太陽と月の狭間で愛を知る

川瀬 鮎

皆既月食

「娘さえ、手に入れば……!」


毒が回り目がかすむ。あちこち切りつけられた身体は、右腕がどこにあるかもはっきりしない。感覚の残る左腕には痺れを感じているが、落とさぬよう離れぬよう抱えなおす。


たどり着いた部屋の扉を閉めるが、塞ぐには気力も体力も魔力も限界だった。扉の向こうから何人もの足音が近づいてくる。


震える足を引きずりながら男は部屋の奥を目指す。


「あれに触れることさえできれば……」


背後の扉が勢いよく開き、剣を手にした男たちが怒声をあげながら近づいてくる。


赤い月が映し出されているのを確認して男は振り返り、不敵に笑った。全身血に塗れ、片目は潰れ、右腕はなくなっていたが、笑い続けている。


男の死が間近なことは明らかだったが、気を抜くものは一人としていなかった。それほどにこの男は邪悪だった。


「こちらへ!」

一人の男が扉の外に向かって叫んだ。


まだ幼さが残る若い男が入ってきた。男へまっすぐ進んでくる。


「……死んだか」


若い男は鏡の前で立ったまま絶命している男を見下ろしため息を一つこぼした。


妖しく赤を纏っていた月は、いつの間にか普段どおりの姿に戻って青白い光を放っている。


若い男はいくつかの指示を残し、その場を離れた。

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