最終話 稲妻
「お前……なんでそんなに髪を切って」
「別に?いいでしょう。私の好きにして」
この時、後3分で始まると言うアナウンスが流れた。
「誰と来たの?響君と?」
「……俺はお前に言いたいことがあって来た」
「寒いでしょ?半袖じゃ」
じっと彼女を見つめる雷人だったが、2人にアナウンスが流れた。
『当ホテルにお越しのお客様。今年もあのイルミネーションが始まります!今年のテーマは「冬の稲妻」。皆様の心に響く美しい夜の庭を演出します。あと2分前です。お客様は庭をご覧ください……』
しかし雷人はアナウンスも周囲の人も無視して話し出した。
「俺はお前に3つ言いたい事がある!聞け」
「何を言い出すの?」
高原の冷たい風の中、2人は髪をなびかせて向かい合っていた。
『……素敵な出会いまで、後1分少々です。今年の光は昨年の倍になっています』
雷人は構わず叫び出した。
「一つ!光は優しいっ!何でもできる!だから好・き・だーー」
「は?」
ここで周囲の人はイルミネーションの点灯よりも、雷人の愛の叫びに注目していた。
『……30秒前です!ご注目ください』
「二つ!頭が良くて、美人で綺麗ー!だから、好・き・だー!」
「ちょっとやめてよ?あの」
すると光の背後にいた点灯式をするカップルが、ガンバレ!と光に声援を送った。
「はあ、はあ、はあ」
「雷人さん……」
肩で息する雷人を、光はじっと見ていた。
『……30秒!みなさん、心の準備はいいですか?』
周囲の人は2人のドラマに釘付けになっていた。
「最後だ。光!俺と結婚してくれ」
「……でも。私は」
彼はじっと彼女を見つめていた。
光の目から涙が出て来ていた。
「生意気で、気が強い女なんでしょ……」
「ああ」
「偉そうで、威張ってるんでしょう……」
そんな涙声の光に彼は首を横に振った。
ゆっくり彼女に近づき、両腕を掴んだ。
月と星と、そして庭にいた全員が2人を見ていた。
「俺はそんな事は言った事ねえぞ?あのな」
『15!14!13……』
「俺はお前しかいないんだ。知ってるだろう?」
「……」
『10・9・8・7……』
光の目から溢れる涙を雷人はそっと拭っていた。
「好きだよ、光……お前の事……」
彼は彼女の腕を取りじっと見つめ合っていた。
『5・4……』
「愛してる、なあ、光」
『3・2……』
「……私も愛して」
ここでバーンと花火が上がった。
夜の空にはイナズマのような光が走っていた。
「雷人さん……」
「まだ……まだだ」
「息が……できない……」
「鼻からしろ、光……好きだよ……」
鮮やかなイルミネーションで彩られた秋の高原の庭では、生まれたての恋人達が熱いキスを交わし周囲を熱くさせたのだった。
こうして長いキスを交わした二人は、拍手に包まれた後、イルミネーション点灯係の新婚さんと握手を済ませた。
そしてちゃんとイルミネーションの点検をした2人は光が借りているウィークリーマンションにやってきた。
「いい部屋だな」
「まあね」
光は予定ではこのままホテルの仕事をするつもりだと話した。
「帰っても仕事ないし」
「なあ。光。帰ってこいよ……」
「ええ?」
雷人はそっと彼女をベッドに押し倒した。
そして腕を立て彼女を見つめた。
「俺さ。もう嫌なんだよ……」
「雷人さん」
「お前と一緒がいい。光……なあ」
「ちょっと?あの、心の準備が」
首にキスしてきた彼に彼女はスットップをかけた。
「待つか?でも……今夜は一緒だけど……」
「わーった。ねえ。雷人さん……」
彼女は彼の首に手を回し、じっと彼を見つめた。
「好きよ……大好き。ずっと好きだったの……」
「もう?お前って……」
こんな彼女に抗えない彼は、このまま彼女を抱きしめていった。
窓の外には白雪が舞い、早い冬が訪れようとしていた。
こうして二人はこのまま朝までベッドで過ごしたのだった。
この翌日。
ホテルの仕事を断った光だったが、もう少し一緒にいたいと言う雷人のわがままで、ホテルの一室に滞在し、甘いリゾートの1日を過ごしたのだった。
こんな二人は光の速さでそれは派手な式を上げた。
こうして光は遠藤家にお嫁に来たのだった。
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