彼女は疑う①
依頼の単身受託を開始して以来、師匠の討伐依頼に同行を求められたのは初めてだった。
厄介な幻覚の異能を持つ鬼をはじめ処理は複数体、依頼元への報告も滞りはない。連携がないと手こずる個体ではあったが、連れてこられた意図には疑問が残っていた。
いつもより上等な宿屋に滞在した甲斐あり、寝台がふかふかである。
柔らかな寝台に腰掛けて控えめに跳ねる最中、声も掛けず入室してきた師匠と目が合った。師匠は私の戯れを速やかに察すると笑い転げてしばらく戻ってこなかった。
「お前の不器用じゃ利き腕に包帯巻けないでしょ」と、訪問目的は比較的まともだ。
「君、最近なにか心境の変化とかあったの」
荷をほどき医療器具一式を取り出していると、唐突に問われた。
生返事で振り向きかけると、頭を掴まれ首をごきりと戻される。作業に集中しろと。
「嫌がらせみたいな
「油断も隙も良心だろうが利用します。相手に一番効果的な場面、取るべき
「勧めた僕が引くぐらい極めてんだよお前。分かれ。ほんっとサクが一番嫌がる人種……まあ、修繕費かかりづらくなったならマシなんじゃない? って程度の話。君の心配とか、無駄な怪我が増えなくて安心とか、そういうのは無いから」
座れ、上を脱げと指示される。応急処置に恥など無い。
黒い仕事着を脱ぎ、体型偽装と防具に巻いた腹のさらしと、膨らみもないのに無意味に巻かれた胸部のさらしをほどいて畳む。
虐待で受けた傷はおろか、以降に負った傷すべて痕も残らずつるりとしている。
自分の目からは腹と腕しか見えないが、師匠が気味悪がる辺り背中も同様なのだろう。
「琥珀、昔っから治りの早さ異常だよね。無角性の鬼化変異起こしてたりする?」
「興味深い仮説ですね。腕落としてみましょうか」
「やれっつったらやる奴に冗談言うほどイカれてないから刀を仕舞え」
刀を離さずいると、痺れを切らした師匠に頭をはたかれた。協力的なのに諌められるのが釈然としない。――だって私も疑っているのだ。自分が鬼ではないのかと。
鬼を見分けるのは角の有無と異形の身体、
便利だから恩恵にあずかっているだけで、この身の自己治癒力や薬毒耐性が異常であることは分かっている。いちど腕を切り落としてくっつけて、勝手に繋がるくらいの回復を示せば鬼だろう。答えを出せるならそれでも構わなかった。
前触れなく理性を失って誰かを傷付けるより遥かにましだ。
「右腕。今から治療しようって腕、率先して落とそうとしないでくれない」
「ああ、はい。ありがとうございます」
傷はすぐ洗ったし軽い裂傷で済んだ。縫合も不要だろう。師匠の指摘通りなのが癪だが、利き腕の包帯が巻けないだけだ。
「鬼だろうと何だろうと、君ごときに殺られるような僕じゃないから安心しなよ」
利き腕欠損の
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