第33話 夜空の星

ボランティアで高校男子バレーボールチームを優勝に導いた雷人は、灯油の配達中に太陽電気に顔を出した。


「お?雷人か。元気か」


「うっす!元気っす。ところで光は?」


「……元気じゃぞ?それよりもお前さんは忙しいんじゃないか」


銀次郎はそう言って趣味のバイクをいじっていた。この彼に雷人は光の事をもう少し尋ねた。


「どうしてそんなに気になるんじゃ?大丈夫さ、いずれ戻ってくるから」


「それはそうですけど」


「なあ、雷人君。光のことはいいから。お前さんは良い人がいるんだろう」


彼女を大切にしろと銀次郎は話した。これ以上この話ができなくなった雷人は、自宅に戻ってきた。


こんな雷人は響のことで元妻に会っていた。





「どうしたの?」


「……なんかさ、おかしいんだよ」


元夫のおかしな様子に再婚を控えた元妻は眉を潜めていた。


「それは元々でしょう。話してよ」


「俺さ……もう一回結婚したくて婚活してたんだ」


ファミレスのテーブルに突っ伏す雷人は、この夏の話をした。それは光との話だった。


「あいつは仕事仲間だけど、気が強い割に根は優しくてさ。いつも俺を助けてくれたんだ。それにお袋とも仲良くて」


「あの義母さんと?」


姑と仲良くできなかった元妻は、雷人の話す女性の話を聞いていた。


「ああ。それで俺が婚活の彼女とうまくいくようにデートとか服とか考えてくれてさ。結構仲良くしてたんだけど。この十日程、連絡取れないんだ」


「そう」


「俺さ。確かに婚活の彼女とうまくいきそうなんだけどさ。このままでいいのかって悩んでいて……」


「雷人はどっちが好きなの?その婚活彼女と仕事の光さんと」


「……光が好きだよ。でもさ。俺、バツイチで子持ちだし。光は若くて美人でさ。俺なんかには勿体無いんだよ」


「はあ。あきれた……」


元妻はここでアルコールを注文した。



「飲ませてもらうね?あのね。そもそも。雷人はどうして結婚したいのよ」


「それは?一人じゃ寂しいし」


「誰でもいいの?自分と結婚してくれるなら」


「そんなわけねえし?!」


元夫の事をよーく知っている彼女は、彼の優しさに似た同情的な感情を指摘した。


「じゃあさ。反対に聞くけど。その光さんが他の男性と結婚してもあんたは平気なの」


「そ、それは」


「あのね。もしかしてその光さんとずっと仕事仲間でいたい!って思っているかもしれないけど、それ無理だから」


雷人が結婚したら光は一緒に電気の仕事をしなくなるだろう、と元嫁はビールを煽った。


「マジで?」


「当たり前でしょう?雷人の奥さんに気を遣ってさ」


「いや?それは考えたことなかった……」


元妻の鋭い指摘に、雷人は目の前が真っ暗になっていった。


「しかもさ。バツイチだから、相手もバツイチとかって、それはあまりにも失礼でしょう」


「……」


「響にしたって。自分がいるせいで雷人が光さんを諦めたんじゃないかって思っているんじゃないの」


「マジで?」


元妻はここでビールのおかわりをした。



「私の時もそうだよね。デキ婚でさ。雷人は私と結婚してくれたんだよね」


「……」


若気の至りで交際間も無く妊娠してしまった彼女を雷人は責任を取って結婚した経緯があった。


「本当は私達、結婚は早かったよね?でも雷人は赤ちゃんのために大学を辞めて私と結婚してくれて、今はそれが優しさだって私は感謝しているんだ」


「……それだけじゃないぞ。お前と一緒で俺も楽しかったし」


「ありがとう。でもさ。お互いさ、本当の幸せを探そうよ」


若く結婚した妻にはやりたことがあり、その思いがどうしても捨てきれず家庭に収まることができず、さらに他に好きな男性ができてしまった。これを雷人は受け入れ、彼女と離婚したのだった。



こんな元妻の助言を胸に彼はカミナリ電気に帰ってきた。



「ただいま。なあ、父さん……」


「なんだ」


雷人は車を売ることにしたので、父の車を貸してくれるか尋ねてきた。


「いいが、どうしたんだ」


「俺さ。車を売ったお金で慰謝料を全額払いたいんだ」


元妻への慰謝料は分割で払っていたが、雷人はこれを精算したいと話した。これを聞いた母は何があったのか聞いてきた。


「……俺さ。光にプロポーズしたいんだ。でも。それは決着つけてからだと思って」


「いいぞ。父さんの車は夜には使わないから」


すると冴子がお金がいくら必要なのか尋ねてきた。



「そうかい。じゃあ、お前は車はそのまま乗ってなさい。お金は私が出すよ」


「「母さん?」」


「いいんだよ」


雷人の嫁に関しては自分も至らず、仲良くできなかった事を後悔していると冴子は涙声で話した。


「今回さ。光ちゃんと一緒にいて気が付いたんだ。私もこんな風に嫁に素直に話してりゃ、もっと仲良くなれたのにって」


「冴子!その話はもういいさ」


「ああ。母さん……いつもすまない」


「まあ、お金はいいから。それよりも今度、母さんのスマホを新しくしておくれ」


「なんの話をしているの」


ここにやってきた響に雷人は決意を新たにした。



「響。いいか。俺はお前の親権を俺にしたいと思っている。ママには今まで通り会えばいいけど、お前はやっぱり俺の息子だし」


「わーった……わかったよ」


「そうか。後は」


雷人は婚活彼女に正直に断りを入れると話した。



「そしてから、光にプロポーズに行く!振られてもいいから俺は行く!」


おお!と驚く輝男と冴子に対し、響もうんとうなづいた。


こんな決意をした秋の夜。


雷人の胸は高鳴っていた。



つづく

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