ツウィートしただけなのに⑥
背中に感じる固く冷たい感触。 ぼんやりとする頭では上手く考えを練ることができない。 そのような状態の中、どこか聞き覚えのある声で由佳は目を覚ました。
「由佳! 由佳! 起きてってば!」
「ん・・・」
重たい瞼を持ち上げると目の前には律奈がいた。 だが何故彼女がいるのか全く分からない。 “一緒に遊んでいたっけ?” そのような呑気な考えは律奈の切迫した様子で掻き消えた。
「律奈!?」
「しーッ。 大きな声は出さないで」
「ご、ごめん・・・。 そうだ、律奈から電話があって・・・! よかった、律奈が無事で!」
「全然無事じゃないよ! 今の状況分かってる!? 私たち、捕まっているんだよ?」
よく見ると知らない部屋にいる。 全く見覚えのないそこで、律奈は後ろ手に縛られていた。
「嘘!? ここはどこ・・・? 一体誰に・・・」
「知らない男たちに! 場所は分からないけど、その中の一人から、私の情報は全て由佳から聞いたって言われたよ・・・」
「・・・え?」
「私の居場所、誰か知らない人に教えたの?」
「そんなわけないでしょ! 律奈の個人情報を見知らぬ人に教えるなんて、そんな・・・」
身に覚えのない話だった。 律奈は親友で色々なことを知っているが、それを他人に言ったりはしない。 だが偶然二人が攫われたはずがなく、情報が漏れたことは確実だろう。
―――でも一体どうして?
―――どうして分かったの?
視線を彷徨わせていると一人の少年と目が合った。 どうやらこの部屋には三人いるらしい。
「あれ、その服、写メでもらったセナの服・・・」
「うん、僕だよ」
「その声! もしかして本物のセナなの!?」
「本物? そうだけど、僕の偽物でもいたの?」
先程待ち合わせに来た男とはまるで違う、だが電話で話していたイメージのセナでもない。 だが先程のことがあり、性別が違ってもあまり驚きがないのは抵抗ができたためだろう。
それより理由は分からないが、由佳の繋がりが男たちにバレていることの方が気になった。
―――まさかこんなところで会うとは思わなかった。
―――セナも律奈と同じように拉致されていたなんて・・・!
―――さっきまでの偽のセナは悪い人だったんだ!
意識を失う直前、聞こえた声はその男のものだった。 だが何かをされたのは別の人間のはず。 明らかに声と方向が合っていなかった。
「いた! というかセナの顔は初めて見たけど、本当に男子だったんだ・・・!」
「あ、うん。 そうだよ」
「可愛い声をしていたから、てっきり僕っ子の女子かと・・・」
セナは性別を明かしていなかったため、それは由佳の単なる勘違いでしかない。
「それは声変わりしていないだけ。 周りはみんな既に声変わりをしているから、いつも僕だけが浮いてからかわれて・・・。 ごめん、ネットだけだとやっぱり分からないよね」
「ううん! 勝手に女子だと思い込んでいた私が悪いから! 性別の確認、ちゃんとすべきだった・・・」
セナと話していると律奈が割って入っていった。
「今は自己紹介をしている場合じゃないと思う。 由佳、彼も男たちにここへ連れてこられたみたいなの。 この状況、どうにかならない?」
とりあえず由佳は二人の縄を解いてあげた。 連れてこられたばかりの由佳は縛る必要がないと判断されたのか、手も足も自由だったのだ。
「どうにかって、どうしたらいいの・・・?」
「この部屋の向こうに、男の人が六人いるの。 私たちのスマホは没収されて今手元にないんだ。 由佳は今持っているよね?」
ポケットに手を当て確認する。 自分も没収されてしまったのかとも思ったが、幸いなことにそこに感触はあった。
「うん、入ってる・・・」
「由佳、ツウィッターをやっているでしょ? そこで助けを呼べないかな?」
「警察は・・・?」
「親には迷惑をかけたくないの。 だから警察には言わないでほしい」
そのようなことを言っている場合ではないと言いたかった。 だが由佳からしてみれば、律奈が攫われたのはおそらく自分が原因だ。
最終的に警察に頼むのかもしれないが、今は彼女の言葉を優先することにした。
―――・・・ツウィッターが荒れているからって、怖気付いちゃいけない。
―――今は二人を守らないと!
意を決してツウィッターを開く。 相変わらず批判するメッセージが絶えない。
「助けを求めるなら、この窓から外の風景を写真で撮って、一緒に載せたらいいよ」
セナが窓の外を見ながら言った。 嵌め込みタイプの窓で逃げることはできないが、外の景色は見ることができる。 どうやらここはマンションの一室であろうことが分かった。
「わ、分かった」
セナの言う通りにし写真付きで投稿する。
“今ここに拉致監禁されているの! お願い、誰か助けて!”
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