第19話 夏祭り

「……地域の夏祭りの照明」


「ああ。響が通っていた小学校でやる祭りなんだ」


地元の住人や小学校のPTAが主催する祭りの提灯などの照明を設置するため、雷人は毎年手伝っていると話した。


「お前も来いよ。ビールとか飲めるし」


「あなたは近所だけど、私は車ですけど?」


しかし、今までは輝男も行っていたが、今年は他の仕事があるので、光に手伝って欲しいと雷人は言った。


「ちゃんと手間賃もらうからさ」


「まあ、いいわよ。その日、あなたと仕事があるものね」


そんな二人は車でカミナリ商会に戻っていた。



「ところで。響君は戻ってきたの」


「ああ。祭りに合わせて帰ってくるってさ」


「良かったじゃないの」


そう言って口角をあげた彼女を雷人はどきとした事をバレないように運転していた。



「なんでお前がそんなこと気にするんだよ」


「あなたが落ち込んでいるのが面倒なだけよ。でもね、少し、子離れしたら?」


「うるせ!っつっか。そういうお前こそなんか趣味とかあるのかよ。いつも仕事ばっかで男もいないし」



「……まあ、そうかもね」


そう言って彼女は窓の方を向いてしまった。



「おい……怒るなよ」


「怒ってないわよ。いいから……帰りましょう」


「お、おう」


こうしてこの夜は微妙な感じで解散した。


そんなことがあった数日後。

夏祭りの日になった。



「本当にこの暑さでやるの?」


「まあ、日が暮れてくれば涼しいさ」


13時に小学校の校庭に集合し 祭り用のテントを張っていた保護者に混じり、光も提灯の用意をして行った。


そして準備ができたが、まだ開始には早かったので、光は幼なじみとお喋りに夢中な雷人を置き、一人で一先ずカミナリ商会に戻ってきていた。



「あ。響くん」


「光さん、暑かった?」


「暑いけど、あなたのお父さんはもっと燃えてるわよ」


「父さんは祭りが好きだから」


そんな光はカミナリ商会の小上がりに座り、まだ時間があるので、響と一緒にゲームをしていた。


「……でもそろそろ夏休みって終わりでしょう。ここにはあんまり来なくなるの?」


「そのつもりだったんだけど」


祖母の冴子は買い物に行き、他には誰もいないので、響きは胸の内を溢した。



「あのね、誰にも言ってないんだけど。うちの母さん、再婚しそうなんだ」


「そう」


「新しいお父さんって、真面目なサラリーマンでさ。良い人なんだけど」


「うんうん」


「……正直。気を使うんだよ。向こうもさ」


「それはそうでしょ」



光はあえて聞き役に回り、中学生の話を聞いてあげていた。


「だからさ。できれば僕は、ここのうちに戻りたいんだ」


彼は両親は離婚したが、母親と住むマンションもここから近いと話した。


「離婚した時は、僕、父さんがウザくて嫌だったし、お母さんが一人になっちゃうから母さんと住むことにしたんだけど……。離れてみると、なんか、こう、やっぱりここにいる時が一番かなって」


「そうか……まあ、正直に話してみたら?」


「父さんはなんて言うかな」


「雷人さんは平気よ。それよりもお母さんに話すのが難しいんじゃないの」


「そう……だね」


ここで冴子が帰ってきたので、二人は話を止めにした。

そんな冴子は涼しくなったので、響に甚兵衛を着て行けと出してきた。




「それ。藍色で、カッコいいわよ」


「でも、これって。どうしたのさ」


「これは雷人のよ。昔のだけど」


嬉しそうな祖母の顔を見た彼は、これに着替え満更でもないので着ていくことにした。


「でも、一人じゃ浮くかも」


「じゃあ、光ちゃんも着たらいいでしょう」


「私ですか?」


今度が冴子が娘時代の浴衣を出してきた。


「超かっこいい……ねえ、光さん、着てよ」


「はあ?なんで私が」


一人じゃ嫌だと言う響に言われた光は、奥の部屋で浴衣に着替えてできた。


「あらら?光ちゃん……綺麗に着付けた事?ずいぶん着慣れているみたいだけど」


「趣味でちょっと着る機会があるので」


半帯もきれいな文庫結びで決めた彼女は、長い髪を冴子にまとめてもらっていた。



「ひとまとめしにしたけど。なんか飾りっ気がないね」


「これは?おもしれーじゃん」


そういって響は、LEDライトがついた細いペンを光に渡した。


「確かに私は光ですからね。よっと、どう?」


耳にペンを刺すようにライトをさした彼女に冴子も大受けし、響も笑っていたが、彼女は暗くなったら付けようと言って響と会場まで歩き出した。


下駄がないのでサンダルの二人は仲良く歩いていった。


「ねえ、響君、さっきの話はね。私、黙っているから、自分で親に話しなさい。全然平気だろうけど」


「わかった」


「親だもの……あなたの事を一番に考えてくれるから、心配しなくていいわよ」


「ありがとう、光さん、あ?友達だ」


近くまで来ると彼は友人達と合流していた。



「かっこいいね、響君、あの、こっちの女の人は?」


「僕のお姉さんだよ?ね、光さん」


「あらまあ。光栄だわ?みんな、うちの響君をよろしくね。いじめるんじゃないわよ?」


中学生達はアハハと笑うと、子供だけで進んで行った。そんな光は、同僚の男を探していた。


「あ、いた?うわ何よ?べろんべろんじゃないの」


「はれ?ひはる?」


すでに出来上がっている雷人に呆れる光だったが、彼は浴衣美人の彼女に目を見開いた。


「……お前。本当に俺の光か」


「あなたの光じゃありませんが、光です」


するとそばにいた彼の仲間が、ここに座れと言うので彼女は腰掛けた。


「さっきから雷人があなたの事を言っていたんですよ?口の悪い性格ブスって言っていたんですけど」


酔っ払いの話に光は目を細めて雷人を見た。



「まあ?どの口がそんな事を言ったのかしら」


「痛ぇ!イタイタ!」


頬をつねられた雷人だったが、光は微笑んでいた。


「さ。飲みなさい。ビールなの?買ってこようか?何人ですか?」


はーいと男達の手が挙がった数だけそばにあった引換券を持った光は、生ビールをゲットしてきた。



「はい。雷人さん」


「おお?お前も飲めよ」


「私は車だって言っているでしょう?まったく」


そんな話も全然聞かない雷人はとにかく、楽しそうだった。光はそばにいた地域のお年寄りとノンアルコールビールでおしゃべりを楽しんでいた。


祭りはささやかなものであるが、参加者は楽しそうであった。その時、光は浴衣を着崩した中学生女子を発見し駆け寄った。


「ねえ。ちょっと直しましょうね」


「ありがとうございます」


トイレの隅で直した光は、浴衣女子にエールを送り、友人達の元に戻って行くのを見ていた。


そして光は、雷人が座るテントの席に戻ると、そばにいたPTAの役員の女性が忙しく動いていた。


「ええ?また両替なの?まいったなぁ」


「私が崩してきましょうか」


「いえ?私の家が店をしているので、すぐ戻ってきます」


ここから近い硝子店だと言う彼女は、ここのレジを他の役員と一緒に見張っていて欲しいと光に頼むと走って行ってしまった。


役員達は忙しく席を外すし、酒を飲んでいるので、一人素面の光は部外者でありながら、レジを見張っていた。


その時、白い服を着た女がやってきて、自分は会計なのでお金を数えると言って、お札を触り出した。


それを光はじっと見ていた。


「あの、すいません。お金は置いておいてもらえませんか」



つづく


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