第16話 渚のボーイフレンド
光が慌ててラジオを付けると、高速道路で事故があり、車が一般道に逃げてきた事がわかった。
「こんなんじゃ一歩も動かないし。どうしよう……」
そんな中、電話が鳴ったので彼女はコンビニに駐車をした。
『なあ、どこにいるんだよ』
「良かった!あのね、雷人さん。今、海を出たんだけど、交通渋滞で」
事情を話した光に、雷人は機嫌悪くしていたが、彼は練習試合相手の地元の人に抜け道を聞いてくれた。
『今は渋滞しているから動かないほうがいいってさ。まず、こっちに来いよ。逆方向だし』
「わかった。そこの高校に向かうね。はい、どうも」
こうして光は、雷人が滞在している練習試合先の高校までやってきた。連絡すると雷人が玄関までやってきた。
「お前。海に入ったのか」
髪をアップにし日焼けした彼女を見て、ジャージ姿の雷人はドキンとしていた。
「そんなことはどうでもいいでしょう?私達はどうすればいいの?」
「ああ。それがな」
バレー関係者は、布団は敷いてあるので一緒にこの高校に泊まって行けといってくれたと雷人は話した。
「ええ?でも、響君はともかく。私はそうも行かないわ。無関係だもの」
「し!だからお前は俺の彼女にしちまった。だから、いいんだ、泊まってけ」
夜も遅く、渋滞の運転と海でヘトヘトの光は、車の中で寝る!と頑張ったが、響に誘われ結局、甘えることにした。
バレーボール関係者は生徒に夕食を食べさせた後、近くの居酒屋に行くというので、光と響は余ったカレーライスをご馳走になった。
そんな光と響は女子マネージャー達と一緒に寝ることになり、響がいるのに女子会になっていた。
「ええ?詩織ちゃん。夏休み前に、同じ日に二人の男の子に告白されたの?すごいじゃないの」
「でも。振ったんだって」
「ええええ?もったいない?」
雷人がコーチをする高校のマネージャーの詩織は、他校の女子マネからツッコミを入れられており、光はただびっくりしていた。
「だって。好きな人は別なんですよ」
「詩織ちゃんは年上がいいんだもんね」
「年上か……」
そんな光に、女子高生は雷人との恋のなり染めを聞いてきた。
「はあ?私と雷人さん?あの、そのね」
今夜は恋人としてここにいるので、響が見つめる中、彼女は腹を括っていた。
「さ、最初はね。彼がぎっくり腰になったので、私は代わりに仕事を手伝いに行ったのよ」
うんうんと真顔で聞いている女子高生に混じって、響もゲームをしながら話を聞いていた。
「そしたらね。女に電気の仕事はできるはずがないって。怒っちゃって」
「雷人コーチはそういうでしょうね」
「最低。器の小さい男の考えだよ……」
そんな女子マネに光は雷人をカバーするように話を続けた。
「でもね。私が工事を済ませたら、翌日、ちゃんと謝りに来て。『君みたいな綺麗な女の子が工事の仕事ができるなんて思わなかったって』……」
「「キャ〜〜〜❤️」」
少しデフォルメ気味の話を、響は笑いを堪えて聞いていた。
「そして?」
「早く言ってください!」
「はいはい。そしてね……」
この夏、自分と一緒に電気工事をいて欲しいと言われたと光は話した。
しかし、これでは交際した話にならないので若者達は納得できない!と布団で暴れ出した。
「待って?あのね、その」
「光さん。好きになった時はいつなの?」
「え?あ、そうだね。えーと」
響に助け舟を出してもらった光は、うーんと考えて、彼が自分のお弁当をおいしそうに食べてくれた時だと話した。
「また、つくってくれって……」
「「きゃ〜〜💕」」
恥ずかしそうに話す光を見て、大騒ぎの中、ノックの後、急にドアが開いた。
「おい!うるさいぞ」
「「「きゃあ?―――」」」
突然の雷人の登場に、女子はみんなで叫んでしまった。
「うるせえ!もう寝ろ。おい、響はこっちだ、俺と寝るぞ!そして光。ちょっと来い……」
「は、はい?」
ドキドキの光は廊下にやってきた。そこには雷人がムッとして立っていた。
「あのな。俺達は一応、交際し始めたばかりのカップルになってるから。話を合わせろよ」
「はいっ!」
「それとな。あのな」
どうも話をしにくそうな雷人に、光はちゃんと話合わせるので心配しないでと話した。
「そうじゃねんだ。そのな、今日は響と海に入ったんだよな」
「ああ。その事?ごめんね、心配かけて。でも響君、上手だったよ」
「違うんだよな……」
そういって雷人はそっと光の肩に顔を埋めた。彼からはお酒の匂いがした。
「お前さ、なんだよあの水着は」
「は?普通でしょう?」
「ビキニだろう。ガキを誘惑してどーすんだよ」
「誘惑?あのね!」
彼女はトイレに便利なのでビキニにしたし、その上にラッシュガードを着ていたのでセクシーではないと断言した。
「あの写真の時だけ、ビキニになったのよ」
「……光。あのさ。お前、響が好きなのか」
「は?そんなわけないでしょう?中学生だし、ねえ。雷人さん!あれ?」
「ZZZ……」
自分に抱きついたまま眠るというあり得ない事に驚きつつ、それだけ疲れていたのかと気がついた光は、彼を優しく抱き寄せ、成人男性の部屋まで雷人を連れてきた。そして待っていた響に託すと、彼女は女子マネージャーの部屋で大人しく眠った。
翌朝。
雷人は息子に起こされた。
「は?そうか、響か」
「……二日酔いのなの?さあ、朝ご飯だってさ」
バレー部員達は早朝からトレーニングをしており、酒を飲んだ大人達はヨロヨロと食堂に顔を出してきた。
「おはよう。雷人さん、顔洗ってきた?」
「ああ。なあ、光。俺、ご飯少しでいい」
「はいはい」
こんな二人は一応恋人同士なので、隣に座って朝ごはんを食べていた。
「よく眠れた?」
「おう」
「二日酔いは?」
「少し。でも治る」
「あ、そう。でも水を飲みなさいね」
ここに響がやってきて今日の予定を聞いてきたので、光は片付けをしたら帰ろうと話した。
「なあ。お前らって、もう海は行かないよな」
「ええ。まっすぐ帰るわ。どうして?」
「……」
「光さん。お父さんはね、光さんの水着が見たかっただけだよ」
「おい!あ、頭が痛ぇ……」
「響君?そ、そんなわけないじゃないの」
しかしここで女子マネージャーの詩織が牛乳を配りにきたので、3人は話を恋人風に切り替えた。
「まあな?お、俺だって見たかったよ。お前の水着姿」
「そ、そう?じゃ、今度。一緒に行きましょう?海でもプールでも」
恋人会話を装った光に、雷人はニヤと笑った。
「マジで?約束したからな?絶対行くぞ。あ、響は留守番な」
「……お好きにどうぞ?」
こんな悪ノリ父子に彼女は強気で話に乗ってみせた。
「悪いわね。響君」
「……光、なあ」
「ん?」
ここで雷人はヒソと彼女に耳打ちした。
「マジで約束したぞ!さ、俺は練習だし?」
「はあ?」
こんな困った仕事仲間を置いて彼女は響を乗せて車を動かした。
帰り道の助手席ですやすや眠っている少年の寝顔が、彼にそっくりなので、光は何度もこれを見ながら自宅へとハンドルと切るのだった。
つづく
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