第34話 恋の雷

「すんません!」


「どうしたんですか?」


雷人と食事に来た渡辺はいきなり謝る雷人に面食らっていた。


「すんません!交際を申し込んでおいて勝手なんですか。俺、好きな人ができました……」


「……それって。もしかして、あのお仕事仲間の人ですか?」


「え?」


カミナリ電気で優勝から帰った雷人を出迎えた時、光と話をしたと渡辺は言った。



「とても親切だったし、それに私に、『雷人さんをよろしく』って頭を下げたんですよ彼女」


「マジすか」


この様子に光がとても雷人を思っていると感じていたと渡辺は話した。


「お二人とも雰囲気良かったし。それなのにどうして私と交際してくれるのかずっと気になっていたんですよ」


「すんません。最初はマジでそのつもりだったんですけど」


雷人は正直に話した。本当は話す内容ではないけれど、渡辺は話を聞いてくれた。


「それはそうですね。元奥さんの言う通りですよ。でもまあ、私は訳ありシングルマザーなんで、雷人さんが自分と同じバツイチの人と再婚を考える気持ちもよく分かりますよ」


このフォローに雷人は頭を下げるばかりなので渡辺は笑っていた。


「そんなに謝らないでください?これもご縁ですから」


「渡辺さんはいい人なんで。きっとすぐにいい人が見つかると俺は思います」


こう話した雷人は、このまま帰ると言う渡辺とのコーヒー代を支払って店を出た。


そして自宅に戻った彼は、光の居場所を検索し始めた。




「なにしてんの?」


「探してんの!光のことを。今、電気仲間に聞いているところ」


「……僕知ってるよ。光さんの今いるところ」


「マジかよ?」


「うん。でもさ、お父さん本気なんだよね」


「……ああ」


響は光は自分にとっても大切な人だと話した。



「光さんはね、苗場だよ。そこのプリンセスホテルだよ」


「お前さ。お前も光が好きなのか」


雷人はずっと気になっていた事をやっと口にした。


これは光の事をあきらめようとした1番の理由だった。






「……普通に好きだよ。優しいし、綺麗だし」


「そうか」


「でもさ、僕の事をいつも父さんと間違うんだ」


「ふっふふ。そうか、そうか」


安心した様子の父を見た息子はこの瞬間、自分でも驚くほど気持ちが楽になった。


父の想いと彼女の心を想っていた少年は、やっと初恋を綺麗な思い出にすることができたようで、心がすっと爽やかになった。





「……ま。頑張って」


これにはさすがに雷人も赤面した。こうして彼は翌朝、彼女がいる新潟県に向かったのだった。




「空本さん。昨夜のリハーサルでそっちの方が点灯してなかったみたいです」


「わーってます!おっかしいな……」


ホテルの事務員に指摘された彼女は、庭に出ていた。


標高が高いので秋だと言うのに寒く、彼女はマフラーを首に巻き仕事に臨んでいた。


ホテルの庭に彩られたイルミネーションだったが、所々点かない箇所があり、毎日彼女を苦しめていた。


そんな秋の終わりのリゾート地は、恋人達が多く訪れ、傷心の彼女の傷をえぐっていた。しかしプロである彼女は必死に仕事をしてこれを忘れようとしていた。


そして必死に照明を確認した彼女は、夜の点灯式の庭でスタンバイしていた。



「寒い〜!くそーカップルめ……」


美しいイルミネーションを見ようと、恋人達や家族連れが庭にやって来ていた。この時、点灯式のスイッチを押す明日このホテルで結婚式を挙げる幸せカップルがやって来たので、光は説明をしていた。



「これがボタンです。でも飾りなので向こうの係が押すのでご了承ください。そして司会がカウントダウンをしますので、5・4・321で、ポチッと」


「わかりました。じゃあ、押してもつかないんですね」


「間違うと大変だもん。でも、一緒に押そうね」


「……その時花火が上がるそうのなの」



この2人を冷ややかに見ていた光はまだ時間前だったので、そっと周囲を見渡していた。



「すんません。あの、イルミネーション点灯してないすよ」


「わーってますよ!これから、って……」



背後には薄着の雷人が立っていた。



「何をしてるの?」


「お前……髪切ったのか?」


「……」



久しぶりに会った二人は、目が合ってドキドキしてきた。そんな雷人はびっくりした顔で彼女を見つめていた。




つづく


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