第20話 ドカンと一発


「なによ、あなたは」


「電気屋ですけど。お金は持ち出さないように見ていてくれって言われたんです」


「わ、私は会計よ!失礼ね!!」


会計の女が怒り出したので、他の保護者も集まってきた。




「おいおい。なんだって言うんだよ?」


「あ、雷人じゃないの。この女が私を犯人扱いするのよ」


「何やってんだ光は」


「……」


酔っ払い男とヒステリー気味の女に光はやれやれと思っていた。


「謝んなさいよ!失礼ね」


「光。この人は。この近所のお茶屋さんだぞ」


「……私の言い方が悪かったです。申し訳ありません」


スッと頭を下げた光に、女はまだ立腹していた。



「何よ。人に恥をかかせて」


「すんません。俺の連れなんです。よく言っておきますので」


こうしてこの場を免れた光は、雷人に面倒を起こした事を詫び、祭り会場から帰ってしまった。


「あれ?光さんは」


「なんだお前来てたのか。帰ったぞ」


「ふーん」


こうした嵐のような祭りであったが、終了の頃には浴衣を着替えた光が電気の照明を片付けに密かにやってきていた。



彼女は響だけを責任持って連れ帰り、雷人は幼なじみの友人達と飲みに行ったのだった。


その翌日は光と一緒の仕事がなかった雷人だったが、地域の役員が血相を変えてカミナリ商会に飛び込んできた。


「あ?雷人。お前のところの女の電気の人は?」


「光のことか?ここにはいねえけど」


「いや……。大変なことが起こったんだよ」


この話に雷人は、あの祭りの夜の、光の非礼の話だと思った。



「すんませんでした」


「違うんだよ?謝るのはこっちの方なんだよ……」


役員であり雷人の先輩の酒屋の若旦那は頭を抱えながら勧められた座布団に腰を下ろした。


「あの祭りと時、揉めたお茶屋さんな。夜逃げしたんだよ」


「夜逃げ?マジで」


ああ、と若旦那はうなづいた。



「町内会の金だろう?それに、PTAの金とか。とにかく使い込みをしてたんだよ」


「あの奥さんが?」


「ああ。あの祭りの夜にドロンだよ」


自分の店もツケを踏み倒された若旦那は、頭を抱えていた。



「あの祭りの時も、たぶん、金を狙っていたんだよ。他の会計も盗られたんだけど、あのレジだけはあの浴衣の女の人が見ていてくれたんで盗られずに済んだんだよ」


「そうだったんですか」


お礼を言いに来た若旦那に、自分から話をしておくといった雷人は、自分が光を信じなかった事に胸を痛めていた。


「父さんごめん。話を聞いちゃった」


「いたのか……」


こんな打ちひしがれた父に、息子は母の再婚を打ち明けた。



「そうか」


「あのね。お父さん。僕ね、ここに住みたいんだ」


「響……」


「母さんにはなんとか説得するから。時間がかかるかもしれないけど。僕にとってはどっちも大切な親だから」


「悪いな。こっちの理由で、お前に苦労させちまって」


そんな父を息子はまっすぐ見た。


「それはもう聞き飽きたし。それよりもね。光さんがね。正直に親に言えって言ってくれたんだ」


「光が?」


「うん。だからね。お父さんも、さっきの祭りの話をさ。光さんに正直に言ってよ」


「響……」


そういって息子は風呂に行ってしまった。


息子に勇気をもらった彼は、彼女に電話した。



『何?』


「あのな、済まなかった……」


雷人は正直に、あの夜の件を謝罪した。



『もう。いいのよ』


「良くない!本当に悪かった。すまん!お前は悪くなかったのに」


『……』


しばらく沈黙があったが、光は話し出した。


『ところで。響君はどうしてるの?』


「ああ。再婚話か。聞いた聞いた」


『……そう』


どこか寂しそうな光の声に雷人はドキンとしたが、光の声は優しくなった。



『響君を大切にしないとね』


「ああ」


そんな光は自分の事はいいから、響の事だけ考えろと言って電話を切った。

こうして風呂を済ませた雷人は、スマホをチェックした。


そこには婚活で知り合った女性からのメッセージと、元妻から、話があると言うものだった。



婚活彼女には『そうですね。お互いがんばりましょう』と送り、元妻には会う日時を送っていた。


……くそ。なんでこうなるんだよ……


そんな彼は息子から送られてきた光の浴衣姿の画像を見ていた。




綺麗だった。


彼女は息子にエールを送ってくれる優しい女性だった。


でも、ひどいことを言ってしまった。


でも、彼女は許してくれたのだった。



……どうすりゃいいんだよ……


バツイチ男は、ベッドに倒れ、やがて眠りについた。


夢に彼女が出てくることを祈りながら目をつぶった。








その翌日の夜。


光と一緒に仕事をした雷人は、改めて謝罪し、さらに息子の相談に乗ってくれた礼を言った。


「別にいいのに」


「よくない。お前を信じなかった俺が悪いんだから」


「いいの。あなたに信用してもらえない私がいけないんだもの」


「そんわけないだろう?俺が100%悪いの!」


この痴話喧嘩を見ていた響はすっかり呆れていた。



「わかった!あのさ、もう、それはいいから」


「「よくない!!」」


こんな息の合った二人に息子は吹き出した。



「おもしろすぎ?ね、早くやってよ」


「だってさ。雷人さん」


「おう。やったるぜ」



仲直りのつもりの夜のドライブで海に来ていた三人は、花火を上げた。

風で流れる花火は、あまり綺麗じゃなかった。




「風が強いからな」


「響君、寒いでしょう。私の上着を着て」


「ばか?光が寒いだろう。俺のヨットパーカーを着ろ」


「どうしてここで正式に言うのよ?フフフ」


そんな二人を響は無視して夜の海に石を投げていた。



仲直りの夜の海のイベントは、強い風が吹いていた。




 つづく




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