第15話 海のイエーイ
「やば!俺とした事が」
「今度はなんなのよ」
母校のバレーボールのコーチをしている雷人は、大事な練習試合の日に、うっかり電気工事の仕事を受けてしまったと話した。
「やべえ。どーすっかな」
「なんの工事なの?私が行ければ行くけど」
「そーしたいんだが、そーもいかねぇんだよな……」
雷人の仕事は海水浴時の海の家の電気工事の仕事だった。
「海の家なら私でもできそうだけど」
「あのな?夏の海だぞ?サーフィンとか、その、ナンパとかいるぞ」
「別に。無視すればいいじゃないの」
「くそ〜〜なんでこんなにイライラするんだよ。あ、電話だ、もしもし」
今はちょうど次の仕事先のそばまで来ていたが時間よりも早く来ていたのでスーパーの駐車場で時間を潰していた二人だったが、雷人は電話に出た。
内容は今話をしていた練習試合の話だった。
「そうか。わかった。誠、また後で連絡する……あのな、光さん。お願いできますか」
「いいけど。どうしたの?」
引率する監督の誠が、その日は学校の用事があり遅れて現地に向かうと話した。
「場所は千葉なんだ。そうか?海も千葉だし、ならいいか」
「一人でも平気だってば」
こう話をしてこの日は別れたが、雷人は光を一人で行かせる事がものすごく心配だった。
この話を夕食時に聞いていた冴子は、響をお供に行かせたらどうかと話した。
「僕が?」
「だってお前。夏休みなのにどこにも行かないし」
光と一緒に海に行って来い、と祖母は言い孫のグラスに麦茶を注いた。
「そう言う事ならいいよ。僕は光さんのそばにいればいいんでしょう」
「そうだ。お前は背もあるししっかりしてるからな。それならおじいちゃんが小遣いをやるから遊んでこい」
「やったぜ?あ、どうしたの、お父さん」
「別に……ごちそうさまでした」
こんな雷人は自室で光に電話をした。
『何?』
「あのな。海の家なんだけど、響がお供として一緒に行くって言うんだけど、邪魔だよな?」
しかし彼女は嬉しいと話した。
『だってあの子、可愛いもの。大丈夫よ、海に入る時はちゃんと見てるから』
「可愛い?くそ……」
こうして後日打ち合わせをした彼らは、それぞれの目的地にやってきた。
「響君。ここで待ってね」
「うん。のんびりしているよ」
まだ海開き前の海水浴場。水着ではない響はハーフパンツとTシャツ姿で水平線を向こうにのんびり昼寝をしていた。そんな中、光は海の家の電気の配線を付けていった。
「しかし、女とはね。珍しいって言われるでしょう」
「はい。で、照明はここですか?」
テキパキ工事をする光に、海の家の主人は感心していた。
「まあ、男女平等の世の中だもんな」
「そういうわけではないですよ。だって、男の人でも機械に弱い人だっているじゃないですか」
女でも力仕事ができる人もいると彼女は説き始めた。
「それに。ハンディキャップがある人だっているので。まあ、男女平等というよりも適材適所ですよ」
「なるほどね。じゃあ、女の電気工事屋さんの適所って何だい?」
「女子高校の更衣室、後は女風呂の電気工事はご指名で受けてますよ」
「ハハハハ。それはそうだ?」
こんな話をしながら光は工事をさっさと済ませたのだった。
「さ、響君。私は終わったよ」
「もう?」
そんな光はこの先の海水浴場では遊泳ができると話した。
「ね、行ってみよう。水着はあるもんね」
こうして光は響を誘ってボディボードをしにやってきた。
「僕やった事ないよ」
「大丈夫!見てよ、子供もいるし」
この日は気温が低いので少ない海水浴客の中、二人は海に入った。
響はボティボードは初めてだったが、波がいい感じであり光の指導であっという間に形になっていた。
二人で沖に向かって泳ぎ向きを変え岸を見て待つと、やがて背後から大きな波がやってきた。二人はこれに乗ろうと腹にボードを置き必死にバタ足をした。
そして波が頂点になる前にこれに乗る事ができた二人は、波が崩れる瞬間、白い波を敷くように岸に向かって流れていった。
「キャーー!響君❣️」
「ヤッホーーー光さん!アハハハ……」
こうして岸まで波に乗った二人は、楽しさでまた沖へとチャレンジするのだった。
そして疲れた頃、二人は岸に上がった。
「はあ、はあ。超たのしい!」
「はあ、はあ、でも、疲れた。ほら、飲み物」
太陽が西へ傾く時間。二人は腹が減り、買っておいたコンビニのおにぎりを食べた。
「おいしい……お腹が空いているから、めちゃうま」
「良かった。あれ?またメッセージが来ていた」
確認すると雷人が心配してる内容だった。
「どれ。今は練習しているはずなのにダメなコーチだし?あ。光さん写真撮ろうよ」
そういって響はパシャ!と水着の光とツーショットを撮り父に送信した。
「これでよし!さあ、もう一回泳ごうよ」
「オッケー!でもこれで最後ね」
27歳の光と14歳の響はこうして夕暮れまでボティボードで遊んだのだった。
「さあ。帰ろうか」
「うん。なんか、疲れたね。ふわ?」
海の家でシャワーを浴び、帰り支度をした二人は光の運転する車に乗り込んだ。これに乗った途端、響は爆睡した。
この可愛い寝顔に微笑んだ光は、一路帰り道へと車を走らせた。
「え?なにこれ?」
道が大渋滞しており、道路は車のブレーキランプで真っ赤になっていた。
つづく
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