マッチングアプリで初めてマッチした相手がクラスメイトだった

東山 はる

第1話 変化は突然やってくる

 普段は鳴らない携帯が、今夜はやけにうるさい。

 メッセージなんて僕の友達からしか来ないから、無視をしていてもどうということはない。返信が遅れても、「ごめんごめん」と言えば大抵の人は許してくれる。


 でも、今夜の通知はいつもみたいに無視することはできないんだ。

 僕は数分おきにブルブルと振動する携帯を開く。


 [初めまして!] 


 [こんばんは!]


 こういったメッセージが僕の携帯の画面いっぱいに表示されている。

 僕はその一つ一つに同じような文面で返信をしていくが、数秒おいてまた携帯が震える。

 みんな携帯の画面とにらめっこでもしているのかと思うくらいに一瞬で返信が返ってくる。

 僕はもしかしたらそんな人たちと会話をしているのだろうか。そう思うと携帯を握る手が微かに震える。


 その後も、何人からも返信が来たけど、それに全てコピーペーストのように返していく。本当はこんなことしたいなんて思っていなかったのに。

 僕にメッセージを送ってくる人は、みんな探り探り来ているのだろうか。好きな食べ物だとか、趣味だとか、そんなありふれた質問ばかりしてくる。

 お互いに顔が見えないこの状況で踏み入った質問をする人の方が少ないのかもしれない。


 ――ただ一人を除いて。

 その人は「ななみ」といった。年齢は僕と同じ17歳。


 [初めまして。ななみです。よろしく]


 [初めまして。たくみです。こちらこそよろしくお願いします]


 [ねぇ。たくみくんってどこに住んでるの?]


 [○○県ですよ。ななみさんは?]


 [私も○○県。同じね]


 [そうですね]


 文面から見るに、ななみさんは少し気が強いのかもしれない。ちょっと怖い、というのが第一印象だった。


 [たくみくん。土日っていつも何してるの?]


 [僕は基本的には家にいますよ。部活は文化部であんまり活動してませんから]


 [へぇ、そうなんだ]


 僕はてっきり「文化部って具体的に何部?」なんて聞かれると思っていたけど、ななみさんからの返信は、予想のさらにその上をいくものだった。


 [なら、今度の土曜日にご飯でもどう?]


 ――えっ⁉

 僕は携帯を握ったまま硬直してしまった。


 ご飯を食べに行く⁉ 嘘でしょ……⁉

 それってデートってことだよね……?


 手だけじゃなくて今度は身体全身がガタガタと音を立てて揺れ始める。


 [僕は空いてますけど]


 [じゃあ13時に中央駅前の噴水前でいいかしら?]


 [中央駅ですか?]


 [家から遠いとか?]


 [いえ、そうじゃなくて。中央駅に13時ですね。わかりました] 


 [ありがとう。楽しみにしてるわ]


 [はい、僕もです!]


 それから返信がなくなったことを確認した僕は、携帯をベッドに放り投げてから大きく伸びをする。


 デートってこんなに簡単に決まっちゃうものなのだろうか。

 彼女がいたこともない僕にはまったくの未知の領域だったから、たった数分のやりとりでものすごく疲れてしまった。


 それにしても、どうしてこんなことになってしまったのか。

 それは今から数時間前まで遡る――。


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