第2話 されるがままに

 僕の名前は綾瀬拓海。とりわけ傑出した才能があるわけでもなく、勉強だって運動だって中の中。まさに、どこにでもいるごく普通の高校生。


 「おーい、拓海! ちょっといいか?」


 放課後、荷物をまとめて帰ろうとしていた僕を呼ぶ声がした。

 振り向くと、そこには朝日隆太郎――僕の友達が立っていた。


 「隆ちゃん? どうしたの?」


 隆ちゃんとは小学校の頃からの同級生で、昔は僕と同じようにインドア派だった。 だけど、中学で運動部に入ったのをきっかけに、どんどん活発になっていった。

 そして今ではいわゆる「陽キャ」みたいな風貌にまで変わってしまった。

 だからといって僕とは疎遠はならずに、今でもこうして話すことができている。


 「なぁ、拓海。お前彼女欲しくないか?」


 「えぇっ⁉」


 隆ちゃんの言葉にびっくり仰天して、思わず大きな声を出してしまった。

 周りには女子が数人残っているだけだったけど、自分のみっともない姿を見られてしまったのはすごく恥ずかしい。


 「それで……どうなんだ? 欲しいのか? 欲しいだろ? 彼女いたことないんだろ?」


 「そ、それは……」


 隆ちゃんの言う通り、僕には今まで彼女がいたことはない。なにせ、イケメンでもないし話すことが得意でもない。クラスでも大人しめで文化部所属。モテる要素が一つも思い浮かばない。

 それでも……。


 「ほ、欲しいっていったら……?」


 「じゃあ、このアプリ入れてみ?」


 「えっ?」


 隆ちゃんは僕が返事をする前に携帯を奪うと、素早く操作を始めてしまう。


 「――これでよし。完璧だな」


 僕は返してもらった携帯の画面を見て、きっと顔面蒼白になったいたことだろう。

 なぜなら、そこに映し出されていたのは、最近動画サイトとかの広告で頻繁に目にするようになったマッチングアプリのそれだったからだ。


 「ちょ、ちょっと隆ちゃん!」


 「ん? どうした?」


 「『どうした?』じゃないよ‼ どうしてくれるのさ! 僕こんなのできないよ!」


 必死の抵抗も、隆ちゃんにはあんまり届いてないようで、頭上に疑問符を浮かべている。


 「彼女ほしいんだろ? だったらこれが一番手っ取り早いって。嘘みたいにすぐマッチするんだってよ。拓海も早くプロフ作っちゃえよ!」


 「えっ、えっ⁉」


 何が何だか分からない。

 分からないんだけど、今は完全に隆ちゃんのペースになってしまって、僕は言われるがままにプロフィールやら色々の設定をされてしまった。


 「――できた。これで今夜にもメッセージが届くかもな」


 してやったりの表情で楽しそうに僕を見つめる隆ちゃんとは対照的に、僕は全身からすうっと血の気が引いていく感じがして、携帯を握る手に力が入らなくなっていた。

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