなやついないならこれやってみなよ! 本当にすぐ見つかるからさ」


 「そ、そういうものなの……? なんか怪しい……」


 「実際にこれで彼氏ができた人の前で言うことですかね……?」


 「た、たしかに……」


 「はい、じゃあ決定! ほら七海、携帯貸して!」


 返事をする前に杏奈は私から携帯をひったくったと思ったら、指を忙しなく動かし始めた。


 「――はい、これで七海も彼氏ゲットしちゃいなよ!」


 「は、はぁ……」


 こんなもので本当に彼氏なんてできるのか。このときの私は疑心暗鬼だった。


 ――その夜。

 私がふと携帯を覗くと、驚いたことに数件のマッチングが成功していた。慌ててそれを確認する。


 ――マッチしたらとりあえずメッセージを送りまくれ。


 杏奈からの色々なアドバイスを思い出し、その通りにメッセージを返していく。

 その中で一人、気になる人を見つけた。名前は「たくみ」とあった。


 へぇ、同い年なんだ。こういうアプリって大学生とか社会人とか大人がやっているイメージだったから、ちょっと意外。


 [初めまして。ななみです。よろしく]


 [初めまして。たくみです。こちらこそよろしくお願いします]


 [ねぇ、たくみくんってどこに住んでるの?]


 [○○県ですよ。ななみさんは?]


 [私も○○県。同じだね]


 [そうですね]


 もしかしたら、たくみくんは少し気が弱いのかもしれない。それが文面を見たときにの彼の第一印象だった。

 でも、実を言うと、私はガツガツくるよりもちょっと控えめな人の方がタイプだったりする。だから余計に気になってしまった。


 [たくみくん。土日っていつも何してるの?]


 [僕は基本的には家にいますよ。部活は文化部であんまり活動してませんから]


 [へぇ、そうなんだ]


 たぶん、たくみくんのこれは私からのメッセージ待ちなんじゃないかと思う。こういう人って自分から話題広げるの苦手そうだから。


 ――会話に詰まりそうになったら自分から攻めろ。


 杏奈の言葉を思い出し、思い切ってメッセージを打ち込む。


 [なら、今度の土曜日にご飯でもどう?]


 [僕は空いてますけど]


 [じゃあ13時に中央駅前の噴水前でいいかしら?]


 遠出するつもりはなかったし、彼も同じ県住まいなら来れるでしょ、きっと。


 [中央駅ですか?]


 [そこじゃだめ? 家から遠いとか?]


 [いえ、そうじゃなくて。中央駅に13時ですね。わかりました] 


 [ありがとう。楽しみにしてるわ]


 [はい、僕もです!]


 そこでやりとりが途切れる。

 へぇ、こんなに簡単にデートの約束ができちゃうのか……。


 で、でも……。これって会うまで相手の顔がわからないわけでしょ? 

 今になって緊張してきゃった。変な犯罪とかに巻き込まれたりしないよね……?


 初めてのデートに胸が高鳴る一方で、少し恐怖も混じっている。

 そんな複雑な気持ちを感じながらその日は眠りについた。

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