ワンドロ企画「生体武器」及びとある世界の生体兵器に関する軌跡

生体武器。

Organic Weapon、Bionic Weapon、もしくはLiving Weaponとも呼ばれるそれは

生体工学とサイバネティクスの融合ともいうべきものである。


まず、どのような経緯で産み出されたのか。

サイバネティクスの進歩は、単純な機械兵士からサイボーグ兵士を産み出すに至った。

勿論その前には義肢や人工臓器、電脳技術の発展もあった。

人間は人間を安易にアップデートしたり、拡張することで物理的で不自然的な進化をもたらす事に成功したのだ。

その時に考案されたのが、内蔵武器と呼ばれるサイボーグ用の武装である。

人工筋肉、人工骨格、外骨格の発展によって、人体は脳というソフトウェアを内包する「倉庫」として運用が可能となった。不要な臓器や脆弱な臓器は人工部品に取り換えることで、ダウンサイジング化と高性能化を同時に達成した。

つまり、内部にペイロードを設ける事が出来たのだ。

そこに何らかの武器を内蔵することが出来れば、サイボーグはフィクションのサイボーグ兵士やロボット兵士のように歩く武器庫として活動できる。

それは、外部に武器を持たずとも文字通り裸一貫での戦闘をも可能とすることを意味する。

勿論さっそく実行され、手始めに腕部に内蔵する武器が産み出された。

例えば、マンティスブレードという内蔵式の大型ブレードが登場した。

その次はアームキャノンと単純明快な名前を持った火砲が。

腕ではなく指をレーザー砲台に換装したものもあった、何なら単分子ワイヤーで接続され独自に動くオールレンジ攻撃を可能とするものも開発された。

腕用の武装が開発されたなら、次は足である。

脛を小型ミサイルの発射装置に改造したもの、脚部にリストならぬレッグブレードを内蔵したもの、脚部にパイルバンカーを搭載したものが相次いで開発された。

胴体なら腹部に臼砲に近い電磁加速砲レールキャノンを内蔵できるようになったら、腎臓の代わりにマイクロミサイルランチャーを内蔵できるようになり、非常に燃費が悪いが、腹部にレーザーキャノンを搭載できるようになった。


こうして四肢と胴体に応じた様々な内蔵兵器が産み出され、遂にはサイボーグの登場以前のパワードスーツに端を発する「人体の火力プラットフォーム化」に立ち直った人体と神経接続する、大型の武装を装備、否。

が産み出されるようになった。


しかしながら、ここで様々な問題が浮上する。

まず、人間の脳が拡張され続ける肉体に対応しきれなくなったこと。

これは突然の凶暴化、メディアではサイバーサイコとも呼ばれた精神疾患を産み出す結果となった。

続いて、単純なコスト肥大化。サイボーグ兵士は躯体(サイボーグ兵士の肉体のことを指す)そのものも高価である。加えて内蔵武器はそれより安いとはいえ軍用、戦闘に耐えうる強度や性能を発揮するなら値段が通常のサイボーグ用兵装よりも高くなってしまう。

普及率が低いのだ、それも全身機械化を果たしているようなサイボーグは当時はかなり珍しく、またサイバネティクスを導入し過ぎた人間もまた謎の精神疾患を引き起こしやすかった。


これに対して生体工学側は単純な解決策を思いつく。

脳が拡張される肉体に対応できなくなるのなら、拡張した肉体を正常な肉体として脳が認識できるようにすればいいのだと。

電脳化ですら、脳が暴走してしまうケースが当時は多かった。

インターネットにおける全能感に精神が耐えられなくなるとも言われているが、正確な所は現在も分かっていない。

とにかく。生体部品を用いた内蔵兵器の開発。

これが生体武器の始まりであった。


生体武器、もとい生体部品の構造は単純だ。

その外見はまさしく肉と骨を機械的に組み上げた生ける機械Living Machineである。非常にグロテスクであり、生理的嫌悪感をどうしても拭うことができなかった。

しかしながら、その嫌悪感は装甲版や強化皮膚で覆う形で解決された。

その冒涜的な物体は、タンパク質ベースのナノマシンによって製造されたの結果である。

ナノマシンに必要な形状の生体部品の設計図をアップロードし、必要な生物物質と養分を与える事でナノマシンは物質と養分を取り込み、生成物として生体部品を構築するのだ。いわば生物の細胞が分裂と命令によって様々な部品を作るのとまったく変わらない。但し出来上がるのは自然が生み出した臓器ではなく、人為が産み出した部品である。

これは、ある種の自己再生機能でもある。戦闘や事故で損傷しても、ナノマシンが死亡した部位と外部から与えられた養分を捕食し、新しく作り直すのだ。

よって、生体部品はナノマシンそのものが何らかの理由で停止しない限りはほぼ永久的に生体部品を保全し続けている。

無論暴走を防ぐためのあらゆる自殺因子が内蔵されたり、アップデートを繰り返すことで不具合が生じる事を防いでいる。

(例えば脳死、もとい脳の致命的な損傷。ナノマシンは脳や神経が発する生体電流で発電と充電を繰り返し、新たに構築した血管から酸素や養分を受け取って活動するのだが、どちらかの供給が一定期間途絶えると自死機能が起動しナノマシンは不活性化する)

コスト面はサイバネティクスもバイオテクノロジーも同じだったが、なによりも生体部品は脳が拒絶しにくいと言う利点があった。

よって、生体部品によって作られた武器が産み出されることになった。

それが、生体武器である。


生体武器と言っても、古いシューティングゲームの生理的嫌悪感を掻き立てるようなグロテスクで肉と兵器が悪夢的な合体をしたものではない。

例えば腕部内蔵式のブレードは、骨の刃を持った筋組織でカマキリの腕を再現したようなものに変わった。腕部そのものを変形させる大型打撃武器は、そっくりそのまま肥大化した筋肉と骨の槌として。

無論、いくら強化された筋組織から繰り出される膂力と言ってもサイボーグや通常兵器のそれと比べると劣ってしまう。そもそも骨の刃は切れ味が悪かった。

そこで考え出されたのが、生物と融合できる金属部品の生成である。

ナノマシンに新しい設計図を導入し、生体と融合できる金属を産み出したのだ。

こうして生まれたのが生体外装リビングアーマーと名付けられた有機金属部品である。

これは医療用の人工関節などにも用いられたものであり、兵器転用したものである。

こうして生体部品は、金属という文明の利器を自らの肉で作り上げることができるようになった。

そして、改めて強靭で金属質のブレードを携えた生体武器が産まれた。

その様子はまさに、古いゲームに登場する生物兵器そのものであった。


やがて、生体武器は生体兵器と名前を変えるようになった。

人体を必要としない、全てが生体部品で構成された自律兵器の研究が始まったのだ。

あるいは、人体を制御パーツとして必要としながらも、手に入らない場合でも自立行動が可能の肉と機械のパワードスーツの研究が。

その様子は極めて冒涜的で、ポップス的に加速した。

相対者に生理的な嫌悪感を沸かせるための、悪趣味な造形の生体兵器が試しに大量に産み出されては廃棄されていき、最終的な形状が決定された。

最後には外見で威圧するのを止め、中身はともかく外見は鋼鉄の蟲か獣、その混合体のようなものへと落ち着いた。

そして同時に産み出されたのは、戦地に投入されてから孵化するように自らを構築することができるようになった生体兵器である。


代わりに浮上した問題は、パイロットが精神的に拒絶するようになった。

特に現地で自らを製造構築するタイプのパイロットは処罰を覚悟ししてでも拒否するレベルであり、結果生体兵器は主を失ってしまうことになった。

勿論生体兵器はパイロットがいなくても自律行動が可能である。

しかし、この当時機械部門は有人機動兵器の研究開発が盛んであったためか、生体工学部門も有人生体機動兵器の研究開発を競うように始め、そして完成させたがパイロットに逃げられていた。

操縦方法は神経接続であり、機動兵器というよりは巨大な肉のパワードスーツのままである。

生理的な拒絶反応を防ぐべく、コックピットに該当する箇所は人間の子宮を元にしており、パイロットは胎内回帰するかのように取り込まれ、生体兵器を動かす。

これが拒絶の元だった。試乗したパイロットたちからは「捕食されるような気分だった」「息苦しさで死ぬかと思った」「気持ちが悪い」「脳が正常に判断してても心が追いつかないし、今でも自分の一部があの化物の一部に見えてくる」と酷評の嵐。

遂にはテストパイロットの希望者が現れなくなったのだった。

仕方なく囚人からパイロットを募るものの、恩赦などと引き換えに乗り込んだ囚人たちは「極刑でも終身刑でもいいからアレに載せるのは勘弁してくれ」と看守に泣きついて懇願する始末であった。

結局被験者テストパイロットを失ってしまった部門は途方に暮れてしまう。


しかし、ある時思いついてしまったのだ。

テストパイロット、パイロットが現れないのなら。

と。

こうして生まれたのが、人造人間の少女たち。

彼女達は「雛鳥」と呼ばれている。何故少女なのかは分からないが、一説には生体工学部門の人間の娘が病死し、そしてパイロット不足で研究が行き詰ったのも相重なり精神を病んだ人間の独断とも言われているが、その辺りは不明である。

だが問題ない。生体兵器は失った主を再び得て。

雛鳥たちは自分達の母体を得るのだから。


雛鳥と名付けられた少女たちは、非常に脆弱な生き物だ。

何分生体兵器の制御パーツとして産み出されただけあり、その肉体の強度は全く考慮されていなかったのだ。

見た目は最長18歳、最低7歳の少女たちだが、生物的にはまだまだ未熟児だった。

その臓器は臍帯やチューブなしでは栄養の吸収が出来ないし、身体を包む皮膚も外気や戦地の過酷な環境には到底耐えられるものではなかった。

従って彼女達は巨大な生体槽の中で活動している。

何なら現地誕生型は生体兵器のの中で胚か胎児の状態で格納され、現地で構築されるにしたがって急速に成長して活動する雛鳥も存在する。

そして時が来ると、人工の子宮から取り出されて人造の肉の子宮の中に入れられて生体兵器のパイロットとして活動するのだ。作戦を完了するまで、あるいは死ぬまで。

公開当時は様々な方面から非難の声が相次いだが、部門はその全てを聞く耳持たずといった態度で受け流し、売り出したのだった。


一つ目の、四脚で疾駆する、白い骨のような外装を持った、大砲を背負った装甲車サイズの金属蟲。

戦場を疾走っているそれを的確に説明すると、そうなる。

これは猟犬型ハウンドドッグと命名された基本的な生体兵器である。

最も多く製造されている生体兵器で、脚に比べて貧弱そうな両腕と背中、外殻に武装を搭載することができる。

武装を生体金属で構築することは可能だが、最終的に猟犬型はこの形式で落ち着いた。一説には兵器製造を担う重工業への彼らなりの忖度とも言われる。

表向きにはコストカットの結果とされる。

その内部、生体筋肉と生体金属が折り重なった肉の装甲の奥。

ピンク、またはサーモンピンクの肉に取り込まれるようにして臍帯と兵器が繋がった、パイロットスーツのようなものを着た少女がまるで胎児のように体を丸めながら猟犬を操縦していた。操縦というより、拡張された自分の一部として操っている。

その顔を儚さを持った銀髪を辛うじて肉の空間に露出させ、後は肉と融合したVRバイザーが覆っている。彼女達はこうして生体兵器を第三者視点で見たり、一人称で戦場を視るのだ。

生体兵器に視点を戻すと、その装甲は称賛するなら見事な白磁の装甲のようである。

飛蝗のようで虎か豹のような、しかし人間のようにも見える、凡そ生物であろう脚が力強く地面を踏みしめ、その不自然的な肉体を大いに翔らせている。

その振動を少女たちは拡張された猟犬の肉体と、胎児に伝わる母体の胎動の両方で感じる。前者は槽の中では決して味わえない感覚を、後者は胎生であれば記憶に残らない筈の鼓動として。


森を抜けると、同じ猟犬が次々と同じように戦地へと駆け抜けていく。

合流すると現用戦車でも採用されているデータリンクを用いて互いを繋ぎ、連携行動ができるようになる。

あとは機械が、生体部品が彼女達に代わって行う。彼女に必要なのはそれが本当に正しいのか、そしてトリガーを引くことだ。

一方、猟犬たちが脇を抜けていくのは巨大な臼砲を現代式にリメイクしたような巨大な大砲だ。

これは迫撃砲ならぬ強襲砲。これを用いて現地誕生型を射出、戦地に投下するのだ。

現に、何発目かの生体兵器が装填されようとしている。

巨大なメダカの卵。だが中身はエイリアン。そう例えるしかないようなやはり生物的に冒涜的な物体が砲身へと装填される。まず物体、ここでは卵または胚と書いてポッドと読むそれは発射と着弾の衝撃に耐えるための外殻を砲身内部で形成する。

因みに、この時には既に雛鳥は胎児に近い形で生体兵器にしている。

装填されると、卵は非常に原始的で、しかしながら堅実な火薬式で轟音と共に発射され、戦地へと送られる。

猟犬型が疾駆し、敵のパワードスーツ兵や戦車を食い荒らすように主砲と腕部の機関砲で打ち倒していく中、不運にも敵の装甲車を押し潰して卵が着弾する。

その衝撃は外殻を破壊するが、内部の卵と雛鳥を防護する。

そうして戦地に到着した卵は急速に成長していく。

その姿は、猟犬型に力強い獣の四肢を与えたようなものだった。

その一方で雛鳥は胎児から少女へと成長し、臍帯で繋がったまま生体兵器、単眼獣サイクロプス型のパイロットとして活動を開始するのだ。

単眼獣型は強力な四肢を持って敵兵器を粉砕し、敵兵士を蹴散らす。同時に投下される武装コンテナから射撃兵器を装備したり搭載することもできる。


猟犬、単眼獣、その他の生体兵器の中の雛鳥たちは明確な思考を持たない。


だが、彼女達はとても安心していて、幸せだった。

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