第24話 ショック
「あら?やだな、もう……」
仕事を終えた雷人は市民体育館でバレボールの試合があるので彼を送った光だったが、今見ると車の助手席には彼の財布が落ちていた。
これに呆れた光だったが、この近くの工事を済ませて今日の仕事を終わらせて体育館に戻ってきた。
彼に財布を届けるというメッセージを送ったが、試合中のようで返事はなかった。彼のいつもの行動では試合後は飲み会に行くので財布は必要だと知っていた光は彼の返事がないが届けに来た。
……ブロック戦か。
何かの試合の予選だと聞いていた光は彼の指導する高校のジャージを着た大人を発見した。
「あの。電気通信高校の人ですか」
「そうですけど、あ、君は確か、雷人の仕事の?」
雷人の同級生で応援に来ていた独身山形は、光を知っていたのでどうしたのか尋ねてきた。
親切そうな彼であったが忘れ物が財布だったので直接渡したかった彼女は雷人の様子を聞いた。
「今から最終セットなんですよ。よければ応援してやってください」
「そうですね。一度観てみましょうか」
こうして光は山形に連れられて応援席で見ることにした。
「あ。雷人コーチの彼女さん?」
「違うんですけど。みなさん、応援なんですね」
以前、遠征に行く朝、選手と雷人を見送った光はその時一緒にいた母親達がメイクをして雰囲気が全然違っていたので驚いたが、山形の隣で観戦し始めた。
「このセットを取ったら勝ちです」
「向こうは結構長身で、こっちは大きい選手もいるけど」
そんな光はベンチで腕を組んでいる雷人を発見した。
ジャージ姿で真剣な彼の顔に思わずドキとしたが、試合を観ていた。
「うわ!すごい、今のレシーブ」
「うちのリベロはすごいんですよ」
「痛くないんですか?あのサーブを受けて」
純粋に試合を観ていた光だったが、ここにレシーバーが弾いたボールが飛んできた。
「きゃ!?」
「おっと!大丈夫かい?」
「大丈夫です……すいません、変な声を出して」
思わず屈んだ彼女を身を呈して守った山形だったが、ふと二人がベンチを見ると雷人がこちらをみて睨んでいた。
「なんだ、あいつ」
「怒ってますね」
そして目線を逸らした彼は、タイムを取り、選手に作戦を与えていた。
「何をするんでしょうか?」
「誰か。相手の選手を狙うのかな。他にはこっちの攻撃がちょっとワンパターンになってきていたから」
「タイミングもあるんですね。ふーん」
そして選手をコートの戻した雷人は、やはりこっちを見ていた。
「手を振ってみるか、おーい!」
「……いや。怒ってますね。私のせいかな」
勝手に試合を観にきたので怒っているかもしれないと思った光は、大人しく観戦していた。
やがて試合は電気通信高校の勝利で終わった。
「よし!次の試合は隣のコートなんだ」
「私は挨拶してきます。どうもでした!」
こうして光は、廊下を監督の誠と歩いている雷人に声をかけた。
「雷人さん!これ。財布」
「……届けにきてくれたのか」
「だって。この後、食事会とかに行くんでしょう?じゃ、誠先生も、私はこれで」
そういって帰ろうとした彼女の後ろ手を雷人は待った!と言わんばかりに掴んだ。
「誠は先に入ってくれ。お前さ……山さんと何を話していたんだよ」
「試合の説明よ?私、知らないから」
「本当にそれだけか?なんかさ。親しげだったから」
ムッとしている彼に光は本当にそれだけだと話した。
「さあ。行ってちょうだい。時間なんでしょ?」
「ああ……わーったよ」
やっと手を離した彼は、玄関まで送るといい彼女と歩き出した。
「じゃあな。気をつけて帰れよ」
「そっちもね。じゃあ」
靴を履いて出ていった彼女を彼は黙って見ていた。
こんな事があった夜。バレー関係者で飲み会が開催されていた。
「なあ。雷人!やっぱり光さんを紹介してくれよ」
「私でもいいですよ」
「誠まで?ダメだ。ダメ!絶対紹介しない。光だけはダメ」
山形はこんな彼に理由を尋ねた。
「光はな……ああ見えて職人気質で気難しいぞ??それに料理もできないし全く気が効かない。あんなのを嫁にしたら苦労するぞ」
「そうなんだ?」
「そうは見えませんけどね」
だから諦めろ!と話を変えた雷人は、夜、自宅に帰ったが、酔った勢いで電話をしていた。
『何?……』
「お前、あの後。無事に帰ったんだろうな……」
『もしもし?雷人さん?今、何時か知ってる?』
ベッドの上で寝る前のヨガをしていた彼女はコロコロ笑った。
「あのさ。俺さ。今日の試合……勝った」
『良かったじゃないの。良いから早く寝なさいよ』
クスクス笑っている彼女の声をまだ聞きたい彼は光に今、何をしているのか尋ねた。
『寝る前の体操よ』
「そうか。そんな時間か……」
『わかったなら寝ましょう?今、ベッドなんでしょう』
彼は光に誘導されるように布団に入った。
「……入った」
『良い子ね。じゃ、部屋の電気を消して……消したらこの電話を切って』
「電気を消した……じゃあ、俺は電話を切るのか」
『そうよ……おやすみなさい』
「あのな。光?俺って、明日もお前に会えるよな」
一緒に仕事があった光はそうだと囁いた。
『大丈夫よ。夢で会えるから。さあ、おやすみなさい』
「おやすみ……」
こうしてやっと眠った彼が朝、息子が起こすまで爆睡していた。
こんな彼を迎えにきた光は助手席に乗せて仕事に連れ出した。
昨夜の電話をやはり覚えていない彼は、彼女の上機嫌を不思議な思いで見ていた。
幹線道路は夏の暑さで陽炎ができていた。
この夏だけのカミナリと太陽のコンビは今日も暑く燃えていたのだった。
つづく
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