第27話 夢の中なら

「また練習試合?今度はどこに行くの」

 

「県外。まあ、朝行って夜帰ってくるよ」

 

「大変ね……」

 

雷人が指導を手伝っている男子バレー部は今年は調子が良く優勝候補であったので、なるべく手の内が知られないように同地区の試合では対戦しない遠方のチームと練習していると彼は話した。

 

「だから大変なんだよ」

 

光は仕事とバレーボールのボランティアをしている彼の事を心配して大変だと話したが、まるでわかってないのでこれをスルーした。

 

「ま、いいわ。仕事はこっちでやるから」

 

「済まん!でも、俺達、結構順調に工事しているよな」

 

「まあね」

 

そんな二人は目的地の家にエアコンの取り付け工事を終え、サッサとカミナリ電気に車で戻って来た。

 

「ねえ、それよりも、今度はまたデートなんじゃないの」

 

「その前にカミさんなんだよな……」

 

雷人の元妻が話があると連絡が来ているので雷人は会って話をすると腕を組んだ。

 

「婚活彼女もいるし。あなた本当に忙しいわね」

 

「うるせ!ほっといてくれ」

 

「あ、そ?」

 

この日はちょっと険悪なムードで二人は別れた。雷人の家には息子もおらず、この夜の彼は地域の仲間のバレーの練習にやってきた。

 

「うっす!」

 

「あ。雷人。あのね。いい人がいるんだよ〜」

 

バレー仲間のおばさんは、バツイチの彼を承知で女性を紹介したいと話した。

 

「ね?彼女が欲しいって言っていたでしょう?」

 

「なんで急にこんなことになるんだよ……?」


「??」

 

今まで全くモテなかった彼がここ最近になって話が増えているので、自分でもなぜなのか雷人にはわからなかった。

 

この夜練習を終えた彼は、車を自宅に置き、近くの居酒屋で仲間と飲んでいた。

 


「マジで?雷人って婚活で彼女できたの?」

 

「まだわかんねえし」

 

「くそ。俺なんか一度も結婚してないのに」

 

幼馴染みの山形は悔しそうにビールを飲んでいたが、他の仲間にもこの気持ちを投げかけた。するとおばさん達から意外な声が返って来た。

 

「だってね。最近の雷人君は、カッコいいもの」

 

「はあ?俺がですか?」

 

女性陣はうんとうなづき自覚がない彼をあはははと笑った。どういうことか尋ねると女性陣はまず見た目がおしゃれになったと話した。


「髪型とか、その今着ている服とか」

 

「うん。似合っているんだよね、きっと」

 

高価な服では無いが、とてもおしゃれに見えると女性陣は話した。

 


「他にはね。そのスマホカバーとか、サイフ」

 

「うん。カッコいいよね」

 

「これか?ああ。そうかもな」

 

これらは全て光のプロデュースのものであったので、雷人は黙っていた。

さらに出て来た話も全て光が関係する話だったので、とにかく黙っていた。

 

「前はさ。すぐに怒ったりしたのに、最近はこう、穏やかでさ」

 

「わかる?優しくなったよね」

 

「俺は今までどう思われていたんだ……」

 

そういってチューハイを飲んでいる雷人を幼馴染はニヤと見つめた。

 

「なんだよ?」

 

「光さんだろう?お前、彼女と一緒に仕事するようになって変わったもんな」

 

「うるせ!」

 

恥ずかしそうにしている雷人が可愛ので、酔っ払い達は彼をからかった。そんなおかずにされた雷人は、早々に帰って来た。

 

……くそ……

 

雷人は、道にあった電話ボックスに入ってスマホで電話をした。

 

 

『何?』

 

「いつも思ってたけどさ。『何?』ってなんだよ……」

 

今日は険悪ムードで別れたことをすっかり忘れている雷人は、光の声に目を瞑った。

 

「あのさ……今日のお前の弁当、美味かったから」

 

『そう』

 

「あのさ……今日さ……光がくれた服着てたらさ。褒められた」

 

『よかったわね。ふっふふ』

 

酔って子供になっている彼に光もつい笑いが溢れた。しかし、早く帰れと彼に話した。

 

「そんなに俺と電話するのが嫌なのか」

 

『そうは言ってないでしょう?あのね、明日、また会うんでしょう?だからよ』

 

「嘘だ。嫌いなんだよ。だからだ……」

 

駄々を捏ねている彼に光は優しく囁いた。

 

 

『好きよ、私は。あなたのことを』

 

しかし雷人は首を横に振った。


 

「それはさ。仕事仲間ってことだ……。お前は俺を一人の男してだな」

 

『一人の男として好きよ。なんでも一生懸命で、優しいし』

 

「俺だって好きだよ。光は超優しい。いつも俺のこと助けてくれるし……」


『本当?そうは思えないけど』

 

「俺、嘘つかない」

 

電話の向こうの彼女はフフフと笑っていた。

 

 

『ねえ、雷人さん。わかったから。もうお家に帰りなさい』

 

「響もいないのに。俺、寂しいよ……」

 

今度はメソメソし出した雷人に、光は優しく話をした。

 

『わかった。あなたがお家に帰るまで私は起きているから。だから、家に着いたら電話をして?待っているから』

 

「……わーった」

 

なんか知らないがうまく誤魔化された雷人はとにかく家に帰った。そして親が寝て誰もいない居間でそっと光に電話をした。

 

「もしもし。着いた」

 

『よくできました。今夜はね。お風呂は止して、シャワーを浴びて寝なさい。歯磨きもして』

 

「はい」

 

これができたら自分の送るメッセージを読んでから寝ろといい、光は電話を切った。雷人はちゃんと言いつけを守り、寝る支度をした布団の中で光のメッセージを読んだ。

 

……おやすみなさい。良い夢を……

 

これを嬉しく読んだ雷人は寝た。

 

 

 

朝。

 

頭痛で目覚めた彼は昨夜のことを忘れていた。そんな頭の彼を迎えに来た光とエアコン取り付け工事に向かった。

 

 

「これ。薬」

 

「おう」

 

「ねえ、昨夜のこと覚えてないの?」

 

「昨夜?何のことだ」

 

「本当に覚えてないの?」

 

「大きな声を出すなよ……」

 

眉間にシワを寄せた彼を彼女は残念そうな顔をしたが、すぐに微笑んで真っ直ぐ前を向いた。

 

そんな雷人のスマホに元妻や婚活彼女からのメッセージが届いたメロディがした。

これに応じるように言った光の横顔は雷人にはとても寂しそうに見えていた。

 

 

つづく

 

 

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