ツウィートしただけなのに⑤




親友の普段とは明らかに違う声音に由佳の心臓は大きく跳ねた。 先程まで嘘がバレたのかもしれないと思っていたことが全て吹き飛んだ。 それが演技や嘘ではないことはすぐに分かる。


「律奈!? どうしたの!?」

『ゆ、由佳・・・ッ。 や、止めて・・・ッ! お願い止めて!』

「律奈!」


それ以上何も聞こえてくることはなく、話しかけても反応がない。 そして、そのまま通話が切れていた。


「どうかしたの?」


落ち着いた雰囲気で尋ねてくるセナに慌てて縋り付く。


「友達の律奈が大変なの! お願い、一緒に助けて!」

「その友達は今、どこにいるの?」

「分からない・・・」

「友達は今どんな状態なの?」

「それも分からない・・・。 何がピンチなのかも」


そう言うとセナは大袈裟に溜め息をついてみせた。 確かに何の情報もないが、困っていることは事実だ。 何をすればいいのかは分からないが、何かをせずにはいられなかった。


「それなら助けようにないじゃないか」

「そうかもだけど・・・」

「今、由佳の目の前にいるのは誰?」

「・・・セナ?」

「そう。 だから今の由佳の時間は、僕だけのものだ」

「何、それ・・・」


先程まで優しそうに見えていたセナが今は別人に思えた。 最初は不安だったが、少しずつ楽しくなっていた時間も、砂浜に築き上げられた城のように崩れていく。


「僕との時間なのに、他の友達の予定を優先しては駄目だよ?」

「・・・」


―――誰?

―――こんなことを言うの、私が知っているセナじゃない。

―――セナはとても人思いで優しい子なの。

―――私が友達のことで相談する時も、いつも親身になって話を聞いてくれる。

―――・・・だからこの人は、セナじゃない。


由佳はセナからバッと離れると言い放つ。


「貴方は誰!?」

「セナだよ?」

「嘘を言わないで! 貴方はセナじゃない。 本物のセナをどこへやったの!?」

「知らないね」

「・・・ッ!」


もうそれは自白したようなものだった。 どうやら隠すつもりはないらしい。


―――やっぱりこのセナは偽物だった!


油断している男の急所を狙い蹴り上げた。 男が悶えている隙に走って逃げ出した。 かなり強めに蹴り上げたためすぐには追ってこれないはずだ。 だが今はそれ以上に律奈のことが心配だった。


―――どうしよう、どうしよう!

―――とりあえず、もう一度律奈に連絡!


走りながら電話を繋いでみても繋がることすらなかった。 メッセージを送っても反応がない。 おそらくは電源が切られてしまったのだろう。


―――そんな、どうしよう・・・。

―――セナのことも心配だし・・・。

―――あ、そうだツウィッター!

―――ツウィッターで助けを求めよう!


近くで死角になるところを見つけそこに潜む。 スマートフォンを取り出しツウィッターを開いた。 するとそこで異変に気付く。


「・・・え、何これ!?」


由佳のツウィッタ―が激しく荒れていたのだ。 いわゆる炎上という状態で、コメントの数が今までとは比較にならない程に増えている。 


“ゆーかちゃん、それはないわー”

“その人、目が不自由なんだよ。 杖を拾ってあげて。 ちゃんと謝った?”

“目が見えない人には親切にしないと”


―――え、嘘!?

―――あの大きな男の人は目が見えなかったの・・・!?


由佳はぶつかった相手の視力が不自由なことを知らなかった。 だが今更後悔しても仕方がないため、謝罪の言葉をツウィートする。


“目が不自由な方だとは知りませんでした。 勝手なツウィートをしてしまい本当に申し訳ありません”


投稿すると早速メッセージが届く。 ただ炎上している今、返ってくる言葉が由佳を気遣うはずもなかった。


“いや、謝る相手は俺たちじゃないでしょ” “そう、ですよね・・・。 ごめんなさい・・・”

“その人にちゃんと謝って、助けてあげた?” “いえ、もう通り過ぎちゃいました・・・。 次からは気を付けます”


終わることのない批判。 確かに自分が悪かったのは理解しているが、今はそれどころではないという気持ちが強い。 だが今の状況で律奈のことをツウィートしても味方してくれる人はいそうになかった。


「・・・はぁ、どうしよう」


不安になると自然と冬真のことが頭に浮かんだ。


―――そうだ、冬真さんからは・・・?

―――・・・何も来ていない。

―――どうしよう、律奈もセナも助けないといけなのにどうしたら・・・?

―――もういっそ、警察にでも行く?


そう考えていると後ろから声がかかる。 


「由佳。 やっと見つけたよ」

「ッ!」


ツウィッターに夢中になり過ぎていて足音に全く気付いていなかった。 声に反応し振り返ろうとした瞬間、由佳は何かをされ気を失った。



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